第213回 「修繕積立金が安い不思議なマンション」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

管理に関する知識では、スムログメンバーの「はるぶーさん」や「のらえもんさん」には敵いませんが、筆者の場合は「資産価値」の観点から「管理」について日頃から高い関心だけは持ち続けています。

今日は、修繕積立金について述べたいと思います。

 

●修繕積立金が安いのに維持管理が素晴らしいマンション

具体の物件名は書きませんが、専有面積当たり100円もない修繕積立金のマンションに先月遭遇しました。実は、今日も@65円のマンションに出会ったのです。この1年で3件目と記憶しています。

いずれも、東京都心の築15年以上を経過したマンションです。

 

100円は新築マンションの初期設定と同じレベルです。築15年を超えると200円くらいになる例が珍しくないので、安いことが分かります。

 

筆者の主たる仕事はマンションの価値評価です。高過ぎないか、買って良いマンションか、将来の価値はどうなるかなどのご相談にお答えするためです。この調査の一環として、管理費のレベル、修繕積立金のレベルもチェックします。

 

管理費も修繕積立金も購入者のランニングコストなので、軽視できないため調査対象から外すことはありません。といっても、多額の調査料をいただくわけではないので、管理会社または管理組合を訪問して調査するわけではありません。調査範囲は、標準値から大きく離れていないかどうかを見るだけです。

そのうえで、購入検討者に管理の良し悪しをチェックする方法をお伝えし、修繕積立金の値上げ計画(長期修繕計画)を調べるように進言しています。中古マンションでは、「積立金の残高」も問い合わせるように依頼します。

 

そんな中で、修繕積立金の月額が異様に低いのに、積立金残高が多いという不思議な中古マンションに遭遇したのです。

長いこと修繕を放置して来たためにで積み上がったのか? としても残高が多過ぎるなと思いました。購入者の話では、維持管理がとても良く、修繕を長く放置して来たようでもない。大規模修繕工事も2年前に済ませたばかりという情報も後にもたらされました。

 

結論として、1件目の調査マンションは携帯電話の通信会社がアンテナを屋上に設置しており、その使用料が、2件目のマンションは駐車場収入が多額にあって、それぞれ毎月の修繕積立金として急カーブで積み上がって行くらしいことが分かりました。

管理組合の財政が潤沢であり、修繕と改良工事代を惜しまないマンションだったので、築15年以上を経過したマンションには見えない印象になっているものと思われました。

 

●古いマンションは修繕積立金が高くなるが・・・

このような例は稀有です。アンテナや広告看板の使用料が取れるマンションはラッキーということになるのでしょう。首都高速道路を走ってみると、大きな広告看板が目につきます。低過ぎず、高過ぎずの14階建て以下のマンションが対象になっているのでしょう?

 

駐車場使用料は入居者が払うか外部へ貸し出すことで入って来るかはともかく、台数が多いマンションほど収入も多いことになります。都心の駐車料金は高いので、多額に上ります。1台あたり30,000円で戸数の半分の台数があれば、1世帯あたりで15,000円の積立金に相当します。平均面積が60㎡のマンションなら、1㎡当たり250円にもなるので、積立金が100円と低い設定でも駐車場収入との合計で350円になるわけですから十分なレベルです。

 

あとさきになりましたが、国土交通省のガイドラインには下表のような積立金の数値が記載されており、30年間の月割均等額が示されています。これを見るとおよそ200円/㎡なので、350円は多い部類であることが分かります。
階数/建築延床面積 平均値 事例の3分の2が包含される幅
【15階未満】5,000㎡未満 218円/㎡ 165円~250円/㎡・月
【15階未満】5,000~10,000㎡ 202円/㎡ 140円~265円/㎡・月
【15階未満】10,000㎡以上 178円/㎡ 135円~220円/㎡・月
【20階以上】超高層マンション 206円/㎡ 170円~245円/㎡・月
 

●計画では初期の5倍になる例もある

広告看板ほかの使用料や駐車場収入の少ないマンションの場合、ガイドラインにあるような積立金を設定しておかないと、大規模修繕ができないとか、できても最低限にとどめることになってしまいます。

 

資産価値の維持のためには、周期的な大規模改修が必須であるという認識が広まって、所有者の理解を得られやすくなっていますし、デベロッパー(分譲主)側も、売りっぱなし批判を受けて分譲時から長期修繕計画を組み、販売時に提示するようになりました。

 

計画自体は管理会社が策定して提案して来るものですが、その例をよく見る機会がある筆者は漸増方式の積立金を見てしばしば驚かされます。初期設定(当初5年~7年が多い)の金額から見て、16年目の設定が3~4倍は普通のことですが、20年目に5倍などという例もあるからです。

 

●修繕積立金に関する業界の姿勢

家を買ったときは、家具やインテリアグッズにも出費を惜しまない人が多いものです。

それと同じで、毎月のランニングコストを高くすると抵抗は大きいが、一時金は取りやすい。売り手はこのように考えます。

登記料やローン関係費用などの諸費用に中に混ぜてしまえば抵抗は小さいはずだ。住宅購入のとき、物件購入代金とは別に5%強の諸費用が必要だという知識を持っている人が増えています。事実「そういうものだ」と認識しているようで、抵抗はないと言って過言ではありません。

 

このような背景から、引き渡し時に払ってもらう一時金(基金)も年々増えています。修繕積立金は分譲時から多額に徴求しようという動きです。何年か前には積立金(月額)の60倍が平均的でしたが、直近では100倍が一般化しています。中には120倍、130倍の例も見られます。

最初にたくさん取っておけば、月額を低く抑えられます。もしくは、漸増カーブを緩やかにできます。

 

かつて、マンション分譲という商売は手離れの良いビジネスだと語ったデベロッパーの社長がありました。売ったらあとは管理会社に任せておけばいい、悪く言えば「売り放し」でよい商売でした。

建築上の問題でクレームが来たら施工会社が処理してくれる、という思いもあったようです。

 

これは今も真理ですから、修繕積立金を多額に取るというのは、販売の足かせになる恐れもあるだけに、デベロッパー(売主)としては積極的に取り組みたい方策ではないはずです。にも拘わらず、最近の増額傾向は何によるものでしょうか?

 

管理会社の要請でしょうか?値上げを提案しても、管理組合が賛成しないと財政が欠乏して維持管理がやりにくいので、最初からなるべく資金的な余裕を作りたいとでも売主に要望しているのでしょうか?

それとも、建て替えが殆んど不可能な分譲マンションは、将来、社会的なストックとして残るだけに、老朽化したマンションが増えて街までがスラム化するようなことがあってはならない、分譲した当事者としても「我関せず」というわけにも行かない。こんな企業の良識がそうさせているのでしょうか?あるいは、国の指導によるものでしょうか?

 

おそらく、要因はいくつかが交じり合っているのでしょう。都区内には築40年を超えるマンションが既に2000棟以上もあるのです。あと10年すると50年マンションが2000棟となります。

老朽化マンションは、放置すれば社会問題として無視できないものになる。官民ともに、解決案を見い出そうと日々考えているのです。そんな中、メンテナンスをしっかりやって行こう。そのための財政的な裏付けをしっかり作って行こう。こんな空気が生まれていると見るべきでしょう。

 

こうした動きは、20年くらい前から始まっていたと思います。それが波及し、時代の潮流として目立ってきたのがこの5年くらいなのかなあと思ったりしています。

 

●積立金が高いマンションはリセールしにくいのでは?

ご相談者の中に、積立金の漸増計画を知って心配する人があります。「15年か遅くとも20年以内に売却する可能性があります。そのとき、こんな高いランニングコストでは売れないのではないか?」と相談メールの一部に書いて来られるのです。

確かに、管理費と修繕積立金、駐車料金も入れると7万円にも8万円にもなると聞くと同調してしまいそうになりますが、増えるのは積立金の部分で1万円が3万円に、2万円増えるだけのことです。

家計を預かる主婦の立場なら2万円は大きいという話なのかもしれませんが、そこは物件によると言えましょう。地域性によるとも言えます。そのマンションに住みたい買い手、その街に住みたい買い手には必要経費なのです。

 

ランニングコストを嫌がるなら、一戸建てを選択するほかありません。しかし、予算内に納まる一戸建てはきっと買い手の価値観にも通勤の便にも合致しないのでしょう。だからマンションを検討しているに違いありません。

そうだとして、マンション選びにおいてランニングコストもだ時ですが、優先順位は後順位です。立地条件が最初にあって、広さや間取り、建物のスペックなどが次の条件に来るはずです。管理費や修繕積立金は最後の方です。

購入の気持ちが高まって来た最終段階に来て、修繕積立金の高さに懸念が出て来たというとき、どのように考えたらいいのでしょうか?確かに、リセールの際に次の買い手からは抵抗感が出て来るかもしれませんね。

しかし、積立金の少ない管理組合は適切な改修工事ができないかもしれません。リセール時に、そのことが災いして良い値で売れない事態になったら、ランニングコストが節約できてもトータルでは得は何もありません。

「損して得とれ」ではありませんが、長い目で見れば積立金も必要経費なのです。リセールバリューの高さは、立地条件で決まるものですし、同じ立地条件同士の比較ではその他の条件で決まって来るものです。修繕積立金の多寡が与える影響は大きくないはずです。

 

言い換えましょう。あなたの選ぼうとしている物件の立地条件は価値あるものですか?建物価値はどうですか?インパクトはありますか?物件のトータル価値はどうですか?地域内での競争力は高いですか?リセール時、築年数で前後5年の物件が同年代のライバルになるのです。近くのマンションを網羅して比較してみましたか?

 

こうした検討をしながら、最終的に積立金の額がバランス上、あまりも過大と思ったら買わなければいいのです。

 

●修繕計画の見直しと積立金の変更

納得できない人のために、もう一言、付け加えておきましょう。

修繕積立金の値上げは、必要な修繕費を賄うために必要な時期に資金ショートしないように計画されています。デベロッパーの依頼(意向?)に従って、子会社の管理会社が策定するというパターンが普通です。

 

管理会社は、将来の大規模修繕工事を受注したい立場でもあります。積立金に余裕のない管理組合では工事を発注してくれない可能性もあるので、工事費の見積額を高めにして余裕を持たせているかもしれません。積立金の増額計画はこれと連動しています。つまり、積立は最初から余裕があるかもしれないのです。いえ、多分そうです。

 

ここでは具体のマンション名を挙げませんが、筆者が知る武蔵小杉のタワーマンションのひとつが、4段階の値上げ計画を1回の値上げだけで済ませる計画に見直しています。理事会の役員の誰かが、管理会社に依頼して作り直した計画は、当然出費を削り、もしくは修繕項目の一部を先送りすることで期間内の出費を少なく、伴って収入計画(積立額)も減額したのです。

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・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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ちなみに、6月30日の第683回は「40年先を見据えてのマンション購入作戦・シリーズ第4回」です。

 

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