第246回 「第246回 新築の供給数激減・しかも問題物件ばかりだ」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。


はじめに

新築マンションの供給数が激減してしまったというデータを何度かお伝えして来ましたが、ますますその傾向は強まってしまいそうです。

マンションデベロッパーの事業は、言うまでもなく、新築マンションの開発・建設・販売です。しかし、近年その事業が少々怪しくなっています。言わずもがなマンションが売れないからです。

 

土地は仕入れました。建設の許認可も取りました。しかし、最後の工事費の見積段階に来て、予算内に収まりそうにないのです。土地を仕入れた時点で考えていた工事費が予算内には何とか収まりそうだが、それでは売れそうにない市況、経済環境になってしまった。設備・仕様のグレードを落としても建築費を予算以下にして売り値を下げたい・・・・・これがデベロッパーの本音です。

 

先に発売した物件の売れ行きも悪く、完売時期が見通せないので、新規発売もできない。無論、施工会社との契約も待ってもらっている。正確に言えば、もっと値下げしてもらえないかという打診をしているが、色よい返事は来ていない。

 

商品がなければ販売が少々難しい予測があったとしても売り上げが立たないので、通常なら思い切って販売を始めるものですが、最近は工事中の売れ残りや未販売戸数も少なくないので、新規マンションの着工は待てとなるのです。それも仕方ないところです。

 

現状の新築マンション市場は、少戸数を売り出して完売のメドがたったら次の少戸数販売を始め、それが売れたら3回目の少戸数販売を始めるといった「少戸数・分割販売」を繰り返しているデベロッパーが多いのです。

 

「新発売」という広告のキャッチコピーをよくよく見れば、「第5期、第5次販売開始」などと謳っており、鮮度の低い「新古品」のような有様の物件が目立ちます。

 

販売初期から注目していた買い手なら、売れ行きの悪さに気付いているものですが、購入検討を始めたばかりの買い手は気付かないで「新発売」のキャッチコピーを見て「新鮮度の高い」マンションと勘違いしたりする人もあります。

 

ともあれ、この数年の新築マンション市場は活況からはほど遠い現実があります。土地を仕入れ、建築の許認可を取得済みという段階にあり、かつ工事費の見積もりも取って予算内に収まっているとしても、先発物件の販売が順調でないために、新規物件の売出しにかかることができないと苦悩しているデベロッパーが増えています。

 

マンションという商品は、土地のままで置いておけば腐らないし、せいぜい雑草を刈り取るだけなので、売出しを中止しても商品管理はたやすいのです。しかし、建物工事を始めてしまうと、途中で止めることは難しく、様々な問題を新たに抱えてしまうので、着工したら売り切る覚悟を決めなければなりません。

 

新築マンションの着工・発売は10年前に比べると半分以下になっています。事業地そのもの減ったという事情もあるのですが、用地費が高くなってしまったことが最大の要因です。

加えて、売れ行きの悪化が在庫の積み上がりをもたらし、新規取得をためらわせているのです。

 

市場に出て来る新築マンションはどれも高値になってしまい、2016年初頭から売れ行きが悪化しました。その一方、金利の低下が購買意欲の押し上げ要因となって、新築マンション市場は青息吐息ながらも持ちこたえて来たというのが筆者の分析です。

 

この先どうなるか、このご質問は何度もいただきましたが、筆者の答えは「待って得なことはあまりありません。値引き交渉のチャンスは広がっていますが、新築マンションの値引き率は高々5%です。10%以上の値引き販売もないことはないのですが、そこまでしなければ売れないマンションには、価格以前の問題があるので、10%の値引きでも購入の価値があるとは言えない」のです。

 

中古マンション市場は新築とは様相が異なりますが、新築の品数が少なくなったために中古人気も高まって、新築価格に連動するかのように値上がりしています。それでも品数が減った影響で、中古も高値になっています。

 

さて、筆者は日頃はリセールバリューの観点からマンション選びのハウツーを発信していますが、今日はあえてこの姿勢と矛盾するような話をしようと思います。

 

マンション選びは「経済合理性」だけが条件ではない

これは、あるテレビ番組の中で建築家が語った名言です。注文建築で家を建てる注文者と設計者との交換から紡ぎ出された「こだわりの家」は、住まう家族を幸せにする側面が確かにあるようです。番組から、親子関係、嫁姑の関係、祖父母と孫の関係、子供の教育の関係などを「豊かに変化させる」とでも表現すればいいでしょうか、そんな建築の役割を改めて感じたものでした。

 

マンションの購入でも、同じようなことが言えるように思います。例えば、「スープの冷めない距離にあるから」、「親が今は元気だけれど、もうかなりの高齢なので側にいてあげたい」――このような動機から選択する人があります。

これらは、他のどんな条件より優先すると言ってよいかもしれません。

 

一般に、マンションの選択条件には下記のようなものがありますが、こうした動機で選択した物件は、経済合理性に反するものもあることでしょう。

◆ 子供に転校させなくて良いから

◆ 通学距離が長くて可哀相だから

◆ 住み慣れた好きな場所だから

◆ 友達と離れたくないから

◆ 人気の駅だから

◆ ステイタスを感じる場所だから

◆ 自然環境が素晴らしいから

◆ 住んでみたい憧れの場所だから

◆ 売主や施工会社が信頼できるから

◆ 維持管理が期待できるから

◆ 部屋が広いから

◆ 購入予算が少なくてすむから

◆ 管理費等が安いから

◆ 小規模マンションが好きだから

◆ どうせ長く住むつもりがないから

 

これらの選択条件がひとつだけでないはずで、複数の条件が絡み合って選択されるものです。しかし、その優先順位には「ちょっと待って」と言いたくなるケースが見られます。

他人の筆者がそう思っても、買い手にとっては優先する条件なのでしょう。「その選択が間違い」とは誰も言いきれないのかもしれません。

 

思い越せば、筆者も資産価値など深く考えない買い物を2度もしていました。理由や背景・事情はともあれ、致命的な判断ミスだったのかもしれません。しかし、筆者は少しも後悔していないのです。

人間の行動は、全て合理的な説明ができるわけではない」ということかもしれません。

 

資産価値の観点は重要だ

一方で大儲けした経験もあって、筆者は「マンションというものは単なる住まいとしてだけでなく、資産価値という観点」が必要なのだと実感し、理論の構築に励んで来ました。

 

日ごろ主張している資産価値(リセール価格)の観点をここで整理しておきます。マンションは売らない限り、損も得もありません。しかし、現実問題として資産価値(リセール価格が重要なのは、永住するつもりでも、いつなんどき売却の必要が出て来るか分からないからです。

 

そのとき、できるだけ有利に売りたいという考えは誰でにでも見られます。例外なく、損失を少なくしたいと考えているのです。そのために大事なことは何でしょうか?筆者は、次のようなことを主張して来ました

 

①マンションの価値を左右するのは「立地条件」が一番だ

②立地条件が同じようなもの同士の比較では「建物価値」が次に見るべきポイントである

③マンション選びは「街を選ぶ」、次に「マンション全体」、最後に「住戸」という順番である

④安さを追うと失敗する

⑤今は新築限定で探すと物がないので、中古も視野に入れるべき

 

人生観や価値観には個人差がある

購入マンションに理想のものは存在しません。どこかを妥協して選択することになるものです。問題は、どの部分を条件から外してはならないかという点です。その視点から見ていると、疑問に感じる選択をしてしまう人が少なくないようです。

 

「それでも構わない、この土地・街が好きだからここに住みたい」という人もあるでしょうし、管理費と修繕費の高さも、その人の金銭感覚や価値観によっては高くないという場合もあるのです。

 

品質はさほど悪くないが値段は驚異的な安さのユニクロ製品を買わず、1着何十万円もするブランド服しか目に入らない人もあります。カローラよりBMWを選択する人もたくさんいるのです。

これらと同じで、好きな物は高くても高いとは思わないのが「価値観」ではないでしょうか? 人間は経済合理性だけでは行動を決めないものです。結局、何を基準にして選ぶかは人それぞれなのです。共通の基準などというものは存在しないのです。

 

そうはいっても、大損していいと考える人はいないはずです。快適性を最大の眼目に置きつつも資産性も求めながら物件選択に当たっている人は少なくないはずです。

 

とはいえ、「資産性など考えもしないで買ってしまった」人が多いのも事実ですが。

 

好き嫌いの問題もある

満点のマンションは存在しないので、部分的に妥協するというスタンスは必須となるものです。ただ、他人が何と言おうと、嫌なものは嫌という「好き嫌い」は、妥協できない問題でもあります。

 

ある人は、建物の外観が「何となく昔の公団住宅みたい」と言って、平均1億円もする高級マンションを買いませんでした。設備・仕様もハイグレードの大型マンション、環境も良く利便性も高い立地条件で、文句なしの物件と言えなくもないのですが、外観デザインにセンスがないなという判断だったのです。

 

要するに、その人にとって「恰好の良い」マンションであることは重要な問題で、機能や利便性、品質レベルは高くても、色・テイストが好きでないから「欲しい」という気になれなかったということなのです。

 

販売員は、設備や仕上げ材の高級感を、また場所の稀少性を懸命に訴えたかもしれません。

しかし、現住居が築10年未満の分譲マンションであったことや、モデルルームを何件も見ていたという情報から推測すると、おそらく目の肥えた人なのでしょう。また、住まいはステイタスシンボルとしという考えが前提にあったのかもしれません。販売員の説得に耳を貸さなかったのです。

 

生い立ちや交友関係、育った環境などが影響している可能性もあり、他人には分からない世界です。

適当な言葉が浮かんで来ないのですが、「蓼(たで)食う虫も好き好き」という格言があるように、他人では量れないのが好き嫌いの問題です。

 

駅近にあり将来のリセールバリューが高い物件になりそうと分かっていても、商店街の一角に立つようなマンションは嫌いだという人がいます。小規模で管理費が高い、駅からも近いとは言えない、けれども区画の大きい一戸建てが並ぶ高級住宅地の一角に建っているから好きという人もいます。

300戸を超えるメガマンションやタワーは絶対いやだ、買うなら30戸以下のこじんまりした低層マンションが好きという人もいます。

また、三菱や三井の物件しか検討しないという、盲心的なファンも少なくありません。

 

予算との兼ね合いは悩ましいが・・・

価値観の差がある。好き嫌いの問題もある。だから、「あなたが好きなものを選べばいい」と言ったら、身も蓋もありません。

少なくとも、筆者のブログに興味を持ってくださる読者は「資産性」の観点を軽視していないはずです。「評価レポート」や「将来価格の予測レポート」をオーダー下さった方は、kの観点に強い関心がある方ばかりです。

 

それゆえに、「評価レポート」の結びでは、「資産価値の観点からコメントしました」としています。そして、「マンションには経済的価値使用(利用)価値の二つの側面があると考えられます。後者は、個人の価値観や家族の事情などによって幅があるもの、その大きさは他人には測り知れないものがあります。仮に経済的な損失を被ったとしても、使用価値が高いことで大きな精神的利益を得て余りあると考えられるなら、その選択は間違いではありません」と添えています。

 

経済的価値と使用(利用)価値のバランスを取ることが難しいのかもしれませんが、あるご依頼者は感想文にこう記していました。「売却するときのことも大事だけれど、その手前の暮らしの方が大事と気付きました」と。

 

資産価値を念頭に置きながら探す。その難しさ。しかし、迷っても「ここに住みたい」という気分が決め手になるのではないかとも思います。

 

ともあれ、悩む要因は「予算」にあります。予算を無視してマンション探しをする人はありませんから、「理想と現実のはざま」に苦悩するのです。

 

駅に徒歩5分以内が良いのは分かっているが、広さが足りないので徒歩12分の物件にしようと思う。

賑やかで急行も止まるのでA駅が良いとは思うが、予算的に無理があるので、各駅停車だけのB駅の物件にしようと思う。

予算的に厳しいので、最も安い1階住戸を選ぼうと思う。

気に入ったマンションがある。予算的に厳しいので、安い部屋がないかと探したが、ついに見つけた。それは2階の〇〇㎡タイプだ。これはお買い得だと思う。

 

・・・・・迷った挙句、上記のような結論に至りつつある人が「質問と物件評価」を依頼して来られます。「・・・・と考えているが正しいか?」「どこか見落としていることはないか」という動機からのご相談・ご依頼です。

 

これらの考え方には適切なものもありますが、間違いと感じる選択もあります。また、間違いではないが、第三の選択肢を勧めたいケースもあります。そこで、筆者はレポートの結論として再考を促すこともあります。ときに、第三の選択肢を提示することもあるのです。

 

「立地条件は妥協しない」ことを前提として、次のように提案しています。

①中古物件も探してはどうか

②3LDKにこだわらず、2LDKを検討しては?

③中古を検討している場合では「築浅」にこだわらずに探しては

 

* * * * * * * * * * * * 

「その選択は問題だなあ、そのマンションだけは止めた方がいいなあ」などと感じるケースは、ご相談・評価依頼の中に多数あります。それらに対し、筆者は率直に所見を述べて来ましたが、回答(マンション評価レポート)を送ったあとで、いつもこれで良かったのだろうかと自問自答しています。

 

人それぞれの考え方を、何も知らない他人が左右しようなんて、何と傲岸な所作であろうか。そんな疑問も感じます。しかし、その所見が役に立つこともあるだろう。そう信じて頑固にこれまでの姿勢を続けようと何度も思い直して来ました。「マンション評価レポート」をお届けするようになってから10年を超えました。

 

高値の問題物件ばかりの今日、マンション選びは実に悩ましい作業です。しかも、足元では「新型コロナ禍」が一段と雲行きを怪しくしています。

 

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

★第三者の公平な目でマンションを評価する「マンション評価レポート」

※ご検討中マンションの価値を客観的に評価し、適正価格かどうかの判定を含めてレポートにし、短時間でお届けしています。

 

◆別サイトのブログ「マンション購入を考える」もお役立ち情報が満載です

715本以上の記事があります。

 

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マンション業界の裏側を知りつくした、OBだからこその視点で切り込むマンション情報。買い手の疑問と不安を解決。マンション購入を後押しします。