売れ行きが低迷している新築マンション、一気に全戸売れてしまうわけではないので慌てる必要はない。今日は、そんなお話しをしたいと思います。
●分割販売という業者の戦略
新築マンションの販売は、全部を一遍に売り出さず、何回かに分割して売り出すことがあります。というより、それが最近は普通です。例えば、100戸のマンションを40戸、30戸、30戸というように3回に分けて販売するのです。東京圏では、500戸以上もあるようなメガマンションも時々販売されます。こうした物件は、初回で200戸売り出し、その後は平均50戸ずつ6回に分けて残りの300戸を売り出すというような、細かく分割して販売するのが普通になっています。
売り手から見て、分割販売の利点は、各期「新発売」と謳えることにあります。「新」は「新鮮」に繋がります。新鮮なものは良いもの。そんな心理を顧客に起こさせます。
また、予告広告の段階で商談した顧客の意向から、売れそうな部屋は何号室と何号室などと分かりますから、そこだけ発売すれば、確実に完売できるというメリットもあります。そうすれば、「完売」「完売」の連続を、ウソなく表示・アピールできることになります。
買い手の心理として、よく売れていると聞けば良い物件になるのです。ここに、売り手の意図があります。
このような販売戦略は、常套手段と言ってよいものであり、それ自体に違法性や悪質性はないのですが、中には不当表示や公正競争規約などに抵触する事例もあります。良い買い物をしたい人は売り手の策略を知っておくことも必要です。
本当は人気がある物件なのか、そうでないのか、残り少ないと言うが、本当はたくさんの未販売住戸が残っているのではないか。連続〇〇回完売というが、それは1回あたりの戸数が少ないだけのことで、中間で集計したら売れた戸数は僅かなのではないか。
こうしたことが見えにくい物件は少なくないのです。
●「第〇期〇次受付」という分割販売の疑念
大型マンションでなくても、マンション分譲を何期かに分けて行う「分割販売戦略」は業界にすっかり定着しました。話題を集めた500戸の某マンションは、「第4期2次の登録受付・●月●日締め切り」という広告を展開していました。この広告には、「第1期~第4期1次まで7次連続 計411戸即日完売」と誇らしげなコピーが踊っていました。
このケースは、「7回に分けて売り出して来ましたよ。その全てで即日完売となりました。ここまで411戸売れたので、残りは89戸しかありません。早くおいでください」と言いたいのです。
ともあれ、このケースは計8回に分けて売り出していることが分かります。
●販売不振マンションの分割販売
上記は好調に販売が進んでいるからこその表現ですが、販売不振の物件の場合は第4期2次と書いてあっても、一体何回目の売り出しかが分からないだけでなく、あと何戸残っているかも分からないようになっています。残100戸のうちの10戸なのか、残50戸のうちの10戸なのかが。また、「第〇期販売4戸」などと極めて少戸数しか売り出さない物件もよく見けます。これなどは販売不振物件の典型で、4戸しか売れないだろうから4戸だけ売り出したというのが真相のはずです。(そうでないケースもありますが)
販売不振物件では、一度発売したはずの住戸が未発売住戸に編入されていたり、その反対に未発売住戸のはずが、いつの間にか契約済みに変わっていたりする例もあります。
極端な例では、ある大手の物件でしたが、ごく一部の住戸で公表価格がいつの間にか変更されたという例もありました。短い期間にはどうしても決断できず、半年以上に亘って特定物件をウォッチングして来たという、ある相談者からの質問で分かったことです。
期ごとに配布される価格表を全部保管していて、対照していくうちに疑念が湧いたそうです。ある相談者は、「ゾンビのような住戸」などと表現していて、思わず苦笑してしまいました。
●業者のウソを読もう
冷静かつ慎重に検討するためには、業者のウソを見抜く知恵を身に付けることも大事と思うのです。この販売方法は、事業者の戦略として選択されます。その狙いを紹介すると、「100戸全部を売り出して50戸しか売れないときは、販売率(契約率)が50%、すなわち50%の売れ残り物件を抱えた恰好となり、印象として芳しくありません。ところが、売り出し戸数を50戸に絞っておけば、50戸全部が売れて契約率は100%になる可能性が高いので、そうなれば、好調なイメージが出来上がり、“好評裡に完売”と広告で謳うこともできます。そうした方が、次期の販売にも良い影響を与えるので、トータルではうまく行く」、少なくとも、そう業者は信じているのです。
この戦法を採られると、買い手は50戸の中から、ほかの買い手と競うような雰囲気の中で購入を迫られることになります。確かに、一定期間に訪れる買い手の数が一緒なら、100戸より50戸になった方が、競争率が高くなり、買い手を抽選で決めるという状況もあり得るわけです。
抽選に外れた人は「逃がした魚は大きい」という心理になり、次回は何としても当てたい、当たりたいと願うのです。
冷静に考えれば、まだ在庫が50戸あるのに、その中身(間取りや価格)が見えにくいこともあって、買い手は先に売り出した50戸の中から選ぼうという心理に誘い込まれます。また、仮に次期販売分が見えているケースでも、抽選に落ちて買えなくなる可能性もあると判断し、次期を待たずに購入申し込みを決めてしまう買い手も多いのです。
抽選倍率が10倍を超えるようなケースでは、後半も即日完売が続き、いつまでも申込しないでいると、結局手に入らない可能性もあるのは事実です。
しかし、実際はそこまでの人気のある物件は少ないのです。従って、慌てないで次期を待つ方が得策な場合が多いと言えます。1戸しかない特殊な住戸、例えばルーフテラス付きの住戸などは別ですが、複数あるタイプならば初期から慌てて申し込む必要はないのです。
売れ行きが悪くても売れ行きが良いように見せかける(見えてしまう)のが、分割販売という戦法であり、本当は違うのです。
本当の売れ行きは大したことがなく、竣工時点で半分しか売れない見込みであるようなケースでは、販売促進のために、実物モデルルームとして使用したから、もしくはモデルルームであったということにして(大義名分にして)、値引き販売に踏み切ることがあります。
「待てば海路の日和あり」ではないですが、慌てなければ、そうした恩恵にあずかれるものです。
売れ行きが良いか悪いかは、じっと観察していると分かるもの。売れ行きがあまり良くない場合は、売り出しと売り出しのインターバルが長くなったり、何回目かの売り出しの時に、前の回の残り住戸を同時募集(広告に明示)したりします。その他、営業マンの動き・説明などからも雰囲気は伝わるはずです。
抽選倍率でも見当はつきます。例えば、平均倍率が2.0倍に達しないとき、1.0倍住戸が半数以上あるときなども、確実に売れ残りが出るものです。
ところで、「自分としては条件も良く、優良な物件と判断したのだが、売れ行きが悪い物件はやはり良くない物件なのか?」このような疑問を感じる向きもあるようですが、必ずしもそういうことではありません。
立地条件もまずまずだし、プラン(仕様や間取り、設備など)も水準以上、売主も大手といった物件なのに中々完売しないのは、単純に価格が割高なのです。戸数が多いために残るということもあります。その場合も、戸数に見合うだけの顧客動員ができない理由が、価格の問題である場合が多いのです。
販売不振マンションは、竣工前後に必ず価格の引き下げがあると見ていいのです。そのとき、大々的に価格を変えるという方法なら、平等を期すために先行契約者にも恩恵が回って来ますが、そんなことは数年に1回あるかないかと言う確率です。モデルルーム住戸の格安販売といった個別の値引きで乗り切ろうというケースが一般的です。その場合は、先行契約は損ということになるかもしれません。
気に入った物件があるが、売れ行きがもうひとつという印象があったら、とりあえず第1期の申し込みは見送った方が得策になることが多いのです。このことを是非覚えておきましょう。
尚、少し前のことですが、某大手マンションメーカーは、初期の販売で予想以上の売れ行きだったので、次の販売期には価格を上げたそうです。このような例もあるので売れ行きを慎重にウォッチングしなければなりません。
ただし、値上げのケースは特殊な例です。少なくとも「次回値上げする予定ですので、お気に召したのでしたら今お申込み下さった方が得です」のセールストークはウソと思った方がよいでしょう。
●売れ残りを安く買いましょう
新築マンションが品薄状態になることは何年か前から言い続けて来ました。だから検討対象を中古にも広げましょうとも言いました。更に、意中の物件は高くて手が出ないという人には、売れ残りを待って値引きを頑張りましょうということも何回か書いています。
「新築の売れ残りを安くしてもらう」または「中古マンションを探す」、このどちらかを選択するほかないのです。このように述べて来ました。
ときどき新築マンションの中で、大型で付加価値のありそうな物件が注目されることがあります。今日も、その種の魅惑的な物件のご相談メールが届きました。ホームページを覗くと、物件コンセプトが高らかに謳い上げられ、魅力のポイントが建築家の紹介とともに何ページにも渡ってアピールされています。
遠方の買い手も呼び込みたいからでしょうか。その街の魅力が「住人による街の声」とともに紹介されています。通勤ルートについても、アクセスというカテゴリーの中で「便利でしょ」と訴求しています。
無論、間取りプランも、設備・仕様も紹介しています。
しかし、肝心の価格は空欄のままです。発売の直前まで分からない仕組み(戦術)です。
筆者にご相談下さる方は、現地に赴き販売事務所(マンションギャラリー)で予定価格を聞いています。その情報を聞いた筆者は、物件価値とのバランスを見て、「これは完売に時間がかからないな」とか「これは長い時間がかかるな」といった筆者なりの予想をします。
売主の広告戦略や営業体制などを無視しての予想なので、勘でしかないのですが、長年の経験から大きく外れることはありません。たまに、外れることがあるのは投資家が目を着けた物件の場合です。
「この物件は必ず長期化する」と読んだときは、1期から慌てない方が良いでしょう。こう添えることにしています。好評を博すのは初期だけだからです。
1年近く経て、忘れたころに同じ物件のご相談が別の方から届きます。「000万円の値引きを提示されていますが、こちらの評価はどんなものですか?」というのです。そのとき、思い出します。「発売当初にご相談のあった、あの方はどうしたのだろうか?」と。
●残り物に福がある場合もある
売れ残りの中に魅力ある住戸はないのでは?そんな疑問をお持ちになったかもしれませんが、そうでもありません。条件の悪い住戸は最初から価格を安くして売り出すので、初期段階で売れてしまうことも多いのです。逆に、条件の良い住戸の中には、高く値付けしてしまったために中々売れないということもあります。第1期の販売から10か月経ても、好条件の住戸が残っているか、残っていないか、これは賭けかもしれません。
慌てて高いものを掴んでしまう後悔をするより、待った方が新たな恋人を見つけることができるかもしれないのですから、賭けが外れてもいいではありませんか?筆者はこう助言します。