第156回 2018年上半期「新築マンションは相変わらずの高値」

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このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

不動産経済研究所から上半期の調査結果が発表されました。このデータから読み取るべき点をお話ししましょう。

 

●発売戸数は少し増えたが・・・

首都圏全体の供給戸数は15,504戸・前年同期比(14730戸)で5.2%増となりました。地域別にみると、東京23区7008戸から7155戸に2%増、東京市部2154戸から1635戸に24%減、神奈川県2832戸から3008戸に6%増、埼玉県1432戸から1676戸に17%増、千葉県1302戸から2030戸に56%増となっています。

 

東京都は23区が僅かに増えたものの市部は大きく減らし、変わって埼玉県と千葉県が大幅増という格好になりました。

 

郊外部の供給は増加傾向にあるのでしょうか?そう思える材料はまだ見当たりません。

 

全体の戸数が5.2%増えたものの、年間ではどのくらい増えるでしょうか?不動産経済研究所の見通しでは昨年より増えて38,000戸としていますが、半期で15,000戸なので、後半で23,000戸も出るかは疑問です。ちなみに、2017年は後半で21,168戸、2016年も21,318戸、2015年も22,431戸だったのです。

 

昨年よりは少し増えるかもしれませんが、36,000戸程度ではないかと考えています。年間36,000戸は過去2年と大差ありません。需要に見合うレベルではないことに問題があります。

 

首都圏全体の供給戸数は、2014年:44,913戸、2015年:40,449戸、2016年:35,772戸、2017年:35,898戸と推移しています。4年間の平均は、39,258戸ですが、この戸数は需要に見合っているのでしょうか。

 

その答えは微妙というほかありません。需要は減ったり増えたりするからです。価格が上がり過ぎれば需要は後退したり、中古マンションに流れたりするのです。平たく言えば、しばらく様子を見ようと考える人が増えて水面下に消えてしまいます。しかし、永遠になくなるわけではなく、潜在需要として姿を一時隠すだけのことです。

 

首都圏全体の人口が減ったわけでも、住宅を必要とする世帯数が減ったわけでもありません。住宅購入期の適齢期とされる30代半ばの世帯が少子化のせいで減ったかもしれません。団塊2世と言われる40歳過ぎの年代よりは減っているのは確かです。しかし、代わりに幅広い世代で需要が増えていますし、単身者需要も晩婚化などから40代後半の年代で伸びています。駅前マンションには、シニア層が遠くの一戸建てから移住しようとしていたりします。

 

こうした需要の合計数は、首都圏全体で少なくとも45,000世帯はあると考えます。とすると、39,000戸の供給戸数では足りないことになります。

 

●価格が問題

潜在需要を合わせた数で、買いたい人・必要な人はたっぷりあるとしても、価格が高過ぎれば諦めるしかない人も増えます。上半期の価格動向はどうだったのでしょうか?

 

首都圏全体の平均は、坪単価で@280万円から@289万円に3.2%高くなりました。2017年も前年同期比4.0%アップでしたが、下半期で大幅アップの月が連続し、年間では8.4%も上昇する結果となりました。

 

2018年の後半もまさか同じような推移になるとは思いませんが、前年比で下落するような動きは全く見られないのです。筆者の年初予測で2018年は相変わらずの上昇としておりました。当たってほしくないですが、買い手にとっては不幸な結果になるかもしれません。

 

念のために、地域別の価格も見ておきます。

23区は@354万円から@363万円に2.5%アップ、東京市部が@235万円から@245万円に4.2%アップ、神奈川県は@230万円から@261万円に13.5%アップ埼玉県は@201万円から@202万円に0.2%アップ、千葉県が@183万円から@201万円に9.7%アップとなりました。

神奈川県と千葉県の大幅上昇は大型の特定物件が平均を押し上げたもので、全般的な傾向ではないのですが、上昇トレンドに変わりはありません。

 

●売れ行きがぱっとしないのだが・・・

価格の高騰に購買力が追い付かなくなれば、需要は必ず後退します。それを表すのが契約率で、不動産経済研究所では、長年に渡って調査を続けています。

契約率には年間を通じてのものもありますが、毎月のデータ「初月契約率」が注目データです。

 

初月契約率とは、ある月の新発売マンションが当月末までに何%契約になったかという指標です。正確には「購入申し込み率」のことで、後にキャンセルになってしまうものも含んでいるのですが、トレンドを見るには十分な統計です。

 

上半期の6か月の推移は、65.2%・・65.0%・・74.7%・・63.0%・・62.2%・・6.0%で、3月だけは70%を超えているものの、あとは60%台と低い数字です。

70%は好不調の分岐点と言われています。ちなみに、2015年は平均で75%台と好調でしたが、2016年は68%台、2017年も68%台と低下しているのです。

 

100戸のマンションを例えば20戸ずつ5回に分けて分譲する「分割販売」方式を採用するのが一般化していて、売れそうな数だけを新規販売と称しながら売り出すのですが、それでも70%未満にとどまってしまっているのが実態というわけです。

 

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売れ行きが好調とは言えないにも関わらず価格は下がらない。新築マンションの価格とはそういうものです。今回も、改めて新築マンション市場の構造を確認しただけとなりました。

 

●価格が下がらない理由

不思議に思う人もあるので最後に補足をしておきましょう。

それは、売れ行きが悪くなっても値段がなぜ下がらないかです。これは表向きの数字だけで集計したものだからです。水面下では僅かに下がっている物件もあるのです。

 

水面下とは、買い手との個別交渉では内々に下げてしまうことがあるからです。下げて販売したことを売主は知られたくないのです。

 

堂々と値引き販売をする場合もあります。いわゆるモデルルーム販売ですが、今週の雑誌SUUMOには、4248万円を3840万円に408万円のPRICE DOWNという表示の物件がありました。

 

これらの数字を見ると、明らかに10%ダウンだったりします。しかし、調査会社がその価格を把握することはしません。既に集計の終わった発売済み住戸なので、その修正はしないのです。

 

では、未発売住戸を売主は下げたりしないのでしょうか?未発売住戸を値下げして売るなら、下がった価格として集計されるはずです。

ところが、売主はその決断はしません。販売に苦労すると分かっていても、当初の予定価格、つまり前期の販売価格に準じた当期価格で売り出します。

未発売住戸を値下げ修正すると、先行契約者に知られることとなり、クレームにつながる恐れがあるからです。例えば5%を超えるような大きな下げはできないのです。

 

●値上げは先行契約者を喜ばせるが・・・

分割発売の初期から回を重ねるに連れて値上げする売主もないことはないようです。S不動産が有名です。これは、統計数字に影響します。初期に契約した人は、値上げを知って「安いうちに買っておいてよかった」と安堵します。

検討中の人は、S不動産以外でも同じような挙に出ないかと気になるかもしれませんね。多分ないでしょう。しかし、心配な人は「売れ行きが好調でした。安過ぎたのです。だから次回から大幅な値上げするなんて、S不動産のようなことはないでしょうか?」と聞いてみるといいかもしれません。

 

同じ面積の5階が5000万円であるとき6階が6000万円などとしないのが普通です。せいぜい5100万円とか5200万円です。1000万円も高くするのは、前面の建物の屋根を越えて遠くを見通せるといった理由、つまり合理的な説明ができなければ買い手は納得しません。そのようなことをすれば、顧客離れを起こします。企業イメージも損ねます。従って、常識的には極端な値上げはしないものです。値下げも同様、「逆も真なり」です。

 

それでも値上げを断行するS不動産は、「マンションは唯一無二。競争相手もいない。良いものを作れば顧客離れは起きない」などと考えているのでしょうか?値上げしたために売れ残る。それでも「ゆっくり売ればいい。値引きは許さない」と号令。よく分からない企業です。

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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