このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
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都心のマンションは高くなり過ぎて中々販売が進まないという状況にあって、安値の郊外マンションに人気が高まっても不思議ではない気がしますが、実際はどうなのでしょうか? そんな質問がありました。今日は、「郊外マンション」の将来について考えてみようと思います。
ただし、郊外マンションと一括りにしてしまうと誤解されやすいので、本記事では東京駅からコンパスを回して20㎞あたりに線を引き、埼玉県のJR大宮駅辺りから西武線の所沢駅、JRの中央線の国立あたりまでをイメージしてお読みいただきたいと思います。
神奈川県、千葉県もと言いたいところですが、本稿ではあえて埼玉県から東京郊外に至る4分円エリアを念頭に置きながらお読みください。
●価格の急騰が需要を外に押し出す時代ではなくなった?
バブル期(=1985年から1991年までの日本で起こったバブル景気)のマンション市場は、価格高騰が激烈であったことで記憶に残っています。そのころ。通勤圏内で買えるマンションはどんどん消えて行き、一般サラリーマンの手が届く物件は都心から加速度的に遠ざかって行ったのです。
ちなみに、1991年の23区の平均坪単価は、なんと@513万円と、俄かには信じがたい数値を記録しています。29年前の価格とは思えない異常な現象でした。現在(2018年)の同エリアの平均は@376万円に過ぎません。1戸平均では1991年が8600万円余だったので、2018年の7142万円より1500万円も高かったのです。(いずれも30㎡未満のワンルームは除外。不動産経済研究所調べ)
今では新築マンション供給の半分を占める東京23区内の供給シェアが、1991年は4748戸の18%余でした。分母の首都圏(1都3県)の合計も、2万6000戸弱と激減していました。1990年までの5年間は4万戸前後で推移していたので、40%近い落ち込みになったのでした。バブル末期のことでした。
バブル期の地域別供給シェアを振り返ると、23区は20%に過ぎませんでした。これに対し、2018年のそれは43%でした。詳細は割愛しますが、用地不足のためにデベロッパーは郊外へ郊外へとトコロテン式に押し出されてしまったのが80年代でした。それでも郊外マンションが売れる時代でした。
最近、つまり2010年以降のエリア別シェアを見ると、郊外マンションは都心部の用地不足を埋める格好にならず、低迷しています。
価格高騰、用地不足は過去の経験則に照らせば、郊外マンションの供給増、郊外マンション人気の再燃となっても不思議ではないはずです。実際は郊外マンションの人気復活とはならなかったというわけです。
賢明な読者はお気づきかと思いますが、郊外立地では困る買い手が増えて「高くても都心・準都心」志向の需要構造に変わってしまったためです。
郊外では困るサラリーマン層が増え、かつ購買力の高まりによって都心・準都心の高額マンションがよく売れる市場構造に変化しているというわけです。
そう、背景には共働きのサラリーマン層の台頭があるのです。子供のいないDINKSは無論、子育て環境が少しずつ整うに伴って、子育て世帯も妻の離職なしにすむという環境ができつつあるからです。「保育園の増加と働き方改革」の進展によって、ダブルインカム世帯は都心・準都心マンションを購入することができたからとも言い換えられます。
夫婦合算の所得が1000万円を超える若手サラリーマン層も増え、価格が8000万円クラスの物件を購入できる世帯も少なくないようになりました。その購買力を後押ししているのが、住宅ローン金利の低下や住宅取得促進政策です。
もっとも、最近数年に限ると、価格の急騰が足を引っ張ってしまうという側面も否定できなくなりました。23区だけの価格推移を2014年以降の坪単価で並べてみると、@288万円→@326万円→@332万円→@352万円→@375万円(2018年)と上昇。2018年は2014年比で30%も上がっているからです。
この間に、住宅ローン金利の一段の低下があったとはいえ、価格急騰を相殺できるほどではありません。当然、売れ行きは悪化し、竣工時点の在庫は未発売分を加えると販売予定戸数の50%に達していると囁かれています。
●テレワークの普及で郊外マンションが脚光を浴びる?
価格高騰の原因は、用地費と建築費の高騰に尽きるのですが、東日本大震災の復旧・復興需要で上昇して来た建築費は、頭打ちになって来たとも言われますが、全国各地で連続的に発生した自然災害によって、ゼネコン業界の繁忙は相変わらずです。このため、建築費が下がる見通しはまだ立たないようです。用地費の方も、インバウンド需要(ホテル建設等)、オフィスビル需要などが重なって都心・準都心の好立地の土地は高値を呼び、採算の採れるマンション用地は業者の手に回って来ないのです。たまに、好条件の売地があると、マンション業者同士の苛烈な競争によって買収価格はつり上がり、原価を押し上げています。
売れ行きの悪化要因は価格の急騰にあると言って良いのですが、マンション業者は「需要はある。時間をかけてでも価格を維持しながら売って行くしかない」と発言しており、じっくり販売に取り組む姿勢のようです。
しかし、そうはいっても売り上げを確保しなければ経営が苦しくなるデベロッパーもあるはずです。そうした業者は、比較的、用地取得がしやすいとされる郊外マンションを開発しようとします。
ところが、先に述べた通り、都心・準都心需要は根強い反面、郊外マンション需要は減っており、郊外マンションを購入する階層は、郊外に職場を持つ買い手だけに絞られています。それでも、マンションデベロッパーは生き残りのため、その需要の深掘りを図るほかありません。
しかしながら、それが上手く行っているかというと、成功例は多くないのです。
今後の業界の動きを注視して行かなければなりませんが、郊外マンションは、国の政策「働き方改革」の一環である「テレワークのしやすいマンション」に日が当たるようになるかもしれません。
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用して、職場とは別の場所、例えば自宅やサテライトオフィス、共同オフィス、図書館などで仕事をすることとされますが、マンションの共用部には、「スタディルーム」や「多目的ルーム」「ラブラリーコーナー」といったスペースが設けられているものがあります。
このようなマンションなら、公共の図書館などを探さなくても、自宅からエレベーターに乗るだけで職場に通うことができるというわけです。子供が学校に行っている間は、自宅でも仕事ができるでしょうが、Wi-Fi環境は無論のこと、携帯電話がつながりやすい環境と、コピー機や製本機といった機器が備えられていれば、そのマンションは仕事にも使えるということになります。
このようなマンションは既に存在しますが、デベロッパーの立場では開発の難しさがあるのです。上記の「スタディルーム」などの共用施設は大規模マンションには付設しやすいものの、中規模以下では採用が難しいからです。共用部の面積を増やせば、専有面積(売り面積)が減って、販売単価が上がるためです。
建築費は都心でも郊外でも大差ないので、価格に影響するのは建築費だけです。郊外マンションは安くしなければ売れない宿命を持っています。このため、建築コストの下げやすい、スケールの大きなマンションに狙いを絞る傾向があります。大規模マンションを安価に分譲することで、郊外居住の需要層を集めたいと、マンション開発者は考えます。
その結果、行きつくのは大型マンションです。スケールメリットでコストを抑えるという構想です。
ところが、大型マンションは大量販売というリスクを抱え込みます。大型マンションの開発用地が駅前にあれば、集客力もありますが、郊外の駅で、最寄り駅まで徒歩10分といった物件は販売に苦戦しています。付加価値のある大型マンションでも、駅から5分以内でなければ売りづらいということは過去の先例が証明しています。
デベロッパーは、郊外で用地を取得するときは、できるだけ駅前・駅近を希望します。都心通勤層でも、駅前なら興味を示してくれるからです。
郊外マンションで、駅から遠い物件は致命的――デベロッパーの知人は語ります。しかし、筆者は賛意を示しつつも、テレワークの普及によっては脚光を浴びるマンションも現れるだろうと考えています。
最近のご相談者であるQ夫妻は、郊外のある街から都心の職場に通勤しているそうですが、より職場に近いエリアでマンションを買おうとしています。
Q夫妻は、「郊外なら素敵なマンションもあるのですが、子供ができたとき、郊外マンションは通勤時間が負担になりそうなので外しています。当初は、郊外の方が安いし負担も少ないので、現居住地の近辺で探していたそうですが、二人の所得を併せれば、もっと都心に近い場所でも買えることに気付き、通勤時間を短縮できる準都心・都心へ目標を変えたのです」と語りました。
「テレワークといっても、二人とも通勤苦が解消されるわけではないのです。確かにフレキシブルになって通勤地獄を避けることができるときもありますが、子供ができたときのことを思うと、通勤時間の短い場所がいいですから」とQ夫妻は語りました。
●テレワークが普及しても都心通勤がなくなるわけではない
テレワークの普及は、マイホームの立地条件について、根本から考え直すきっかけになるのかもしれません。企業によっては郊外都市に小型のサテライトオフィスを用意し、郊外に住む社員を集めて会合を開くとか、サブオフィスとして使わせるようです。テレビ会議システムを使って本社と打ち合わたりすれば、東京本社に集まらなくてもいいのでしょう。
また、楽天のように本社を都心でなく世田谷区などの都心から少し距離を置いたエリアに構える企業も増えるかもしれません。
しかし、これらが奔流のようにビジネス社会を大きく変えることがあるとしても、自宅マンションをどこに構えるかという選択とは簡単に結びつかない気がします。
言い換えましょう。都心通勤が週に3日とか4日といった程度であれば、住宅ローン負担の少ないマンションを郊外に家を構えても不便はないでしょうし、夫婦とも仕事を続けていけるかもしれません。テレワークの普及は、それを後押しすることでしょう。
しかしながら、だから「マイホームは郊外で」という潮流が生まれるかというと、筆者は懐疑的です。夫婦が同じ会社に勤務しているわけでもありません。
バブル期より、もっと前のことですが、郊外に本社機能の大部分を移転してしまった生命保険会社がありました。神奈川県足柄郡大井町の第一生命「旧大井本社の話です。
いわゆるバックオフィスの発想に留まらず国土開発に対する画期的な試みとして当時はマスコミを賑わせたようです。当時の挑戦的な「田園都市構想」の理念を継承し、郊外型バックオフィスの新たなプロトタイプを実現したなどと言われたようです。
Wikipediaから引用してみます。
・・・・・「第一生命はその広大な丘陵に近代的な建物を建てて、職員と家族も町に集団移転するとの方針を定めた。この計画は「大会社の田園への疎開」「理想の田園都市づくり」とマスコミも大きく取り上げ、折しも、都市機能の地方分散に関する議論が活発化していた時代背景もあり、識者はこの計画の斬新性と先見性を高く評価した。
新社屋は1963年2月に敷地内の道路建設と敷地工事に着手。1967年10月に「相互台」と命名した丘陵の上に地上18階・地下2階・塔屋1階の新社屋が完成した。この新社屋は日比谷の本社と同じ「第一生命館」と命名され、大井本社(大井第一生命館)と呼称することになった。
大井本社には事務部門とシステム部門を置き、東京本社からは全体の約55%にあたる約1650人が移動。そのうち約1300人は女性職員でその殆どは大井本社に通勤できるように新たに採用した職員だった。また男性職員の殆どは新設の独身寮や社宅に入居し、職住近接の生活を始めた・・・・・
注)その後、この建物はコーヒー通販で有名な(株)ブルックスへ売却され、現在はブルックス大井事業所となっているようです。
古い話で当時の事情を深く知っているわけではありませんが、ITシステムで最先端を行っているような企業でも、オートメーション化が徹底された工場などを除けば、顧客の住む街にも近くなければオフィスは成り立たないのです。
第一生命が、都心のオフィスを廃止したわけではないのですが、当時はオフィスを郊外に移さなければならないほどの厳しいオフィス事情や人手不足などの問題があったのかもしれません。
話を元に戻しましょう。ITが普及した今日、事業や業務内容によっては郊外でも成り立つオフィスがあるのは確かです。しかし、大半は都心立地が必須と言って過言ではありません。
サテライトオフィス、またはバックオフィスを設けて個々の企業が都心集中を緩和するとか、楽天のように本社まで周縁部へ立地することはあっても、企業の過半が拡散して行くという巨大な潮流が起きるとは思えません。
●郊外マンションの将来価値
最近の郊外マンションの不人気ぶりを見るにつけ、郊外マンションの未来は明るくないと感じざるをえません。今後、郊外マンション人気は復活するかと問われれば、否定的な答えしか導けないのです。潮流に変化が生まれているようでも、マンション市場という切り口から見てしまう筆者には確信が持てないからです。そこで最後に一言。「郊外マンションほど物件を厳選しなければならない。将来の転売価格に期待は持ちにくいから」そう思いましょう。
郊外都市に勤務する人が多数あるのは事実です。しかし、そのボリュームは都心通勤者と比べればはるかに少ないのです。つまり、市場規模が小さいので、より競争力の高い物件を買っておくことが重要になります。
郊外物件は、最寄り駅に徒歩5分以内、鉄道は都心一直線の幹線が良いのです。価格の安さに釣られて枝線・支線、各駅停車だけの小さな駅のマンションやその駅から徒歩10分といった物件は避けた方が良いでしょう。郊外ながら「賑わいのある街が良い」のです。
郊外でマンション選びをする人は、「より厳選」したいものです。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。
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・・・・※2020年のマンション価格・新築供給の見通し
・・・・※新築か中古か?
副題(2)これからのマンション選び、その要諦