差出人:自宅投資家
新築物件の検討時、「モデルルーム」に採用されているタイプの部屋が買いか否か、歴戦の猛者である皆さまの意見をお聞きししたく存じます。
モデルルームに採用される以上、そのマンションで最も魅力がある、売りになるタイプだとデベロッパーから認められているのだと思います。
新築物件の部屋選択に際して、重要な要素となる将来の売却益を狙うためには、価格の歪みを突くのがセオリーで、基本的には弱気に値付けされる北向きや低層部の部屋がターゲットになると思います。
一方で、皇居向き等の理由で元々強気な値付けの部屋が中古になっても更に値上がりし、結果的に新築時価格が割安になっていた事例も見受けられます。
直近では○○○(物件名)の一期販売において、モデルルームタイプ(120平米の方)は高額にも関わらず抽選になるほど人気がありました。(もう一方の310平米も超高額ですが既に契約済のようです)
上記事由から見て、個人的には少なくも都心物件のモデルルームタイプに関しては買いだと考えております。
ご質問ありがとうございます。回答させて頂きますね。
(※物件名は具体的に書かれていましたが、伏せた上で一部テキストを修正しました)
まず結論から申しますと、「将来の売却益を狙う」ことが基準になるのであれば、モデルルームに採用されている部屋だから「買い」とは判断できないと思います。
一般的な話として、わざわざモデルルーム用の土地借りてプレハブ建てて、住戸を再現してインテリア作って、模型とかムービーとか準備して、、費用が何千万単位でかかる訳です。売主の立場としては、当然ですがコストを回収してお釣りも受け取れないと意味がありません。
全住戸を「できるだけ高く」「できるだけ早く」売るためにモデルルームは作られます。予算的・物理的に採用できる数少ないタイプのモデルルームで、最大限すべての住戸がまんべんなく売れるよう戦略的に選ばれます。そのためモデルルーム住戸で、その他の住戸を表現できる必要があります。
モデルルームに採用される住戸はどういった基準かと言いますと(プロジェクトマネージャーの販売戦略にもよりますので一概には言えないことを付け加えますが)
(1)好条件住戸を見せて販促
(2)ネックあり住戸を見せて販促
(3)プレミアム住戸を見せて販促
といったところがオーソドックスかと思います。
これら(1)~(3)について、簡単に説明します。
(1)好条件住戸を見せて販促
一番多いケースです。85平米3LDKの角住戸を、セレクトプランでリビング拡張の2LDKにしました、みたいなモデルルームはよく見かけますね。基本的に、モデルルームは「大は小を兼ねる」が成り立ちます。上の間取りを例にすると、モデルルームの主寝室が7.2畳+WIC(ウォークインクロゼット)だった時、他のタイプの7畳の寝室や、6畳の寝室は営業時に説明しやすいです。
「これよりも少し小さいくらいですね」とか「6畳の部屋だと、ここのライン(手で指し示す)くらいが壁になりますね」とか言ったら、お客さんは空間を脳内再現しやすく、納得してくれるものです。
部屋の大きさに関しては、なぜか6畳神話みたいのがあります。だいたいのお客さんが何となくの感覚として、そういうのを持ってます。「6畳あれば大丈夫ですね、6畳切ったら狭いよね」というアレで、かなりハッキリと傾向が出ます(笑)
そのため洋室が5畳~5.5畳まで小さくなってしまうと脳内再現しにくくなり不安が出てしまうので、たいていのケースでそういう小さめの部屋もモデルルームにあります。無論、子供部屋用途という建て付けにして、ベッドはじめ家具のサイズを小さくして部屋を広く見せたりしますが、5畳程度の部屋でも、実際に目にしてしまうと不安は解消しやすくなります。
逆に、モデルルームで再現した寝室が最大で6畳しかなく、かつ通常のクロゼットしかないような「狭い住戸」を見せる場合を考えてみましょう。他の「広い住戸」タイプで、7畳のより広い寝室、ゆったりウォークインクロゼットの収納容量があったとしても、広い空間は脳内再現しにくいものです。
また、お客さんに直接見せられないと折角の売りを殺してしまうことになり、大変にもったいない話です。そのため、モデルルームがビル内に作られていて、どうしても広いタイプが入らないなど「空間的な制限」がない限りは、広めの住戸タイプが選ばれます。
次にリビングですが、角住戸は採光面を多く取ることができますので窓面は多いにこしたことはありません。プレハブ建物の外からの光も室内に入ってきて、明るい印象を与えることが出来るでしょう。この窓面のうち、妻側のカーテンを閉めてしまえば(要遮光)、「今、カーテン閉めましたけど、これを壁だと思ってくださいね」とか言って、中住戸の明るさも再現できます。
リビングは、真横の洋室をつぶして広くしたり、間仕切でDEN(書斎、多目的の小部屋)にしたりすることが多いですよね。これも壁がなくなることで、(上の間取り例で)リビング14畳+隣の洋室5畳=19畳の広々リビングを再現することができます。
「本当はここが壁です(手で場所を指し示す)」とか「DENの間仕切を閉めますね~」とか言って壁を作ると、元々の14畳リビングの広さも説明できます。
これも、逆だと説明しにくいです。中住戸で角住戸の明るさは再現できませんし、14畳のリビングだけ見せて、19畳の広さは再現できません。
売りのポイントが多い好条件住戸をモデルルームにすることで、モデルルームのタイプに好印象を与えることができて、また「大は小を兼ねる」で、本来の目的である、全ての住戸をまんべんなく販促することが期待できます。
(2)ネックあり住戸を見せて販促
ネックあり住戸=一見、間取り上のデメリットがある住戸です。専有面積は広くて本当は高く売りたいけど、図面上、どうしても悪い間取りに見えてしまう住戸も、モデルルームに採用される場合があります。
最も代表的なものは、部屋の形がいびつなケースです。リビングが三角形とか、梁が斜めに渡っているなど、図面だけだと家具をどう配置していいか分からないために検討から外れてしまうような部屋でも、実際にモデルルームにして上手にインテリアを作って格好良く見せてしまうと、「意外とありだね!」となるものです。
上の例も、リビングは明るいだろうし、ちゃんとバルコニーの庇があり暑くなりすぎない安心感があって個人的には好きな間取りですが、ダイニングテーブルとかソファ・テレビの配置は?となると工夫が必要になりますね。
もともと、モデルルームにした間取りタイプはよく売れます。自分の目で見たから確実ですよね。これはネックあり住戸も同様で、ネック要素を跳ね返してよく売れます。そのため専有面積が広くて住戸数の多いネックあり住戸は、(価格の上振れ幅が大きいため)戦略的に採用されたりします。
余談ですが、モデルルームタイプに人気が出るのは何も間取りに限った話ではなく、カラーセレクトや間取りの変更も同様です。
セレクトプランの締め切りが終わった後、まだ契約者のいない部屋はモデルルームで使ったナチュラル系の色を多くの部屋に採用して、たまにいるダーク系やホワイト系の配色が好きなお客さんのために少数それらの部屋を混ぜたりしてバランスを取ります。
間取りのセレクトプランも、モデルルームで見せたプランが採用されることが多い(他の間取りプランは採用されにくい)ですが、こちらは締め切りが終わった後は、無難に標準タイプになります。
(3)プレミアム住戸を見せて販促
今回、自宅投資家さまにご相談いただいた物件では、モデルルームが100平米超えだったので、こちらでご説明する「プレミアム住戸を見せて販促」かと思ったのですが、物件のHPを確認して間取りなどを見たところ、前述の(1)好条件住戸に当てはまるようでした。こちらのご説明は参考程度にご覧ください。当方、いただいた物件のことは何ら情報を持ち合わせていませんし、モデルルームも見たことがないため、個別の内容や良し悪しについては言及を避けさせて頂きます。(そのため物件名も伏せました)
通常、プレミアム住戸をモデルルームに採用する時は、上述(1)(2)と併せて2タイプ以上あるのが普通です。
プレミアム住戸は標準住戸とそもそも客層が違い、専有面積が広い上に坪単価も上げる必要があります。標準仕様も全然違うため、プレミアム住戸と標準住戸の両方でモデルルームがないと営業マンは説明に困ります。
先述の通り、小では大を表現できませんから、モデルルームも間取り変更やオプションを入れた豪華なものを作る必要があります。プレミアム住戸は、契約者から「モデルルームみたいな感じでお願いね」って、ざっくりオーダーで追加オプションも期待できるため、原型が分からないモデルルームになることも多々あります。
豪華なモデルルームは、一般客が(買えないにしても)「この物件は高級マンションです」と印象を強く与えられるため販促費の多い大規模物件では多く見られますが、最近では逆を行って、一定以上の購買力があるお客でないとわざわざ案内しない物件もわずかながら出てきているようです。
買えない人にプレミアム住戸を見せても営業マンのコストが無駄になりますし、一方、お金持ちはCLOSEDな対応が好きなので、これはこれで正しい戦略かと思いますが、あからさまには出来ませんね。
さて、もしプレミアム住戸が残戸になってしまうと、それはそれは大変なことになります。そもそも買える人が限られおり集客が大変だからです。
買える人が限られる住戸を作って売り残してしまうのは、マーケティングミスに他なりません。経営陣に「お前ら住戸割り間違えてんじゃねーか!」と怒られたらヤバいので、めっちゃ焦ります。
そもそも住戸割りを決める時点で、プロジェクトマネージャーも経営陣に「お前ら決裁出したじゃねーか!」と心の中で叫んでいますが、大人なので決して口には出しません。
(※住戸割り → 全ての専有面積から、何平米の部屋をいくつ作るか問題)
こういう事にならないよう、プレミアム住戸を売るためのモデルルームは販売戦略上とても大切で、入念にプランニングされます。
さて、話を戻します。
将来の売却益を狙うためには、価格の歪みを突くのがセオリーで、基本的には弱気に値付けされる北向きや低層部の部屋がターゲットになる
これは仰せの通りかと思います。一般的な評価の物差しでは評価されにくい低価格住戸だったけど「実はいいじゃん」というパターンですね。「将来の売却益」を評価基準とするなら、有利だと言えるでしょう。
モデルルームに採用される以上、そのマンションで最も魅力がある、売りになるタイプだとデベロッパーから認められている
これは何とも言えません。。
売りになるタイプだと認められた上にモデルルームになって売れやすくなるなら、価格は高くなるはずで、「将来の売却益」のための安全マージンは少ないでしょう。
一般的な話として、分譲マンションの価格決めは、同一物件内の各タイプ間でバランスを取って決められます。物件全体の総売上が決まった後に広さごとに按分して、広さや間取りの良し悪しで価格の強弱を付けて、「全住戸を倍率1倍で売り切る」ことを理想として、価格をリバランスします。
しかし、これが流通市場に出ると評価基準が変わります。同エリアで、他の似た物件の住戸が競争相手になります。この場合、同一物件内では希少性があった条件も、流通市場では希少性がないかも知れません。
この場合、同一物件内での価格が強かった時点で安全マージンが少なくなり、従ってモデルルーム採用だけで「買い」だとは言えないと思いますが、一方で、単純に「売主から高評価を得ている間取りに住みたい」というニーズでしたら、「買い」という判断で宜しいかと思います。
以上、ご参考になれば幸いです^^
当方からのご回答は、過去にスムログに頂いた古めの質問をピックアップさせて頂いております。特定のケースについてご質問の際、その内容を一般化して多くの方に関係する内容とさせていただく場合があります。また本記事は、当方の個人的な見解・意見であり、その内容に関していかなる責を負うものではありませんので予めご了承下さい。