このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
興味あるマンション、検討中のマンションの「不安な点」のひとつとして、売主が大手でないことを挙げて筆者に問う人が少なくありません。
売主の社名を聞いただけで、その企業の実力のほどが分かる筆者は、気をつけるべき点などを添えてお答えしますが、要するに「知名度のない売主=一流デベロッパーでないと感じる」ことに不安を抱く人は少なくないのです。
マンションのデベロッパーって、どのような性格の企業なのでしょうか?このような質問をいただいたこともあります。
今日は、デベロッパーの実力についてお話をしてみようと思います。
●デベロッパーとは?
いま改めて考えてみると、デベロッパー(略称デベ)とは不思議な存在の業態です。一般に、デベロッパーとは、開発業者と訳されており、住宅開発、商業施設開発、都市開発、リゾート開発などを行なう企業・団体のことを指します。マンション開発業者も、デベロッパーのひとつです。
マンション広告の建築(物件)概要を読むと、設計という項目には設計事務所名が、施工欄には建設会社名が記載されています。マンションデベは売主の欄に記載されますが、自分で建築図面を引くわけではないし、工事をするわけではないのです。
販売も専門販社に任せてしまう例が少なくありません。販社は「住友不動産販売」や「長谷工アーベスト」、「野村不動産アーバンネット」などが有名です。
大抵、マンションのデベは不動産専業ですが、ときどき鉄道会社や商社がデベであったりもします。少し前は住宅供給公社や住宅公団もデベだったのです。
業界事情に明るくない一般の人にとって、デベロッパ―とは曖昧模糊とした性格に映るのかもしれません。
●マンション事業のフローとデベの位置づけ
マンション事業者(=マンション開発業者=デベ=大抵は売主)から見て、マンションを建てて売るというビジネスは次のような流れで行なうのが普通です。マンション用地を仲介業者などを通じて探す➔ラフな図面を引きながら開発構想を練り、採算ラインなどを検討する➔土地を購入する➔設計事務所に構想を伝えて詳細図面を引かせる➔行政に開発許可申請と建築確認(許可と同じ意味)を申請➔許可後、ゼネコン(総合建設会社)に工事を発注し着工➔広告代理店を決めて販売資料、モデルルーム等の準備➔自社販売または販社に委託して分譲販売(予め管理会社と住宅ローン提携銀行を選定)➔建物完成後、購入者へ引き渡して事業終了➔アフターサービス(定期点検と最長10年間の建物瑕疵保証)
このフローで分かるように、マンション分譲事業に関わる関連企業は、全部で5ないし6社になります。しかし、デベロッパーは、どの場面でも発注者の立場にあることが分かります。
主に土地を買い建物を建てて(正確には建築業者=ゼネコンに建てさせて)分譲する事業体がデベであるわけです。
非難を恐れず乱暴な言い方をすれば、宅地建物業の免許と資金さえあれば、どんな企業でもなれるのがデベという立場です。
宅地建物取引業を営むには国または都道府県知事の免許が必要ですが、これは簡単に取ることができます。従って、本業が電気でも車でも、またワインメーカーであっても、社内に「不動産部」若しくは子会社を設立して、今日からでも「マンション開発業者=デベ」になることができるのです。
●デベになる目的・狙い
資金力さえあれば、本業が何業であってもマンション開発業者になれると述べましたが、その狙いはどのようなところにあるのでしょうか?言い換えると、マンション分譲ビジネスに参入する妙味はどこにあるのでしょうか?マンション分譲というビジネスの利益率は決して高くありません。しかし、少ない人数で(大きな組織をつくらなくても)大きな売り上げを上げることができるビジネスでもあるのです。売り上げが大きければ必然的に利益の額も大きくなるわけで、ここに一番の妙味があるのです。
異業種から参入したデベをいくつか上げると、不動産部門を別会社として分離した企業も含めて、次のような例があります。
「アート引越センター」、「メルシャンワイン」、「パナソニック)」、「三洋電機」、「旭化成」、「東レ」、「オリックス」、「丸紅」、「伊藤忠」、「双日」、「NTT」、「セコム」といった、建築とは縁がなさそうな業種からマンション事業に参入している例が多数あります。
不動産・住宅に近い業種としては、「鉄道会社」や「建設会社(ゼネコン)」などがあります。
これらの異業種参入企業は、単体としての妙味だけでなく、本業との連携で相乗効果を狙っている面もあります。
●デベの力量
デベは資金力がすべてであるかのような言い方をしましたが、それでは単なる「パトロン」に過ぎません。実際の関わり方はどうなのでしょうか?新規参入のときは、全くノウハウがないため(デベ社員などをスカウティングするとしても)、多くの部分で関連業者のサポートを受けます。中には同業者に相乗りするまたは共同事業者として誘い、金を出すだけで口を出さない。傍観しながら学習する形で最初の事業を開始する例もあります。
デベとして、資金力以外に必要なものは何かですが、それは次のようなものです。
①開発の構想力:土地を購入するとき、ここでどのようなマンションを建てるべきか、地域性、環境、立地条件などを勘案して構想することが必要であり、先決です。この構想力こそが、デベの生命線と言って過言ではありません。
②商品の企画力:入居者が快適に住めるマンションであることは無論、他社との差別化にも英知を結集します。造っても売れなければ商品とは言えませんし、ビジネスではありません。買おうとしている土地の、その場所にどのような住宅を何戸、どのような設備を装備し、またどのようなデザインで造れば競争に勝てるのか。この商品企画力は欠かせません。
③販売力:広告の企画を広告会社任せにして、予算管理しかしていないようなデベもありますが、一流のデベは広告代理店の提案も受け入れながら(参考にしながら)自社で効果的な広告宣伝の戦略を構築し実施します。有能な宣伝マンも抱えています。そのうえで、販売の実務を自社の販売部門または専門販社に委ねます。
(以上①~③をトータルして「マーケティング力」と言います)
④品質管理力:これは手抜き工事が起きないように目を光らすというようなことから、施工の精度を厳しくチェックすることで、期待する性能を発揮するマンションを創り出す能力を意味します。つまり、「建築は素人だからゼネコンさん頼みますよ」という姿勢では高品質のマンションはできないものなのです。三井不動産レジデンシャルなどは、設計段階だけで1600ものチェック項目を設けて高い品質の建物を生み出そうとしていると聞いたことがあります。
⑤調整力:デベは外注する設計、施工、広告、販売、管理の担当企業と密接な連携のもとでプロジェクトを推進して行きます。一流のデベは、どの分野も決して専門企業に丸投げしたりはしません。利害調整やスケジュール調整、企業間のコミュニケーションなどを円滑に進めながら初期の目標を達成しようと図ります。そのコントロール力がなければ、一流とは言えないのです。
以上の①から⑤までの総合力が備わってこそ、一流のデベと言えます。マンションデベは、全国に大小合わせて数百社も存在しますが、その中で一流と言えるのは、ほんの一握りしかない。筆者はそう思います。
●マンションの価値は立地にあるが、一流は立地選定も一流
以上のような力量の中で、一流のデベは用地取得も一流と感じることがあります。例えば、こんなときです。⓵駅前再開発などで地権者(開発参加の地主グループ・再開発組合など)から指名を受けるのは一流企業が圧倒的である。駅前は一等地であり、購入者ニーズも高い。このような事業用地を取得できるのは一流の証でもあるのです。
②広域・日本橋エリアなどの「狭小地買収」では、一流は必ず角地を選ぶ。両脇が既存ビルのようなサンドイッチの土地は買わない。
③郊外都市の場合では、駅から10分を超えるようなものは手を出さない。
④バス便マンションを開発する場合も、一流は駅前マンションにない環境の良さは当たり前、高台で眺望の良い土地を選ぶ。あるいは、商業施設の加発が可能な大規模なものを買う。
⑤高級住宅地(麻布・青山・赤坂・高輪・白金・広尾・代々木など)の土地でも一流は厳選する。これらのアドレスにあっても、周囲の既存マンション等に隠れてしまうような位置にあるとか、谷地である、駅から10分歩く、異常変形の土地は買わない
●一流ブランドは一朝一夕ではできない
マンション開発に、一流の設計者、一流のゼネコンを起用すれば一流のマンションにならないものでしょうか?つまり、デベロッパーには構想力と企画力が必要と書きましたが、その力も他社の協力を得ればできるのではないかと、そう考えるスポンサー(デベ)もあるそうです。
これは、新規参入を図る異業種企業のことではなく、もう何十年も実績を残している企業にもあるというので意外です。
一流のオーケストラには一流の演奏者が集まっているはずですが、楽団としての一流を保つには一流の指揮者も必須です。それと同じで、一流のデベには一流の指揮官が存在します。たとえ、一流の設計者やゼネコンや広告代理店の人たちの意見を参考にしたとしても、構想を練り、企画をまとめ上げて行くのはデベ自身なのですから、デベの指揮官、若しくはプロジェクトチームが一流でなければ一流のマンションはできませんし、市場から支持もされないはずです。
あるデベロッパーの役員さんが「わが社には有能なプロヂューサーがたくさんいる」と発言しました。そうか、指揮者(コンダクター)というよりはプロデューサーが一流であることが、一流デベロッパーの条件なのかもしれない。そう思った瞬間でした。
そうして作り上げた一流品の積み重ねがブランド価値ともなって行くのです。
ときどき一流、ときどき二流、三流の商品を世に送り出していては何年たっても一流ブランドには育たないはずです。有名ブランドではあるが一流ではないマンション、買い手もそれを承知で選ぶほかありません。
筆者の目では、歴史も販売実績も十分なのに、未だ一流になれないデベロッパーは少なくないのです。
普及品ブランド、中級ブランドでいいと企業が考えているのであれば、また、価格もそれなりであれば、一流には永久にならないかもしれません。しかし、そうした二級品の提供は悪いことでも何でもありませんし、ニーズがあれば、企業としての存在価値もあるのですが・・・
一方、新聞やテレビを媒体に企業イメージやブランドイメージを作るということも大事なことであり、既に一流と言われる企業も継続しているイメージ広告、それ自体を否定するものではありませんが、大事なことは一流の商品を手抜きなしに送り出すことにあります。
●大手=一流とは限らない
一流デベは、大手企業でしょうか? 答えは、半分以上「正解」ですが、様々な事情から大手らしくないマンションを手掛ける例は散見されます。大手なのに、三流デベのような取り組みだなと感じることがあるためです。最近数年間、マンション価格は異常な値上がりが起きてしまいました。このため、デベロッパー各社はコストを抑制することに懸命な努力を続けているのかもしれません。その過程で、「やむを得ず」か、「つい」なのかは分かりませんが、一流らしくない策を採ってしまうのかもしれません。
大手は、どんな場合も一流の矜持を示すものですが、稀に失望させられることもあります。何故そうなってしまうかを考えたとき、背景には「売上・利益目標」があるからという答えに行き着きます。「やむを得ずに」という社内事情や、買収の都合上なってしまった、その他、当事者にしか理解できない経緯があったのかもしれません。
しかし、本物の一流は、一流であり続けるために、かたくなに方針や姿勢を曲げないものだと思うのです。「たとえ売り上げが落ちても、利益が減っても」です。