このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
年末年始も「評価レポート」のご依頼をいただき、今年も多忙な嬉しい1年を過ごすことになるのだろうと予感しつつ、それでも殺人的な忙しさだった10月と11月に比べれば、12月から年始にかけては比較的ゆったりとした時間を過ごしました。
溜めていた本や新聞記事で気になった箇所を再度読み直したり、関連する事項を調べたりしながら多岐に渡って考える時間を持つことができました。そんな年末年始の行動の中で、週刊誌の「2019年に販売を予定しているマンション」の記事も拾い読みしてみました。
今日は、その中から感じたことを少し書きます。
●話題のマンションを占う予想屋の存在
ときどき話題になったマンションの掲示板を覗くと、多種多様な意見があることに気づきます。今年前半で人気になりそうなマンションについても様々な感想や意見が随分発信されています。話題の物件は、晴海、武蔵小山、東雲、北千住、さいたま新都心などですが、既に数多くの資料請求者やモデルルーム見学者が集まっているようです。
資料請求が何万とか、来場者が何千組、掲示板の書き込み数が何千といった物件は「話題のマンション」と言えますし、「人気のマンション」かもしれません。いえ、確かに人気のマンションなのでしょう。
思い起こすと、最も高い人気を誇ったのは一昨年から昨年にかけて販売された「ザ・タワー横浜北仲」でした。2020年2月の竣工まで、まだ1年以上もあるのですが、昨年の早い段階(5月頃?)で1176戸が既に完売しています。
この物件は、掲示板の書き込み数を見ると、2018年6月30日時点で約23,000投稿もありました。
専門家と呼ばれる諸氏やマスコミの記者、マンションブロガーなどが、話題のマンションについてWEB上に、あるいは雑誌などに様々なコメントを寄せていますが、それらがどのようなものであるにせよ、人気マンションは総じて好意的な意見が多く、酷評する人は少ないように思います。
酷評が出て来るのは価格が見えて来るころからで、掲示板の投稿者が価格情報というより、予想価格を流したりします。そして、投稿者が匿名なのをいいことに、好き勝手な意見を書いています。あっという間に売れるだろうとか、それじゃ売れないから価格調整があるだろうなどと予想屋の投稿も目立ちます。
ともあれ、人気マンションは価格が適正なら買いでしょうか?高い価格でも買って間違いないでしょうか?そんなことを考えました。
●選手村マンションは買いか?
話題になるマンションは、「駅前再開発マンション」「駅直結マンション」「大型タワーマンション」が多いものですが、なんといっても今年一番の話題をさらうのは「選手村マンション(ハルミフラッグ)」でしょうか?少し前にこのブログで筆者も触れましたが(第177回:選手村マンション。五輪開会前に売り出すニュースに触れて)、このマンションの最大の注目点は価格がとても安いらしいという噂にあります。
新聞記事には平均坪単価は270万~280万円の予想が書かれていましたが、もっと安い、250万円くらいになるのではないかなどの書き込みもあります。
そのうち信憑性の高い価格情報も流れて来るはずですが、事業主の11社が安価に都有地を取得した事情もあり、周辺の新築相場に比べ販売坪単価は50万~60万円ほど低くなることは確実と見られています。
もっと安くなったら、短時間で完売してしまうのではないかという有名なアナリスト氏もいます。果たしてどういうことになりますか、予想屋にはなりたくないので、本稿では選手村マンションの長所と問題点について整理しておきましょう。
<BRT問題>
ご存知のように、選手村マンションは最寄り駅まで歩くのは無理で、自転車で行くか、BRTを利用するほかありません。車を保有する人は家族の運転でどこかの駅まで朝は送ってもらうのかもしれませんが、これはごく少数と考えられます。BRTは開業後も当初の輸送力は2両を連結する形で1時間あたり1200~2000人程度と言われていますが、10両編成の地下鉄に比べて大きく劣ることは火を見るより赤井らかです。
2,000人というのは4つのルートを合わせた合計です。選手村の真ん中から出る「選手村ルート」はわずか20便のうち6便。毎時600人しか運べないそうです。
「ゆりかもめ」ですらピーク時は1時間5,000人以上、地下鉄に至っては10,000人以上を運ぶそうですから、BRTはピーク時運行で最大2,000人はいかにも少な過ぎます。
賃貸マンションを合わせて5000戸以上の選手村マンションです。通勤・通学者は何人になるのでしょうか?少なくとも5000人以上はあるはずですから、これを最寄り駅または都心に運びきるのに2~3時間はかかってしまうという計算にならないでしょうか?
筆者も仕事の関係で早朝から地下鉄の乗ることがありますが、ラッシュを避けようとすると、一番電車に乗っても新聞が読める状態にないのです。BRT通勤は楽ではなさそうです。
<金利リスク・景気変動リスク>
販売予定時期は2019年5月下旬で、入居予定時期が2023年3月下旬。4年近く先の物件を青田買いすることになります。これは相当長い期間です。この間に、安倍総理、日銀の黒田総裁の退任は決定的でしょうし、その時に日本経済と世界経済がどうなっているか、全く予想できません。過去5年、マンション価格は30%も高騰しましたが、それでも何とか販売を維持しているのは低金利政策が続いているからです。それがどうなるか。また、実感がないという声もありながら、景気拡大は続いています。それも、どうなるのか。
<入居時期の問題>
住宅の購入は極めて個人的な理由で探し始めます。購入のきっかけとも動機とも言えるものとしては、たとえば以下のようなものです。結婚、子供の誕生、転勤、子供の進学、子供の独立、定年といった人生の転機やライフステージの転機が挙げられます。もう少し噛み砕いて列挙してみます。
1)賃貸マンションに住んでいるが、契約更新で値上げ通告を受けた。
2)子供ができて手狭になったので引っ越しを考えたが家賃が高く、これだったら買った方がいいかもと思った。
3)頭金を援助するから家を買いなさいと親から電話がかかって来た。
4)結婚するに際して賃貸を探していたが、不動産屋さんが買うことを勧めてくれた
5)新聞広告やポストに投函されたチラシが目に留まった。
6)知人がマンションを買ったことを転居通知で知って刺激を受けた。
7)安普請の賃貸マンションに住んでいたが、地震の揺れに驚き、丈夫な分譲マンションに住みたいと思った。
8)2階の居住者がうるさいので遮音性の高いマンションに住みたいと思った。
9)共働きをしている間に、住宅ローン控除を二人分使えば得だと知ったので。
10)子供が独立したために広い家を持て余しているうえ、駅から遠いので、夫婦二人のためだけに駅前の便利なマンションに住み替えたい
11)勤務先の家賃補助がなくなる時期が近付いているので
もっと実例はありますが、80~90%くらいはこの中に入るのではないかと思います。この中に「4年後の入居。丁度いい」と考える人が多くはないでしょう。
(入居予定時期 は2023年3月下旬。タワー棟は2024年)
<長所>
価格以外の長所は、「中央区にあること」「直線距離で新橋・霞が関・虎ノ門・大手町辺りが1~3㎞圏にあること」「多くの住戸が運河に向いていること」「公園・緑地が豊富にあること」「学校が近いこと」などでしょうか?元選手村であることの付加価値もありそうです。例えば、買った部屋は「〇〇国の〇〇選手と〇〇選手が使っていたらしい」と知ったとき、あるいは、「このマンションは東京オリンピックのとき、世界中の選手たちが泊まったのだ」というだけでも誇らしいと考える人が大勢いるかもしれません。
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価格次第では、爆発的に売れる可能性はあるのは間違いないと言えるでしょうが、安いと感じた人が飛びつく最大の動機、決断の根拠は「安く買えばきっと儲かる」という資産性にあります。
「だから業界人の半数が買う」とまで発言する人があります。
価格を下げれば飛ぶように売れるものです。しかし、果たして安いと言えるでしょうか?価格が公表されていない段階で発言することは控えますが、よく考えることが大事です。
都区内でバス便マンションというのは、世田谷区などに見られますが、こんなに都心に近い例はありません。
4000戸の分譲事例も思い当たりません。大型という意味では、いくつかありますがそれでも高々2000戸です。勝どき駅の「東京タワーズ」や田町駅の「芝浦アイランド」ですが、どちらも分譲棟は2棟で2000戸未満です。新豊洲駅そばのマンション「ベイズ」と「スカイズ」の2棟合計でも2000戸には達しません。
しかも、いずれも徒歩10分圏です。
世田谷区のバス便マンション「深沢ハウス※」は772戸ですし、「東京テラス」も1000戸余です。
※深沢ハウスは都立大駅から徒歩15分
●優良でも「高過ぎる」マンションに儲けは期待できない
選手村マンションについての所見が長くなりました。今日は元々そんなつもりではなかったのです。話題を変えます。第185回のブログ「儲かるマンション・儲からないマンション」の中でも書いたのですが、重要なのは価格です。
過去6年くらいを思い浮かべると、筆者が高過ぎると評したマンションも、相場の急騰によって竣工時期を迎えたころには相対的に割高感が消えました。高過ぎるとは思わなかった物件に関しては、5年も経つと含み益が出ているようです。
含み益が出ている人は、その後どうしたでしょうか?売却して確定利益を取ったでしょうか?実態はつかめませんが、買いたいマンションの評価を依頼して来る人の中には、利益が出そうと分かったので買い替えをすることにしたという人がありました。しかし、その数は僅かです。
売り時を測って生活を変えるのではなく、生活を変えなければならない、もしくは変えたいから買い替えるのが普通の考え方であり、動機になるはずです。儲かるから売る、それで生活はどうなってしまうのでしょうか?
子供の学校を変えない条件、通勤が不便にならない条件で買い替えはできるでしょうか?そう都合よく条件を適える物件が現れるでしょうか?
リセールバリューは、買いと売りのタイミングがカギを握っています。
相場の低いときに買えば、相場が少し上がるだけで購入価格を超える価格で売却することが可能です。相場が高いときに買っても、次の上がり相場のときに売れば利益が出るかもしれません。売却益は、前者と後者では大きな差ができます。相場の安いときに購入動機が生まれて結果的に思いもかけない利益を得た人がある一方、運悪く高い時期に買ったために良い物件を選んだつもりでも、期待したほどの値上がりはなかったという例は多いのです。
運悪く高い時期と言いましたが、時期だけの問題ではありません。
相場を大きく上回る高値のマンションを買ってしまった場合も期待は裏切られるのです。高いと知らずに買ってしまうのでしょうか?相場などは簡単に分かってしまう昨今と違い、相場情報が発信されていなかった時代に買ったからでしょうか?
高いと認識しながら買ったという人もありました。それで損失が出たのは、「特別な物件だから」という甘い観測があったためということでしょう。そう、つまり価値と価格が一致していない物件もあることに注意しなければなりません。話題の物件も例外ではないのです。
●圧倒的な広告や販売キャンペーンなどが錯覚を生む
新築マンションの購入には、判断を狂わせる要素に囲まれています。派手な広告キャンペーンや商品の展示法、大勢の関心客が押し寄せる熱気などによって購買意欲を掻き立てられ、冷静さを失うからです。いただくメールの中に「舞い上がってしまった」「つい熱くなってしまった」「せかされて慌てた」などの反省の弁がときどき舞い込みます。
これは、正常な判断ができない環境におかれてしまったことを意味しています。売り手のマインドコントロールにしてやられたのです。
話題になる大型マンションの販売事務所(パビリオン、マンションギャラリーなど)では、予約した人だけが歓待されます。受付では、美人の受付嬢がうやうやしく迎え、VIP待遇します。次いで、シアタールームに通され、マンションの概括的な説明が大型スクリーンを使って行われます。映像が「物件の素晴らしさ」を訴えかけてきます。
模型を使って、マンション本体と周囲の建物や街との関係が分かるように展示していたりします。モデルルームは複数のタイプが用意され、プロのインテリアデザイナーによって美しく、かつ夢見心地になるような演出を施しています。見学後の商談テーブルでは、住戸から見た眺望写真をPCの画像で見せてくれます。
このような流れを通して、買い手の購買意欲は盛り上がります。予定価格を示され、ローンの返済額を算出した瞬間、夢は現実になりそうだと、まるで宝くじが当たったかのような気分にさせられるのです。
どんなマンションにも欠点・短所はあるものですが、それらが全て長所によって打ち消されます。50の弱点を100の長所によってお釣りがくると錯覚をしたとき、買い手は「買う」のボタンを迷うことなく押します。
冷静な立場の人に聞くと、50の弱点を50の長所で相殺してくれた程度なのですが、長所の強調によって過大な思い込み・刷り込みにつながってしまうのでしょう。
話題になるマンションは大勢の人が「良いマンション」と認めるものであるのでしょう。しかし、大衆の動きがいつも正しいとは限りません。多くの人々が割高なマンションと知らずに買ってしまうこともあるのです。安いけれど、価値に見合う安さではなかったという場合も多いのです。それに気づくのは何年も先のことです。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。
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(契約済みの場合は、評価サービスだけのご利用をご遠慮いただいています)
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