KYBによる免震・制振ダンパーの検査データ改ざん問題。
自分が住んでいる、あるいは購入しようとしている免震マンションにデータが改ざんされた免震ダンパーが使われていたとしたら、大丈夫なのか気になるところだろう。
【もくじ】
◇データが改ざんされた免震マンション名は非公表
◇データが改ざんされた免震マンションの件数(推定)
◇売主は安全宣言を出せない…
◇大地震が来ても建物が倒壊するようなことはない
◇専門家らの見解(過度な心配は不要だが…)
◇免震・制振ダンパーの交換・補償費用は?
データが改ざんされた免震マンション名は非公表
KYBが免震・制振ダンパーの性能検査記録データを改ざんしたのは、全国のマンションや病院、事務所、庁舎など調査中を含め986物件(次図)。KYB社は10月19日、免震・制振装置のデータ改ざんの疑いがある986件のうち、関係者の了承が得られた庁舎70件を公表した。今後、公共性の高い建物から順次公開できるようにしていきたいとしている。
データ改ざん件数が最も多かった住宅(265件)の建物名は公表されていない。まあ、自分が住んでいるマンションの免震・制振ダンパーに不具合があるなんて、知られたくないだろうから当然と言えば当然の対応だろう。
データが改ざんされた免震マンションの件数(推定)
では、実際のところ、データが改ざんされた免震ダンパーが設置されているマンションはどのくらいあるのだろうか。推定してみよう。東京カンテイが15年10月29日に、「全国 免震・制震マンションの供給動向報告」を発表している。同報告のなかには、「東京都免震・制震分譲マンション棟数(累計)」グラフが掲載されている。95年~15年までの間に供給された、免震・制振分譲マンションの累計棟数の値が表示されているので、可視化してみた(次図)。
KYBでデータの改ざんがあった時期は03年1 月~18年9月。東京カンテイのデータでは、03~15年の間に免震マンション117棟(年平均9棟)、制振マンション93棟(7棟)が供給されている。
よって、03年1 月~18年9月の間に都内で供給された免震マンションは140棟(=117棟+9棟×2.5年)。
KYBの免震・制振ダンパーは「国内シェアトップの約45%を占めている(日経新聞 10月17日)」ということと、「7割以上が国土交通省や顧客が指定した基準を満たしていない疑いがある(毎日新聞10月18日)」ことから、都内の免震マンション44棟(≒140棟×45%×70%)くらいにデータ改ざんダンパーが設置されているのではないのか。
売主は安全宣言を出せない…
竣工済みの免震マンションの免震ダンパーの交換となると、これから免震ダンパーを製造し、ゼネコンとの調整やマンション住人への事前説明など、時間が掛かりそうだ。現在販売中の新築の免震マンションであれば、竣工までにデータ改ざんダンパーが取りかえられれば、何事もかなったように済ますことができるが、KBYの製造能力から、免震・制振ダンパーの交換が完了する時期は最短でも2020年9月と報道されている。
現在販売中の新築免震マンションに、KBY社製の免震ダンパーが使われているのかどうか、売主には「速やかに安全宣言を出してほしい」という声がある。でも、ヘタに安全宣言を出してしまうと、同じ売主から安全宣言が出なかった免震マンションは早くても2020年までデータ改ざん物件であり続けることが世間に知れてしまう。そうなると資産価値への影響が免れないので、軽々に安全宣言など出せない……。
とはいえ、自分が住んでいる、あるいは購入しようとしている免震マンションにデータが改ざんされた免震ダンパーが使われていたとしたら、大丈夫なのか気になるところだろう。
大地震が来ても建物が倒壊するようなことはない
KYB社が10月16日に発表した資料「当社及び当社の子会社が製造した建築物用免震・制振用オイルダンパーの検査工程等における不適切行為について」によれば、第三者による安全性の検証(構造計算)を実施した結果、「震度 6 強から 7 程度の最大級の地震に対しても十分耐え得る結果を確認」したとされている。なぜ、最大級の地震に対しても十分耐え得るといえるのか?
たとえば、免震用オイルダンパーが8本使われている「物件B」(次表のピンク線囲み)は、「大臣認定での基準値が±15%以内」に対して、最大乖離値が31.8%(基準値15%を大きく超えている)が、免震層の変形51.9%(基準:100%未満)と上部構造の変形1/331(基準:1/100 以下)はいずれも基準を満足していることが分かる。
従って、この第三者による安全性の検証(構造計算)の結果にウソがなければ、たとえ大地震が来ても建物が倒壊するような心配はしなくてもよいということになる。
(KYB発表資料)
専門家らの見解(過度な心配は不要だが…)
建築耐震工学や地震工学に詳しい福和伸夫名古屋大学減災連携研究センター長・教授は、「過度な心配は不要」だとしている。材料の製品ばらつきや、温度による特性の変化、経年的な変化などについて許容値を定めます。建築構造設計者は、免震材料の特性の変動幅を考慮しつつ、建物の設計を行います。このため、免震装置の性能が設計値とある程度異なっていても、安全上の問題は生じにくいと言えます。
(ダンパー改ざん、不正は許されないが安全への過度な心配は不要、技術への信頼失墜は重大(福和伸夫) – Yahoo!ニュース 10月20日)
では全く心配しなくてもいいのかといえば、そうではない。
免震構造に詳しい高山峯夫福岡大学工学部教授は、自身のブログで、不適合な免震オイルダンパーが使われていると「建物が少し揺れやすくなっている」と指摘している。
不適合な免震オイルダンパーは16%~42%と全てが大きめに乖離しています。これは、オイルダンパーの性能が基準よりも強く(硬く)なっていることを意味します。
自動車に例えれば、いつもよりブレーキがよく効いて、停車とするときに乗っている人たちが「おっとっと」となるような感じでしょうか。
つまり免震建物の絶縁効果が少し低下して(免震効果が少し低下)、建物が少し揺れやすくなっていると考えられます。
いずれにしても、個々の免震建物の安全性について早急に検証をして、安全性の確認を行うことが必要でしょう。
(免震オイルダンパーの不正に対するメディアからの質問について – 教授のひとりごと 10月20日)
免震・制振ダンパーの交換・補償費用は?
免震・制振ダンパーを取り換えるとなると、どれくらいの費用が掛かるのか?もちろん、自動車の不良部品をチャチャと変えるようなわけにはいかない。ただでさえアップアップのゼネコンが工事計画を立てて、職人を手配。マンションであれば住民への事前説明に時間も要する。
地下空間に設置されている免震ダンパーはともかく、壁の中やエレベータの後ろに設置された制振ダンパーの取り換えは、居住者や執務者への成約を伴う。
また、可能性としては低いのだが、免震・制震ダンパー交換中に大地震が発生しても大丈夫なように、耐震性能を確保しながら工事を行う必要があるので、時間と費用が掛かる。
3年前に免震ゴムのデータ改ざんをした東洋ゴムは、いまだ3割近くの物件が着工に至っていない(次図)。補償額を含め、建物所有者らとの調整に時間を要していることもあるのだろうが、免震ゴムの交換工事を請け負うゼネコンの人手不足にも一因があるのではないだろうか。
(東洋ゴムの「決算説明資料」よりマン点作成)
KYBが10月16日に 関東財務局長に提出した「臨時報告書」によれば、損益に与える影響額を見積もることは困難であるとしている。
当該事象の損益及び連結損益に与える影響額
- 現時点で当該事象に伴う影響額を合理的に見積もることは困難であります。
- 当該事象の損益及び連結損益に与える影響額については、確定次第公表をいたします。
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