このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
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インターネットか何かの本に書いてあるのだそうです。「何年頃のマンションは基本構造に優れたものが多い」とか「何年ごろのマンションは価格高騰期に企画したから見えないところで手抜きしたものが多い」などと。長くマンションづくりに携わって来た筆者には、その根拠はあいまいで不確かな情報としか思えないのです。マンションの選び方論を書いていた作者が論説のネタがなくなって無理やり選んだテーマではないか。そんな印象を受けます。
最近の新築マンションは手抜きした設計、グレードダウンしたスペックの物件が多いのですが、2007年頃も安物マンション・手をかけていないマンションが増えた時期ではありました。だからといって、そのころのマンションは避けた方がいいという主張には結び付かないのです。
価格高騰にもかかわらず飛ぶように売れたバブル期のマンションは、売り手にコストダウン意識が薄く、華美な装飾を施したものが多くありました。そのころの物件は、25年以上も経つのに陳腐化しておらず、上質感・高級感を残したものが多いですが、だからその時代のマンションがいいとも限りません。
何年頃のマンションがいいですかと問う人の心理は、危ない年代はいつごろかを知りたいのでしょう。「何年頃のマンションは避けましょう」という答えを期待しているのかもしれません。
しかし、筆者は「グレードの高いバブル期のマンションがいい」とは言いませんし、「今回の値上がり局面の少し前がいい」とも言いません。傾向的には正しい論理でも、個別にマンションを吟味する(購入を検討する)ときには役立たないからです。
●品質で重要な点はどこか?
新築マンションの検討者は、例外なくモデルルームを見て「設備が良かった。高級だった」か「チープな印象を受けた。●●が装備されてないことに落胆した」などと口にします。しかし、中古マンションの検討者からは同様の感想は聞こえて来ません。「リフォームする箇所は少なく、そのまま住むことができると感じた」から「全面的なリフォームをしないとダメかもしれない」まで、幅はあるものの、前提にリフォームを念頭に置いていることが分かります。
中古マンションの物件ごとのページを開くと、そこには設備・仕様につて詳しく紹介したものから大雑把な説明しかついていないものまで幅があります。
筆者の「マンション評価サービス」で提供している「レポート」には、①立地についての評価、②建物についての評価、③売出し価格の適否を必ず盛り込むのですが、建物の評価については、内装(設備・仕様)についても机上で分かる範囲のチェックをしています。
その細目は、下表のようなもの(抜粋)です。
項目 | (A=上級グレード) | (B=標準グレード) |
複層ガラス窓 | Low-e膜サンドイッチ | 乾燥空気サンドイッチ式 |
オートロック | 玄関から住戸前まで3か所にロック | 共用玄関と玄関前の2か所にロック |
インターホン | 住戸前もカメラ付き | 住戸前は音声のみ |
トイレの手洗いカウンター | 天然石・フィオレストーンなど | 人造石カウンター、キャビネット型手洗い器など |
便器のデザイン | タンクレス/ロータンクトイレ | タンク付き・手洗い兼用タイプ |
洗面台 | 天然石・フィオレストーンのカウンター | 一体成型/人造大理石カウンターなど |
ミストサウナ | ||
エアコン | 天井カセット式 | 壁付けタイプ |
ディスポーザー | ||
食器洗浄乾燥機 | ||
キッチントップ | 天然御影石/フィオレストーン | 人造大理石など |
食器棚・バックカウンター | ||
スロップシンク | バルコニーに設置。運動靴などを洗う、雑巾を濯ぐなどに重宝 | |
床暖房 | 全室 またはLDK+主寝室 | リビング・ダイニングのみ |
床仕上げ | 廊下や洗面所の天然石仕上げ、居室の突き板フローリング、高級絨毯張りなど | 居室のシ―トフローリング、玄関のタイル貼り、水回りのCFシート張りなど |
床の構造 | 二重床 | 直貼り |
この中で、リフォーム工事で対応できないものは「オートロックシステム」と「スロップシンク」「ディスポーザー」「複層ガラス」です。また、キッチンの形状や大きさによっては「食器洗浄乾燥機」を追加装備できないものもあります。
また、玄関ドアのデザインが気に入らないから変えたいと思っても管理規約上触ることができません。
オートロックシステムも昔と今では随分進化し、古い型は魅力が薄らいでいます。そう言えば、筆者のかつて住んでいいたマンションもモニターに映し出される訪問者の画像は白黒でした。最近のマンションは例外なくカラー画像です。
結露ができにくいとされる複層ガラスですが、正面から見ただけでは一枚ガラスと変わりません。メーカーの性能説明では、効果が高いらしく、特にLow-eと呼ばれる薄い金属の膜を貼った複層ガラスは優れモノと言われます。
新築マンションにせよ、中古マンションにせよ、専有部の設備・仕様は便利な最新型を装備し、デザイン的にも美しいものの方が良いに決まっています。
賃貸マンションに居住している人たちが分譲マンションを見て感動を味わうのは「やっぱり分譲は違うわね。設備がいいもの」という点です。
その感動が購買意欲を大いに盛り上げるものであるのは間違いないのですが、内装はいずれ古ぼけて行きますし、設備は故障し、いつかは陳腐化するのです。その意味で、新築を買ってももやがてリフォームやリノベーション工事が必須となります。
中古マンションを買う場合なら、リフォーム工事すれば快適に住んでいけるでしょうし、内装に関しては多少の不備があっても満足度を高める策はあるのです。
建物品質で重要なのは「内装」ではなく、「躯体・構造」と「共用部」です。
例えば、「階高が低い」とか、それとセットの「直貼り床構造」、「下がり天井を含めて天井が低い」といった建物は願い下げです。
また、共用部の貧弱さも問題です。共用部とは、「外壁や共用玄関、廊下、エレベーター、庭園」などです。これらは内装と違って、区分所有者個人の意思ではどうにもならないからです。
共用部と言えば、維持管理の対象も共用部です。これが適切になされているか、新築なら適切に行われるだろうと信頼できるかは重要です。
●昨今の新築マンションは不備だらけ
2013年頃からマンション価格は急騰して来ました。2012年を100とすると首都圏の平均で2018年は133になりました。これは新築マンションの単価のことですが、連動する中古マンションも同率で上昇しています。価格が上がれば、購買力とのミスマッチが起きます。つまり買えなくなる人が増えてマンションの売れ行きは悪化するのです。購買力が元々高い人には無関係ですし、金利が低下すれば購買力は高くなるので問題はありません。しかし、金利低下分を超える価格高騰が起これば焼け石に水です。
新築マンションの売れ行きのバロメーターとされる初月契約率のデータを注視していると、2015年秋から雲行きが怪しくなって2016年1月以降ずっと契約率は低迷しています。
売れ行きが悪くなって各社とも様々な手を打ってきましたが、そのひとつに「建物のシンプル設計」と「設備・仕様のレベルダウン」が挙げられます。
代表的なのは、直床構造のマンションとアルコーブもないような平板な「田の字」間取りです。
そのほか、コストダウン策の詳細は本ブログの過去記事をご覧いただくとして、https://www.sumu-log.com/archives/8534/
最近のマンションは前進でなく後退しているのです。残念に思います。
(https://www.sumu-log.com/archives/9733/)
●マンションの価値は年代では分からない
言うまでもないのですが、不動産は使う人が数多くあれば高値に、使う人がなければ無価値です。つまり、人気のあるマンションには高い値が付き、価値がない・人気がないマンションは安くなるのです。年代がいつであろうと、内装が不十分であろうと、価値あるマンションとされる(市場の評価が高い)マンションは存在します。基本には倒壊しない、普通に生活できる建物であるはずで、内装等が不備であっても、別の要素に魅力がたっぷりあれば人気を博します。
人気とは、新築なら1年以内に500戸以上も売れてしまうようなマンションを指します。中古なら売出し後1か月以内に買い手がつくような物件と言えばイメージがわくでしょうか?
そもそもマンションの買い手は1年に首都圏で8万人程度(新築+中古の合計)です。世帯数比で高々0.5%です。 首都圏(一都三県)の世帯数は約1550万(2010年)なので、僅か0.5%に過ぎません。しかも、全域均等ではないので、郊外は一戸建て希望者が多く、マンション購入者の比率は0.1%もないという街もあるのです。
いずれにせよ、マンションのマーケットとはそのレベルです。そのわずかな買い手を探して販売する構図なのです。嫁一人に婿5人状態のマンションかどうかという見方をすると、決め手は内装ではないのです。
内装のレベルが低い、スペックが劣る年代の物件であっても、街一番のスケールや駅に近いとか環境が抜群に良いといった要素があれば、買い手はたちまち現れ、希望通りの値段で売れることになります。
●何もかも揃うマンションはないが・・・
築35年の「広尾ガーデンヒルズ」は今も坪単価@500万円を超える高値で取引されています。古いだけに、近年流行りの共用施設(ゲストルームやキッズルーム、パーティルームなど)があるわけでも、ディスポーザーが装備されているわけでもありません。高台にあるので住民は坂道を登らなければなりません。隣に大型のスーパーマーケットがあるわけでもありません。小さなスーパーと小さなカフェはありますが、見ようによっては便利とは言えません。しかし、ヴィンテージマンションとして今も高い人気を保持し続けています。
その要因は拙い表現ですが「森林公園の中に建つマンション群」とでも言うべき、その環境面にあります。都心の高台にある広大な高級住宅街という要素も加わるでしょうか?
広尾ガーデンヒルズ以外でも、人気マンションは「立地条件」に人気の理由があります。同じ地域の同じような立地条件にあるもの同士の比較では建物の差が資産価値(市場価格)に表れます。
間取りは良くないが眺望がとても良い。500戸を超えるスケールが共用部の豪華さを生み、エントランスホールからエスカレーターで2階に上るとコンシェルジュカウンターがあって、帰宅する住民を笑顔で迎える職員がいて、その先には広いロビーラウンジが続いているといった光景が見学者を「ホテルみたい」と感動させます。
その感動こそが、専有部の狭さや収納不足を妥協させ、成約につながったりするのです。
方位の問題も、近頃は気にしない人が増え「南向き信仰」が薄くなっています。他の要素が弱点を補い、ときには消し去るのです。
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何かを優先し、何かを捨てる(妥協する)ことが必須と言われると頭の中では分かっているが、いざその場に立つと、どこを妥協したらいいのかが分からないと語る人が少なくありません。
勉強すればするほど知識や情報が増えて混迷の度を増すようです。「何年ごろのマンションには気を付けろ」などという情報も勉強のし過ぎがもたらしたものかもしれません。
筆者に言わせれば要らない情報です。乱暴な言い方をお許しいただくとすれば、無知でいた方が決心はしやすいのです。
とはいえ、人生最大の買い物をしようとするとき、「無知では怖い」ものでもあります。ある程度の学習はしなければ後悔することになりかねません。しかし、専門家のようなレベルに達することは土台ムリがありますし、その必要もありません。
インターネット時代になって情報は簡単に手に入る反面、玉石混交で取捨選択にかえって手間取ってしまうものでもあります。理論武装したと自負する人でも、最後の段階では答えを導けないと感じているようです。
であれば、「餅は餅屋に聞く」方が手っ取り早くて効率的と言えます。問題点が何かも分からない場合は無論、気になる問題をどの程度重視したらいいのか、無視していいのかなど、得た知識と情報の程度に応じて、筆者はどんなことにもお答えしようと考えています。そう言い続けて努力して来ました。今後も変わらない姿勢で個人のマンション購入または売却のお手伝いをしていこうと思います。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。
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(写真は丸善書店の丸の内本店にて撮影したもの)