2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、羽田空港の国際線発着回数を増やすため、都心上空を飛行する羽田新ルート計画。羽田新ルート近くの中古タワーマンション価格に影響は出ていないのか?
【もくじ】
◇国交省の見解「因果関係を⾒出すことは難しい」
◇ルート直下から1km離れたくらいでは騒音の影響からは逃れない
◇ルート直下200m以内の中古タワマンは11件
◇中古タワマン相場の推計方法
◇タワマン相場への影響を可視化
◇まとめ
国交省の見解「因果関係を⾒出すことは難しい」
国交省は従来から「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」(FAQ冊子v5.1.2、P59)というスタンスを取っている。Q6 不動産価値が下落するのではないですか。
- 一般的な不動産価値は、周辺の騒音等の環境面や立地、周辺施設等の地域要因だけではなく、人口の増減等の社会的要因、財政や金融等の経済的要因、土地利用計画等の行政的要因、あるいはそもそもの需要と供給のバランスなど経済情勢を含めた様々な要素が絡み合い決定されます。更に環境基準を満たす中であっても、音などの感じ方については個人差もあると考えています。
- このような中で、航空機の飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しいと考えています。
ただ、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、羽田新ルートの運用が開始されようとしているので、そんな悠長なことを言っている場合ではない。
羽田新ルート周辺の住居を購入する(あるいは借りる)際に、すべての業者が契約前の重要説明事項で「羽田新ルートに近い物件」である旨を説明するとも思えないので、購入者(あるいは賃借人)との間でトラブルが発生する可能性は大いに考えられる。
ところが、羽田新ルートの件を重要事項説明書に入れるかどうかについて、国交省航空局 飯田室長は1月23日、渋谷区恵比寿で開催された住民説明会の場で、「不動産協会には新ルート空路、騒音など説明済み。最終的に入れるかどうかはそちらの方(不動産協会)で考えること」と回答している(羽田新ルート|実録!教室型説明会(@恵比寿))。
ルート直下から1km離れたくらいでは騒音の影響からは逃れない
南風時(年間4割)15~19時のうち3時間、「A滑走路到着ルート(下図の左側)」は1時間当たり14回(4分17秒ごと)、「C滑走路到着ルート(下図の右側)」は1時間当たり30回(2分ごと)の頻度で上空から騒音が降り注ぐ。「羽田新ルート|区民数百万人が騒音影響…絶望的な未来」より
飛行高度によって違いはあるものの、羽田新ルート直下から1km離れたくらいでは騒音の影響からは逃れないのである(次図)。
(同上)
ルート直下200m以内の中古タワマンは11件
羽田新ルートは不動産価値にどの程度の影響を及ぼしているのか?着陸ルートが設定されている11区(港、新宿、品川、目黒、大田、渋谷、中野、豊島、北、板橋、練馬)について、同ルート近くに位置する中古タワーマンション相場への影響を調べることにした。特に中古タワーマンションを調査対象にしたのは、取引が盛んで相場が把握しやすいからだ。
まず、SUUMOに登録されている「20階以上」の中古マンションにつき、「地図表示」機能を使って拾い上げる。次に、筆者が作成した羽田新ルート・グーグルマップで、ルート直下から当該マンションまでの距離を測定する。
11区のうち、羽田新ルート直下から概ね200m以内に位置する中古タワーマンションがあるのは次の5区・11件。ルート直下は3件。
※【 】内の距離は、羽田新ルート直下から当該物件の中心までの水平距離を示す。
- 品川A【150m】(28階建て、202戸、07年10月竣工、駅徒歩2分)
- 品川B【180m】(27階建て、254戸、07年1月竣工、駅徒歩6分)
- 品川C【直下】(29階建て、271戸、04年1月竣工、駅徒歩4分)
- 品川D【E棟50m、W棟100m】(39階建て、1084戸、09年9月竣工、駅徒歩3分)
- 品川E【90m】(23階建て、423戸、18年8月竣工、駅徒歩10分)
- 渋谷B【140m】(36階建て、501戸、00年8月竣工、駅徒歩2分)
- 新宿A【80m】(24階建て、209戸、08年4月竣工、駅徒歩4分)
- 新宿B【直下】(31階建て、317戸、01年12月竣工、駅徒歩6分)
- 中野A【130m】(29階建て、234戸、12年7月竣工、駅徒歩5分)
- 中野B【160m】(30階建て、169戸、07年4月竣工、駅徒歩5分)
- 港B【直下】(42階建て、581戸、05年9月竣工、駅徒歩1分)
A滑走路到着ルート、C滑走路到着ルートとも飛行機は900mから300mへと徐々に高度を下げていくので、国交省データによればルート直下の大型機による騒音レベルは70dBから80dBに上昇すると想定される。
中古タワマン相場の推計方法
マンション売買・賃貸情報サイト「マンションマーケット」には、中古マンションの価格相場として、物件ごとに最大過去6年間の月別m2単価・坪単価が掲載されている(次図)。上記で選定した羽田新ルート近くのタワーマンションにつき、m2単価の推移を可視化(グラフ化)する。
【メモ】
「マンションマーケット」に掲載されている「価格相場」は400万件以上の取引データから独自アルゴリズムによって解析されている。実際の売買実績との乖離率が「正確さランク」として公表されている。
- S:実際の価格相場との差が前後5%以内
- A:実際の価格相場との差が前後10%以内
- ー:情報が少ない、築年数が古い等により未判定
タワマン相場への影響を可視化
羽田新ルート直下から概ね200m以内に位置する中古タワーマンション11件のm2単価の推移につき、羽田空港に近い区から順に示す。品川区:影響あり
品川区平均の単価が上昇し続けているに対して、タワマン4件の単価は16年以降下落または頭打ちの傾向が見られる(次図)。品川区内を通過する羽田新ルートは、区長選(18年9月)と区議選(19年4月)で争点となったことなどもあり、タワマン相場への影響が顕在化してきているのではないだろうか。
ただ、品川D(超大規模ツインタワー)の単価だけが17年下期以降、再び上昇したのはなぜなのか。不動産会社が事情を知らない外国人に「お買い得」として売りつけているのか……。
港区:影響あり
港区平均の単価が上昇し続けているに対して、港B(直下)の単価は15年下期以降、下落傾向が見られる(次図)。品川区の次に飛行高度が低く、騒音レベルが高いことから、タワマン相場への影響が顕在化しているのではないか。
渋谷区:影響なし?
渋谷区平均の単価が上昇し続けているに対して、渋谷B(140m)は16年に大きく下落したあと、18年以降上昇している(次図)。渋谷区長選(18年11月)や区議選(19年4月)で、羽田新ルートが争点になることもなく、渋谷区内での羽田新ルート問題の認知度が低いため、タワマン相場への影響が顕在化していないのか。
新宿区:何とも言えない
新宿平均の単価が上昇し続けているに対して、新宿A(80m)は下落傾向、新宿B(直下)は17年上期まで下落したあと上昇している(次図)。羽田新ルートの影響が出ているのか否か、何とも言えない状況である。中野区:影響なし?
中野区平均の単価が上昇し続けているに対して、中野A(130m)の単価は17年以降下落しているが、中野B(160m)のほうは17年以降上昇している(次図)。総戸数が多くないので(中野A:234戸、中野B:169戸)、マンション市況が反映されにくいのか。あるいは、中野区では羽田新ルート問題がまだまだ認識されていないのではないか。
まとめ
着陸ルートが設定されている11区(港、新宿、品川、目黒、大田、渋谷、中野、豊島、北、板橋、練馬)において、羽田新ルート直下から概ね200m以内に位置する中古のタワマンは5区(品川・渋谷・新宿・中野・港)・11件。現状では、羽田新ルートが中古タワマン相場に与える影響は限定的なようだ。飛行高度が低く騒音レベルが高い品川区や港区の中古タワマン相場への影響は顕在化しているように見られるが、それ以外の区の中古タワマン相場への影響は必ずしも見られない。
今後、羽田新ルートの事故・騒音などの問題が世間の共通認識になっていけば、それまであまり気に留めていなかった「羽田新ルート・リスク」への懸念が一気に広まり、マンション価格に影響を及ぼす可能性は十分考えられる。その最初のタイミングは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて羽田新飛行ルートの運用が始まり、実際に住民らが巨大な旅客機が頭上を飛ぶ状況を現認し始めたときなのかもしれない。
※最新記事は「羽田新ルート|中古タワマン相場への影響 ※適宜更新」をご参照ください。
※本資料の作成には慎重を期しているが、データの精度について保証するものではない。これらの情報をあなたが利用することによって生ずるいかなる損害に対しても一切責任を負うものではない。念のため。
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