第243回 「値下がりが懸念されるマンションを買うとき」

スポンサードリンク

このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

今日はマンション選びの原点について振り返ってみようと思います。筆者が日頃くりかえして来たことばかりですが、ご高覧いただければ幸甚です。

*  *  *  *  *  *  *

立地条件の良いマンションは、価値が下がりにくいものです。駅10分より、駅1分の方がマンション供給の確率は低く、従って、駅1分のマンションは稀少価値を生むからです。

 

反対のケース。都心から遠く離れたエリアは、駅前でも青空駐車場や空き地があり、マンション供給がいつでもできそうな雰囲気を漂わせています。駅から少し離れると、軽工業の工場や資材置き場があったりします。そこへ建てられるマンションは稀少性に乏しいと言わざるを得ません。売れ行きも良くないので、1年中「モデルルーム公開・好評分譲中」の看板などの広告が目につきます。

 

このような場所では、中古マンションが値上がりすることはありません。最新の設備とインテリアで化粧された新築との競争に勝てないだけでなく、売り物も多いため、いつも安値取引になってしまうのです。

 

地方に転勤した際に価格の安さに惹かれて、地方都市でマンションを買ってしまう人もいます。その場合も、売却時にショックを受けるほどの値下がりに見舞われるケースがあります。

 

このような対比を知り、安値になる懸念を持ちながらも、また、先のことを深く考えず、マイホーム欲しさだけで郊外や地方都市で購入する人が存在します。そこで、本稿は値下がり確率が高いマンションを選択するときの考え方と対策をご紹介して行くことにします。

 

住まいは売らない限り経済的な損得の実現はない

大きな値上がりを体験した人達が数多く存在します。タイミングや購入した物件・場所によって差はあるものの、短期間に我が家が2倍、3倍になったことで驚いた人も少なくありません。

 

しかし、現に住んでいる家の値段が何倍になろうと、何の得もありませんでした。むしろ、固定資産税がアップしたことで苦々しく思った人もあったはずです。

 

一方、売却した人は、手にした金額に驚くとともに喜び一杯だったことでしょう。ただし、その金でもっと良い住まいを手に入れようとすると、郊外のまだ値上がりの波が及んでいない街へ行くほかにありませんでした。売却した場所の近くは同じように値上がりしていたため、売却して得た金銭に(新たなローンなどで)プラスしなければランクアップした家は買えなかったからです。

 

反対に、バブル期に高額な住まいを購入した人は、その後の極端な値下がりを体験することとなりました。

何かの事情で売りたいとなったとき、現実の厳しさにぶつかりました。売却して得る金銭では住宅ローンの残債を清算できないことを知ったからです。いわゆる追い銭が必須でした。その金額の大きいこと。結局、売却を断念した人も多かったはずです。

 

これは、含み損を抱えてはいるものの、損失を確定しないで済んだというケースですね。

つまり、値下がりしても、売却しなければ損は表面化しないのです。

 

永住はあり得ないとしたら

近年、永住志向の買い手が増えたと言われますが、当職にご相談くださる人の100%が検討マンションの将来価格に強い関心を持っています。「物件の評価依頼」をくださる方の70%は「将来価格の予測サービス」をお申込みくださいます。

ご相談者の大半が10年から20年くらいの幅で将来の売却を想定しています。しかし、その中には、値上がりが期待しにくい場所での購入を予定している、つまり、郊外都市で購入を検討しているご相談者も少なくないのです。

 

ご相談者の多くが、少しでも値下がり幅が小さい買い物をしたいと考えているようです。それにも関わらず、どう見ても厳しい予想しか出せない物件を買おうとしている人もあります。

こうしたケースでは、何年か先に損失が確定してしまいます。それを覚悟して購入することになるとしたら、そのときの心構えはどうあればいいのでしょうか。

 

見方を変えてみよう!!

大きく値下がりしても、次のように考えれば損とは言えません。考え方の問題ですが、シミュレーションしながらご紹介しましょう。ここでは、15年間住んだ後に転売する場合を想定します。

 

まず、今後15年間の生活を家族で楽しむ(快適に暮らす)ための買い物であると考えます。

 

購入住戸を賃借したと仮定した場合、毎月の賃料はいくらになるか調べます。15万円の家賃が相場としたら、15年間で15万円×15年×12カ月=2700万円の賃料が消える計算です。

 

15年後に売却するとき、家賃を払ったと仮定した分の2700万円の値下がりで損得はトントン。それ以下の値下がり率に留まれば、その差額が儲けになると考えます。

もし、購入マンションの価格が4000万円であったとし、15年後に半値の2000万円になったとしたら、それでも700万円の儲けが出る理屈です。

ただし、これは全額現金で購入した場合の話です。住宅ローンを利用した場合は、計算が違って来ます。これを以下に解説しましょう。

 

4000万円の郊外マンションを頭金500万円、ローン3500万円で購入したとして試算してみます。

3500万円のローンを35年返済、固定金利1.2%で利用した場合の15年間は次のようになります。

 

*毎月返済:102,095円 (元金は初回67,095円➔180ヶ月目80,240円:15年間の平均73,667円。15年間の支払額の合計は約1330万円。 内訳:金利は初回が35,000円➔180ヶ月目21,855円:15年間の平均は約28,400円、15年間の合計金利約510万円となります)

 

*15年後の残債は約2,170万円 (当初借り入れ3500万円から約40%の1,330万円減)

 

※4000万円の物件が2170万円 (1330万円=46%の値下がり)になったとしたら、ローンの清算をすると手残りはゼロとなります。つまり、購入したときの頭金500万円を全額失うことになります。

 

※しかし、3割の値下がりですめば売却額は2800万円なので、清算金(借り入れ残高)2170万円を差し引いた手残りは630万円となり、頭金部分500万円その他の経費が戻る計算となります。

仲介手数料などの経費が別途必要です

 

上記のシミュレーションでは、ボーダーラインが3割です。これを超える値下がり、例えば半値の2,000万円になってしまった場合は、住宅ローンの清算に必要な金額2,170万円すら確保できないことになります。

 

無論、頭金を500万円でなく、ゼロで購入した場合は住宅ローンの残債がもっと多いのですから、値下がり率は2割程度に留まってくれないと困ります。

 

 

次善の策(1)

半値になってしまいそうなマンションを選択するほかない場合で、15年後に実際にそうなったときに採るべき策はどのようなものがあるでしょうか?

 

方法は売却時期を延期することです。その場合のシミュレーションをしてみましょう。仮に、そこから10年先 (購入時から25年後)に延期するとします。

そのときの売値が購入時の半値()になったものとして試算します。

 

15年の時点で半値であるものが25年の時点で同じとは妙に感じるかもしれませんが、25年後は2回目の大規模改修工事が完了した辺りであること、また新築時から15年あたりまでの値下がりカーブより、15年過ぎからの値下がりカーブでは、後者の方が緩やかになるため、この想定に不自然さはないのです)

 

*4000万円から2000万円に値下がりしても、住宅ローン3500万円は繰り上げ返済を一切しなかった場合、25年後には残高が約1150万円まで減少しています。

*売却代金2000万円から銀行清算分1150万円を差し引くと手残りは850万円となり、頭金(500万円)部分が回収できただけでなく、350万円のプレミアが付きました。

 

このように、ローン残債が少なければ少ないほど、値下がり率が大きくても余裕ができるということになります。もっとも、低金利が長く続けば、金利負担は問題にならないとも言えるのですが・・・

 

次善の策(2)

低金利時代の今は繰り上げ返済などはせず、次の住まいの頭金として確保しておこうという考えも広まっています。最初のマンションは売却しないで賃貸し、家賃収入を得ようという人もあります。

 

購入時から15年経過した時点で住み替え、同時に元の家を賃貸したとします。

元の住まいのローンは、やがて完済するときがやって来ます。そのときに売却します。住み替えたときから数えて20年後 (購入時から35年後)のことになります。

 

20年前から見れば更に値下がりしているはずです。としても、築35年のマンションは購入価格に対し30%程度(70%の値下がり)で納まるはずです。

としたら、住宅ローンは完済しているのですから、手元には売却額がそっくり残る計算です。老後の生活資金として(4000万×30%で)1200万円くらいは残るわけです。

 

勿論、この35年間にマンション相場が上昇していれば (35年間に全く上昇しないというのは東京圏では考えにくい)、もっと高い金額で売却できるので、手残りは1500万円かもしれないし、運が良ければ3000万円くらいになるかもしれません。

 

価値観は個人差が大きい

マンションには、「経済的価値」「使用(利用)価値」の二つの側面があると考えられます。後者は、個人の価値観や家族の事情などによって幅があり、その大きさは他人には測り知れないものがありましょう。仮に「経済的な損失」を被ったとしても、使用価値が高いことで大きな「精神的利益」を得て余りあるという場合があるのです。

 

例えば、郊外に住んだおかげで、我が家は大きく値下がりしてしまったが、その代わりスープの冷めない距離にある親の家を行き来して最期まで親孝行ができたと思えるかもしれません。親が子供(親から見て孫)の教育に一役も二役も買ってくれ、そのおかげで、金銭では測れない好結果を得ることもできるでしょう。

 

こうした考え方をすれば、値下がりしても、つまり経済的な損失を被っても精神的利益が大きく、トータルでは損はないと言えるかもしれません。

 

価値あるマンション、値上がりするマンションを選択するよう情報を収集する、勉強するという姿勢は大事です。しかし、思惑通りにならないこともあるでしょう。そんなとき、経済的価値ばかりが選択基準ではないことも覚えておいて悪くありません。この記事が、そんなときの参考になれば幸甚です。

 

経済合理性に優先する条件もある

本筋から離れますが、続きをもう少し。

 

理想的ではないものの、自分にとって優先条件を満たす物件だから買ったという人がいます。これは個人の自由ですから、他人がとやかく言うべき問題ではありません。しかし、優先条件それ自体が、どれほど重要なものなのか、ここをよく考えてみる必要があるように思います。

 

建築には人を変え、人を豊かにする力がある」・・・この言葉は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」という番組の中で、ある建築家が語った名言です。

 

注文建築で家を建てる注文者と設計者との交換から紡ぎ出された「こだわりの家」は、住まう家族を幸せにする側面が確かにあるようです。番組から、親子関係、嫁姑の関係、祖父母と孫の関係、子供の教育の関係などを「豊かに変化させる」とでも表現すればいいでしょうか、そんな建築の役割を改めて感じたものでした。

 

マンションの購入でも、同じようなことが言えるように思います。例えば、「スープの冷めない距離にあるから」、「親が今は元気だけれど、もうかなりの高齢なので側にいてあげたい」・・・このような動機から選択する人があります。

これらは、他のどんな条件より優先すると言ってよいかもしれません。

 

一般に、選択条件には下記のようなものがありますが、こうした動機で選択した物件は、経済合理性に反する場合もあることでしょう。

 

◆子供に転校させなくて良いから

◆通学距離が長くて可哀相だから

◆住み慣れた好きな場所だから

◆友達と離れたくないから

◆小規模マンションが好きだから

◆人気の駅だから

◆ステイタスを感じる場所だから

◆住んでみたい憧れの場所だから

◆売主や施工会社が信頼できるから

◆維持管理が期待できるから

◆自然環境が素晴らしいから

◆部屋が広いから

◆購入予算が少なくて済むから

◆管理費等が安いから

◆どうせ長く住むつもりがないから

 

これらの選択条件がひとつだけでないことは確かです。複数の条件が絡み合って選択されるはずです。しかし、その優先順位には「ちょっと待って」と言いたくなるケースがあります。その優先条件は問題あり、と感じる物件を選択しているからです。

しかし、他人がそう思っても、買い手にとっては優先する条件なのです。とすれば、その選択は間違いとは誰も言いきれないのかもしれません。

 

人生観や価値観には個人差が当然ある

マンションに理想のものは存在しません。どこかを妥協して選択することになるものです。問題は、どの部分を条件から外してはならないかという点です。資産性の視点から見れば、疑問に感じる選択をしてしまう人が少なくありません。

 

「それでも構わない、この土地・街が好きだからここに住みたい」という人もあるでしょうし、管理費と修繕費の高さも、その人の金銭感覚や価値観によっては高くないという場合もあるのです。

 

品質はさほど悪くないが値段は驚異的な安さのユニクロ製品を買わず、1着何十万円もするブランド服しか目に入らない人も少なくありません。カローラよりBMWを選択する人もたくさんいます。

 

これらと同じで、好きな物は高くても高いとは思わないのが「価値観」ではないでしょうか? 人間は経済合理性だけでは行動を決めないものです。

結局、何を基準にして選ぶかは人それぞれです。

 

好き嫌いの問題もある

満点のマンションは存在しませんから、部分的に妥協するというスタンスが必須です。ただ、他人が何と言おうと嫌なものは嫌という「好き嫌い」は、妥協できない問題でもあります。

 

ある人は、建物の外観が「何となく昔の公団住宅みたい」と言って、9000万円もする高級マンションを買わなかったという例があります。

設備・仕様もハイグレードの大型マンション、環境も良く利便性も高い建設地、文句なしの物件と言えなくもないのですが、外観デザインに工夫が足りないというか、センスがないなという印象は筆者も同感でした。

 

要するに、その人にとって「恰好の良い」マンションであることが重要で、機能や利便性、品質レベルは高くても、色使いやテイストが好きでないから「欲しい」という気になれなかったということなのです。

 

販売員は、設備や仕上げ材の高級感を、また場所の稀少性を懸命に訴えたかもしれません。

しかし、現住居が築10年未満の分譲マンションであったことや、モデルルームを何件も見ていたということから推測すると、おそらく目の肥えた人なのでしょう。また、住まいはステイタスシンボルという考えが前提にあったのかもしれません。販売員の説得に耳を貸さなかったのです。

 

生い立ちや交友関係、育った環境などが影響している可能性もあり、他人には分からない世界です。適当な言葉が浮かんで来ないので少し飛躍するかもしれませんが、「蓼(たで)食う虫も好き好き」という格言があるように、他人では量れないのが好き嫌いの問題です。

 

駅近にあり、将来のリセールバリューが高い物件になりそうと分かっていても、商店街の一角に立つようなマンションは嫌いだという人がいます。小規模で管理費が高い、駅からも距離がある、けれども区画の大きい一戸建てが並ぶ住宅地の一角に建っているから好きという人もいます。

 

300戸を超えるメガマンションやタワーは絶対いやだ、買うなら30戸程度のこじんまりした低層マンションが好きという人もいます。

また、三菱や三井の物件しか検討しない、盲心的なファンも少なくありません。

 

*  *  *  *  *  *  *  *

 

その選択の仕方は問題だ。そのマンションだけは止めた方がいい。こんなふうに感じるケースがご相談・評価依頼の中に少なからず登場します。こうした物件について筆者は、これまで率直に所見を述べて来ましたが、いつもこれで良かったのだろうかと回答書を送付した後も自問自答しています。

 

人それぞれの考え方を何も知らない他人が左右しようなんて、何と傲岸な所作であろうか。そんな反省もあります。しかし、その所見が役に立つこともあるだろう。そう信じて続けています。

 

今後も、「マンション評価サービス」と「将来価格の予測サービス」のご依頼をお待ちしています。

 

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

別サイトのブログ「マンション購入を考える」もお役立ち情報が満載です

700本以上の記事があります。

 

ABOUTこの記事をかいた人

マンション業界の裏側を知りつくした、OBだからこその視点で切り込むマンション情報。買い手の疑問と不安を解決。マンション購入を後押しします。