このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております。
5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
中古マンションの調査をして気になるのは、仲介業者の経営戦略と営業の仕方です。今日は、マンションの売買における仲介業者の利用の仕方について考えてみました。
●仲介手数料だけで経営が成り立つかの考察
新築マンションの開発・販売(分譲ビジネス)は、売れないときには多額の在庫を抱えるという大きなリスクが伴います。これに対し、仲介ビジネスは多額の資金も要らず、在庫を抱えるリスクもないので、大きな売り上げも高い利益も得られない代わりに細く長く経営を続けることが可能です。いわゆる町の不動産屋さんとして社長一人に従業員数人といった零細企業が日本中に何十万軒とあります。不動産屋がない駅を探す方が難しいほど、大抵の駅には少なくとも1軒はあります。ターミナル駅になると、大手系列の仲介業者とチェーン店の看板を掲げた零細な仲介業者が軒を連ねたりしています。
そんな見慣れた光景に、不動産屋って儲かるんだなあとか、つぶれない業界だなあと思った人も少なくないと思います。大手デベロッパーに籍を置いた筆者も、デベロッパーの栄枯盛衰の歴史を知っているだけに、仲介業界は安定しているなあと感じますし、細く長く生きて行ける世界とも思います。
筆者の後輩で仲介業を始めた人物が何人かいますが、「泣かず飛ばずですよ」と笑いながら今も日々の活動に勤しんでいます。
仲介部門に在籍したこともない筆者には、経営の真髄までは分かりませんが、研究していくと色々な側面が見えてきます。
後輩に聞きました。「君の店では売買の仕事は少ないのだろう?」「年に5~6件ですかねえ」と後輩は答えました。「安定収益は?」「賃貸マンションのオーナーから管理を任されているのと、賃貸の斡旋で何とか」。予想した通りでした。
売買をメインにしている、別の仲介業者にも聞きました。「買い手探しは大変じゃないか」と。「そうですね。お客さんの多くが大手に行ってしまいますから」「じゃあ、どうやって売買の手数料を稼ぐのかね?」。すると、「売り物件の依頼を受ける方に重点を置いています」と答えました。「どうやって?」と追及すると、「手数料ゼロ作戦です」と返ってきました。
この業者は、有名な高級・高額マンションにターゲットを定め、「ご売却は当社へ。手数料はいただきません」と謳ったチラシを宅配すると、ときどき反響があって、直の売り物件を確保することができるそうです。有名物件、人気のある物件は買い手を見つけやすいので、インターネットに広告を出せば買い手が見つかるというのです。
1億円の物件なら、買い手からの手数料だけで300万円以上になるので、営業マン一人当たり2か月か3か月に1件決まれば、経営的にも成り立ちそうです。
本音に迫ると、実はそうたやすく売り依頼を確保できるわけでもなさそうで、1億円未満の一般マンションの場合は、手数料を半額にして大手に対抗しているのだそうです。
仲介業者の幹部に聞くと、「いかに売り依頼を取るか」が経営上の目標だと言います。売り依頼さえ取れば、買い手は東京中の業者さんが探してくれるので売る方は困らない。決まれば売主さんから黙って手数料が入るからです。
つまり、売り物件をゲットしたら、左うちわで儲かるというわけです。でも3%しか入らないじゃないかと言うと、「3%で十分です。大手ではないので」。
その大手仲介業者ですが、売主・買主両方から手数料を頂く「両手取引」を狙うと言います。ある大手は平均すると5%の手数料を稼ぐと聞いたことがあります。
テレビコマーシャル、大量の店舗、大量の間接部門の社員などに係る経費を賄うには、3%では採算がとれないのでしょう。
●仲介業者の争い
2人か3人でも成り立つ仲介店舗。免許さえ取れば、あとは電話とデスクだけで開業できるのが仲介業です。それだけに、業者は雨後のタケノコのように誕生します。東京都だけを見ると、現在2万4千社(2018年3月末)もあり、前年度比308社も増えています。中古市場の取引件数も取引額も、新築の品不足もあって、このところ増えていますが、それにしても物凄い数の業者数です。それでも生きて行ける世界なのでしょうか?
知人の社長は言いました。「会社を大きくしたいのだけど、過当競争の中で成長させるのは簡単ではないと」。「今は、インターネット中心の営業なので、これをうまく活用すれば、素人みたいな業者でも会社を大きくできますが、ITに弱い企業は生き残っていけないかもしれません」と。
●半額でいいという業者も多い
過当競争の結果、手数料ゼロで請け負いますという業者が現れる一方、買い手集めのために、「手数料は半額でいい」という業者も増えているそうです。調べてみると、売り物件を直に確保している数は僅か、多くが他社受託物件なのです。従って、成約になっても買い手からしか仲介手数料は取れないので、半額にしたら採算が取れないのではと余計な心配をしてしまいますが、それで採算を取るとしたら、「薄利多売」しかないに違いありません。
その方法で多数の買い手を獲得できれば、経営的には優秀ということになるのかもしれません。しかし、何かが欠落している。筆者にはそう思えて仕方ないのです。
●仲介業者の営業に疑問
ベテランの仲介営業マンである知人のYさんは、「仲介営業というのは、新築マンションのような特定物件の専任ではないので、既製服に無理やり体を合わせるような営業はしなくていいのです。数ある中から顧客の体と感性に合う服を見つけて来ることが優先します」と言ってくれました。中古マンションには独占販売権はなく、市場に出ている物件は誰もが買い手を探して売っていいはずです。REINSという業者だけの専門サイトがあり、そこに登録されている物件は業者間の公開物件なのです。
Yさんは、買い手の希望する条件に合うものを懸命に探して、絶え間なく紹介しているそうです。紹介を受けた物件を買い手は目を通し、例外なく見学に動くと言います。中には気に入らない物件もあったでしょうが、必ず内覧希望が入るというのです。「下手な鉄砲 数撃ちゃ当たる」式に物件を紹介するのではないともYさんは言います。
そうだとすると、顧客の条件をよく把握していること、好みまで理解してのことでしょう。当然、パフォーマンスも高いはずです。周囲に尋ねると、案の定Yさんは優績社員とのこと。
Yさんとの会話で感銘を受けたのは、案内前の事前準備でした。筆者の経験では当たり前と言いたいところですが、中古物件の資料は新築ほど整備されていないことが多く、買い手も業者から提供される資料・情報が少ないために結論が出しにくい状態にあることが一般的です。
そこを補うための情報収集は必然です。買い手に安心感を与えるための営業として当然ですが、ここが足りない営業マンが多い気がするのです。
買い手の不安は、「そのマンションを買っても大丈夫か?」、「高い気がする。本当のところはどうなんだ?」、「建物の瑕疵など、隠れた問題は何かないか」、「この時期、本当に買って良いのか?」、「将来の売却に問題はないか」などです。
中には「見始めたばかりで判断力がない。もう少し見学しながら研究したい」という人もあるでしょうから、そのような場合に備えて、学習用資料をコピーして渡すとか、参考資料のタイトル一覧だけをプリントして携帯し、その中から選んでもらった資料をその日のうちにメールで送るといった、きめ細かな対応が必須なのですが、営業マンの多くはこの対応力に欠けることです。
買い手さんから筆者に届くご相談メールの行間から感じるのは、この部分です。
●「手数料半額」営業の疑問
大手仲介業者を称賛するわけではなく、むしろ筆者は中小業者の中に優れた営業マンがいることを知っているので、ここからは、買い手にとってどのような業者を選ぶべきかというテーマに移ります。業者というより、実は営業マンと言う方が適切なのかもしれません。
業界を問わず営業マンにはノルマがつきものです。仲介業界も多くがノルマに追われています。目標と言い換えてもいいですが、目標を達成するために、営業マンはそれぞれに工夫を凝らします。様々な努力を傾倒します。
しかしながら、これも個人差があって「工夫をしています、努力しています」と言いつつも、力不足、努力不足の営業マンがいるのも現実です。まして、手数料半額の業者になると、一般業者の2倍の数字を追わなければならないという事情もあるに違いないのです。
買い手にとって手数料半額というのは甘いお誘いかもしれませんが、優先すべきは的確(てっかく)な顧客対応をしてくれる会社かどうかにあります。
「手数料が安いので当社には多数の買い手さん集まりますが、社内の競争も激しいのです」と言いながら、手数料半額業者の営業マンは買い手に結論を急がせるのだというのです。慌てた買い手は、筆者に「物件の評価」を依頼して来ます。
最近も、「心配なこと」と題して7つもの質問を並べてのご相談が届きました。
「今週の〇〇日までに返事を迫られていますので、前日の〇〇日までにレポートを下さい」というわけです。
お答えするのは筆者にとって造作もないことですが、この種のご相談は手数料半額か否かを問わず、とても多いのです。筆者は、かねて疑問に思って来たことです。「どうして営業マンは、買い手の疑問や心配事に応えようとしないのだろうか?」と。
ある日、知人の営業部長さんの発言から答えが見つかりました。仲介営業は、セールテクニックにばかり走るということのようです。
「案内が何件も入っています」「来週もたくさん入ると思うので、できたら金曜日までに返事をいただきたい」、「週末が来る前に決まってしまうこともあるので一日でも早い方がいいです。なにしろ先着順ですので」、「お考えいただいている間を利用して、ローンの仮審査を先にしておきませんか?」、「出来上がっていない新築マンションより現物が見られる中古の方が安心できますよね」、「パーフェクトなマンションはありませんから」といった言葉が目立つのです。
営業マンたる者は、「この買い手は判断するに足る予備知識を備えているのか、足りないとしたら、それはどのような部分か、気に入らない部分もあるようだが、妥協できない類のものか、ネックはどこにあるのか、購買意欲が盛り上がらない理由はどこにあるのか、心配な点はどこか、見学前と見学後のイメージギャップはどこにあるか」、こうした部分に思いを馳せながら買い手との会話をリードしなければなりません。
そうして、顧客ごとに問題点を整理して、あらゆる解を見つけて行く作業を顧客とともに進めることが大事です。
案内後に、「いかがですか、良かったら申し込みしてください」の一辺倒営業では買い手も困ってしまうはずです。気に入っても結論が出せなくて、もたもたしているうちに別の買い手にさらわれてしまうからです。
半額の手数料がいくら魅力でも、こんな営業をされたのでは縁をつなぐことは難しいと筆者は思うのです。しかし、それを営業マンに期待するのは大手であろうと中小であろうと不可能かもしれません。客に営業マンを選ぶ術はないのですから。今日のテーマの結輪はどうやらここになりそうです。
そうであれば、方法はこれしかありません。