羽田新ルート直下から500mほど離れている、築20年ほどのファミリー向けマンションにお住まいのカシューナッツさんからの質問。
買主から羽田新ルートに対する質問があった場合、どう答えればいいのか……。
【もくじ】
◇カシューナッツさんからの質問
◇買主にどのように答えればいいのか?
◇羽田新ルート直下から何キロ離れていれば資産価値への影響はないのか
◇注意しておきたい点(補足3点)
カシューナッツさんからの質問
羽田新ルート問題にお詳しい「マン点様」へ
現在、羽田新ルート直下から500メートルほど離れている、築20年ほどのファミリー向けマンションに住んでおります。
今後、当マンションを売却する際に、資産価値が低下するのではないかと恐れております。
買い主の方から羽田新ルートに対する質問があった場合、どのようにお答えするのがよろしいでしょうか?
(二重窓など、防音に対する設備は備えておりません。)
また、住み替えで、今後マンションを購入する場合、羽田新ルートの直下から何キロほど離れた場所なら、資産価値への影響はないと思われますか?
よろしくお願いいたします。
2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて、羽田空港の国際線発着回数を増やすため、都心上空を飛行する羽田新ルート計画。
南風時(年間4割)15~19時のうち3時間、「A滑走路到着ルート(下図の青線)」は1時間当たり14回(4分17秒ごと)、「C滑走路到着ルート(下図の橙線)」は1時間当たり30回(2分ごと)の頻度で上空から騒音が降り注ぐ。
(※破線は悪天時のルート)
筆者の独自調査によれば、23区のうち羽田新ルート直下から水平距離500m範囲の人口は約109万人。23区の総人口927万人の12%が騒音の影響を受ける可能性が高い。
カシューナッツさんは、離陸ルートではなく、着陸ルート周辺にお住まいということを前提に以下、コメント。
※離陸ルート(上図の紫色)の場合は、都内では江東・江戸川区民が影響を受ける。
買主にどのように答えればいいのか?
飛行高度(対象地域)にもよるが、残念ながら、羽田新ルート直下から500mほど離れていても騒音の影響は免れない。新築マンションの販売現場では、「窓を閉めれば静かです」とか、「昼間は会社で働いているから(家にいないから)問題ありません」といったセールストークが使われているようだ(某記者からの情報)。
買い主から羽田新ルートに対する質問があった場合、私(マン点)なら、飛行機が飛ぶ時間帯と季節が限定的である旨を伝える。
どういうことか?
都心上空を通過する着陸ルートが運用されるのは、南風時で、しかも15時から19時のうち3時間限定(4時間でないのはルート切替時間が含まれているため)。羽田新ルートが運用される全体の約4割(年間平均)に相当すると想定されている(次図)。
(国交省FAQ冊子P39/時間帯別北風・南風運用割合(15~17年平均))
南風が多いのは4月から9月(次図)。
(同上/月別北風・南風運用割合(15~17年平均))
羽田新ルート問題が広く認識されていないうちに、しかもマンション市場が高止まりしているうちに売却できればベター。
時間帯と季節が限定的であれば気にしないという方に、売れることを期待しよう。
羽田新ルート直下から何キロ離れていれば資産価値への影響はないのか
飛行ルート直下からの水平距離が大きくなるにつれて、騒音レベルが下がる(飛行機騒音の影響が少なくなる)。国交省が公開している高度別・機種別騒音データをもとに、筆者が独自に試算した大型機(777-300)の騒音影響を可視化したのが次のグラフ。
飛行高度(地域)によって違いはあるものの、羽田新ルート直下から500m離れただけでは騒音の低減効果は少ない。資産価値への影響を排除したいのであれば少なくとも2kmは離れておきたい。
注意しておきたい点(補足3点)
羽田新ルート計画に関して、注意しておきたいことを以下3点掲げておく。(1)羽田新ルート計画の変更の可能性はないのか?
羽田新ルートは、2020東京オリンピック・パラリンピックまでに運用が開始される計画となっているが、まだ確定したわけでない。石井国交大臣は3月19日の定例記者会見で、「幅広い理解をいただいた上で、(略)新経路案を運用できるよう準備を進めてまいりたい(略)いずれにいたしましても、羽田空港の増枠に関しましては、今後、地元の御理解が得られた後、正式に手続きを進め、決定してまいりたい」と答えている。
今月の統一選挙や7月の参院選の結果次第では、一部変更となる可能性がゼロではない。
(2)運用時間帯は守られるのか?
国交省は「FAQ冊子v5.11」Q13で「運用時間(15時~19時)は守られるのか?」という問いに対して、「提案している時間帯での運用により当面の航空需要に対応することが可能」と答えている。「当面の航空需要に対応することが可能」というのは、当面(=今のところ)は「運用時間(15時~19時)」を守るという意味。将来、「運用時間(15時~19時)」を守らない可能性がある余地を残していると読めなくもない。
(3)騒音実測が国交省の推計値を上回る可能性
国交省は、高度ごとに飛行経路下の最大騒音値の推計値を示して住民に説明している。山添議員は参院「国土交通委員会」の質疑(3月20日)で、国交省の推計値に対して6.4倍の実測値がある事例を指摘。
これに対して、国交省は、「実際の測定値については標準値からズレる場合がある」と回答している。
実際の騒音値につきましては、離陸重量等の運行条件や風向き等の気象条件によって、標準的な値からの変動が起こり得るものでございますし、また、音の伝わり方は周辺の建築物、地形等の影響受けるものでございまして、実際の測定値については標準値からズレる場合があると認識しております。
国交省が公表している騒音値(推計値)よりも、実際には大きくなる可能性があることを認識しておいたほうがよさそうだ。
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