第200回 「新築マンションはなくなるかも?」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

首都圏の新築マンションの年間供給数が3万戸台に落ち込んだまま5年が経過しました。品数が少ないため仕方なく中古に向かった人も増えています。

供給が少ないのは、売れないので発売の先送りや着工を止めているという側面もあるのですが、それ以上に用地の取得が困難な状況が続いているためです。

 

今日は、マンション業界の長期展望、言い換えれば買い手にとっての市場の先行きについて書こうと思います。

 

●学生マンションを建てる大手業者

つい最近、東急不動産や三菱地所レジデンス、三井不動産レジデンシャルが付加価値の高い学生マンションを建設して賃貸するビジネスを展開中という新聞記事を見ました。

 

しばらく賃貸して実績を証明してから投資ファンドに売却する予定だそうで、分譲ではないものの、開発した物件を売却するという点ではマンション業者らしいビジネス形態だなと思いました。

 

ともあれ、なぜ学生マンションに参入したのでしょうか?新聞でも触れていましたが、一般の分譲マンション用地が買えないからです。駅から5分以内という条件を満たすマンション用地は昨今ほとんど入手困難なのです。郊外は比較的入手がしやすいものの、職住近接の傾向が強まっているので、販売に苦労する例が多く、進出をためらいがちです。

 

そんな中、学生マンションは徒歩10分前後でもニーズはあるし、大学の所在地は都心にあるとは限らないので、開発がしやすいと判断しているようです。東急不動産は「赤羽志茂」(北区)で、三菱地所レジは多摩市で建設したと記事は伝えています。

 

学生数は少子化傾向にあっても増えているそうです。進学率が伸びているためです。これが学生マンションの企画開発の下支えになっているようです。

 

●都心は高過ぎる

学生マンションをマンション分譲の代替(だいたい)事業にするということは考えにくく、あくまで補完事業と見るべきです。

大手7社のひとつだった株式会社大京は、何年か前から「無理するな」に方針を変え、都心・準都心はもとより、郊外・地方でも供給量を大幅に減らしています。バブル期に高くなった土地を大量に仕入れて不良在庫化し、一時は経営危機に陥った同社ですから、賢明な判断と言えるかもしれません。

要は、高い土地は危険だから買うなということらしいのです。他の大手も、高過ぎる土地に警戒感を持っており、購入をためらっていると聞きます。業界全体として、事業機会を失いつつあるということになるようです。

●土地を創り出す力

土地が買えないマンション業者は今後どうするのでしょうか?土地がなければ創り出す。すなわち、一定のエリアをまとめて再開発するしかありません。

そもそも駅5分以内に広くてマンション建設向きの土地は存在しません。稀に大邸宅があって売却するという事例や、中小スーパーや古い旅館跡などが建て替えるに当たって、マンション併用型にする例はありますが、どちらかと言えばレアケースです。つまり、もう駅5分以内に土地は残っていないのです。

 

そこで、次なる作戦は木造密集地をまとめて再開発するというものです。

現在販売中の武蔵小金井駅前マンションなどは最近の典型例で、もとの姿は下の画像のような街並みだったのです。


★武蔵小金井プロジェクトの掲示板はこちら

https://www.e-mansion.co.jp/bbs/thread/638988/)

画像の上部がJR中央線「武蔵小金井駅」、上部左手の建物がイトーヨーカドー、中央に移っているのが戸建ての密集地域で、ここがツインタワーが建設中の場所です。

「武蔵小金井駅・南口市街地再開発事業用地」となっており、ここの住民たちが長い時間をかけて協議して、ようやく合意に達したのです。

小金井市のホームページによれば、平成24年4月:準備組合設立、平成26年8月:都市計画決定、平成27年8月:組合設立認可、平成27年9月:武蔵小金井駅南口第2地区市街地 再開発組合設立、平成29年1月:権利変換計画認可、平成29年2月:解体工事着工、平成29年7月:建築工事着工とあります。

準備組合設立から着工まで5年ですが、その前が長かったはずです。。

非分譲103戸とあるので、地権者(旧住民)が103世帯あったということかもしれません。ここは商業地域でもともと容積率が大きいこともありますが、ほかにボーナス容積もあったに違いなく、戸数で716戸のマンションが建ちます。103戸が約7倍になったというわけです。

約600戸を分譲することで事業主は利益を得ることができ、かつ地権者もほとんど負担なく新しい住まいを手に入れることができることになったと推察します。

 

再開発事業が進むかどうかは、地権者の負担があるかどうかがカギです。無論、負担なしで建て替えられるだけでなく、現金の提供があるのが最も望ましい形です。武蔵小金井の計画がどのような負担割合になっているかは知る由もありませんが、地権者にとって妙味ある内容だったのでしょうか?ともあれ、どんな内容であっても合意形成には長い時間がかかったはずです。

実は、マンションデベロッパーという業態は、再開発事業のような長い時間を要する仕事が苦手です。単独の売主から短時間で土地を買収する方が手早く進みますし、開発と建設もスムーズに進められます。「売り上げは建物が完成して購入者に引き渡しをしたとき」という会計基準なので、土地を仕入れてから売り上げが立つまで2年では足りません。タワーマンションになると5年もかかってしまうのです。

 

再開発プロジェクトでは、地権者との協議期間中に情勢が変わることも多いので、事業収支を変更することが必要になります。そのたびに地権者に提示する買収額(還元内容)が変化します。そうなると、欲張り地主も少なくないので、計画がとん挫することになりかねません。一番困るのは着工がいつになるかのめどが立ちにくいことです。再開発プロジェクトは着工まで10年かかったという話を聞くことも多いので、デベロッパーが最初から乗り出すことは滅多にありません。

 

再開発プロジェクトは、大体が土地ブローカーや建築コンサルタント、ゼネコンなどの提示する案をベースに水面下で協議が進み、方向が見え出してきたときに初めてマンションデベロッパーが参画する流れになるのです。

プロジェクトの多くは、ゼネコンと地権者がタッグを組み進みますが、最後の段階でどのマンション業者に協力してもらうかを決めます。ゼネコンは、日ごろ付き合いのあるマンション業者に声を掛けます。

マンション業者は、ゼネコンの提案する採算分析(事業収支)を見て、参画するかどうかを検討します。1社単独か、大手2社・3社の共同かなどかはケースバイケースですが、参画マンション事業者がやがて決まります。マンション業者の決定権は再開発組合(地主)にあります。

再開発組合は、マンション業者に対して仮住まいを探したりする資金を求めます。商店を営む人もあって、営業保証金を求める人もあるようです。仮店舗を探して営業を続けるにしても、その設備投資が必要になるので、その金銭をもらいたいなどという声も上がります。

 

デベロッパーの金銭負担もかさみます。一般住宅の地権者の中には引っ越しを二度しなければならないことに抵抗する人もあり、合意形成には長い時間を要します。そんなことから、再開発マンションは時間とコストが多額にかかる事業になってしまいます。分譲価格も高くなりがちです。

(念のためにお断りしておきますが、上記の武蔵小金井駅前マンションが高いということではありません)

 

 

●日本ブランドで海外に出るマンション業者

再開発プロジェクトは、首都圏各地で多数進められていると聞きます。と言っても、その数はしれています。年間に売り出されるのは、高々3か所、分譲戸数にして2000戸か3000戸です。しかも、そのプロジェクトに参画できるのは、大手だけと言って過言ではありません。3000戸も毎年コンスタントに供給できるとも思えません。

 

その大手でさえ、1社単位に見た場合、年間の売り上げ目標を確保できない時代です。先述の株式会社大京はグループとして見れば、管理受託で安定収益源を持っていますが、別の子会社には中古の買い取り再販(リノベーション)事業をさせて売り上げを伸ばしています。冒頭で挙げた3社も学生マンション以外にも様々なメニューがあり、多角化を進めています。

 

各社の動静を見て気付くのは海外進出です。昔から海外展開はありましたが、バブル後は下火になっていました。最近は再び活発になっているようです。詳細は割愛しますが、アメリカ、東南アジアなどで複数の企業が大規模な開発を展開をしているという印象です。不動産という内需型産業も海外で稼ぐことは可能だというわけです。

 

●マンションを買いたかったら中古――が当たり前の時代に

マンション業者がマンション開発に情熱を燃やす時代ではなくなりつつあるのかもしれません。土地は高いし、それすらも入手困難。郊外は売れないし、駅から遠いマンションは全く売れない。精一杯の努力をしてコスト削減を図り、良いマンションに仕上げたつもりでも、売り出してみると結果は散々、売れ残って最後は利益を削ることになっています。

マンション事業は大して儲けはない。難しい時代になったものです。このように述懐する業者の経営陣は少なくないのです。

 

情熱を失ったマンションデベロッパーから優良な新築マンションが供給される確率は低くなった。そう思うべきかもしれません。素晴らしいマンションがたまに計画されても、価格が飛び抜けて高くなるのです。

 

筆者の感想は、数年前から「新築はろくなものがない」です。用地コスト、建築コストが高いので、デベロッパーのコストカット策も度を越してしまった感も強く残っています。「新築はろくなものがない」はこちら 

https://www.sumu-log.com/archives/9733/

 

新築志向の強い日本国民ですが、もはや新築を選ぶ時代は終わったのかもしれません。優良な中古マンションを上手に買って住むのが今後のテーマになって来るに違いありません。

建物が多少古くなっても、場所(立地)には建物のような劣経年劣化はないのですから、そこさえ誤らなければ新築に負けない価値ある中古マンションに当たる確率は高いのです。

「リフォーム代をかけ、仲介手数料を払うと、中古は結構高い」などと言う人もありますが、立地と維持管理が良ければ新築を上回る価格であっても購入価値はあるのです。同額なら新築が良いと考えて立地条件の悪いものを買ってしまうと長い目で、たとえば10年~15年で見たとき、結局は損をすることになりかねません。

 

中古を買ったら建物が老朽化してしまうので資産価値が下がるが、新築なら下がり方が少ないという誤った考えを持っている人もありますが、築20年の優良マンションを買って15年後に築35年のマンションとして売却する場合と、新築を買って15年後に売却する場合との比較で、中古購入に軍配が上がる例はたくさんあるのです。

 

マンションは資産性という側面があります。居住性が優先するのは当然であって、新築マンションの方が気持ちいいから新築を買いたいいう願望を否定する気はありませんが、資産価値の観点は軽視できないと思うのです。それに気付くのが10年後、15年後という人も多いので、筆者は後悔しないための「マンション評価サービス」を提供し続けて来ました。

 

今日は最後に、「安さに惹かれて駅から遠いマンションや郊外マンションを選ぶことの問題点を述べておきたいと思います。超長期の話ではあるのですが・・・

関連ブログ「根本的な誤り。それは安さの追求だ」はこちら

https://www.sumu-log.com/archives/9766/

同、マンション選びは「あちら立てればこちらが立たず」で中々難しい

https://www.sumu-log.com/archives/8122/

 

●立地の悪いマンションは誰も受け取らない時代になる

空き家問題が全国各地で表面化しつつあります。主に一戸建て住宅のことですが、主な問題点は次のようなものです。

朽ち果てる寸前の老朽家屋が倒壊して公道をふさぐ。危険だから解体してもらいたいと近隣常民が訴える。行政が持ち主を調べると既に死亡。相続人を探すと、遠方に数人いることが判明。ところが、一人を除いて相続放棄をしていて、唯一の相続人も使う見込みもないし、見たこともない家だという。だから「解体費を負担する気はない。行政側で適当に処分して」と希望を伝えて来たが、危険なので税金を投入して解体する。その費用は相続人に請求すると行政は通知しところ、相続人は支払いできないと拒否。計画は宙に浮いている。

 

空き家問題は、このほかにもいくつかの危惧が指摘されています。不良青少年のたまり場になるのではないか、オーバーステイの外国人が勝手に住み着くのではないかなどがよく聞く話です。

 

不動産を相続しても、使い道がないし、賃貸することもできない。そんな家はタダでも要らない。だから相続を放棄する。そんな人たちが増えているそうです。マンションも、いずれは同様のことになるかもしれません。

 

家賃が取れてもが月額3万円程度では、管理費と修繕積立金、固定資産税だけで消えてしまう。そんなマンションは持っていても手間がかかるだけだから要らない。一度は、貸せるならと相続したが、最近は、賃貸もままならないので、誰かに買い取ってもらいたい。不動産業者に相談したが、500万円でも売れないし、仲介手数料も安いので積極的に買い手を探そうとはしない。結局、管理費を払い続けている。しかし、その後、相続人も高齢化し、負担がつらくなって滞納し始めた。

そのようなマンションだから管理状態も次第に悪化し、マンション全体の資産価値は坂道を転がるように低下している―――将来、こんな事態になるかもしれません。マンションの購入に当たっては、立地条件をよくよく考えて選択しないといけないのです。

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

◆◆◆ お断り ◆◆◆◆

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