このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
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長年、マンション業界とマンション市場に関わりながら生きて来ました。分譲マンションの大手で実務経験した後、不動産・住宅の研究家となり、今日に至ります。
研究対象は、業界と住宅の歴史、行政・関係法律、市場分析、企画設計、広告、販売まで広範囲に及びますが、市井の一研究家に過ぎません。
しかし、自宅マンションの他に、投資目的のマンションやリゾートマンションの所有、一戸建ての注文建築などの経験を重ねて学んだこともあり、これらの研究と実践で社会のお役に立ちたいという願いを持っています。
長年の研究と業界ウォッチングを活かして著作、評論活動しているほか、自ら主宰する「三井健太のマンション相談室」でのご相談やマンションの調査、評価といった活動を続けています。
これらがどれほど貢献しているかは他人の評価に委ねるしかありませんが、毎日届くメール相談には丁寧にお答えして行こうと心がけつつ、実行しております。
さて、マンション購入にかかるご相談を務めながらいつも感じて来たことは、「その決断は危ない」と思うことが多い点にあります。
多くの人が一世一代の買い物と認識しているはずのマイホームを今まさに買おうかというとき、念のために第三者の意見を求めて筆者のところへやって来ます。
そのときにお聞きする計画や選択のポイントなどに関して言えば、とても大きなミスや勘違い、あるいは大事な点を見過ごしていることに気付きます。
それを的確に伝えるのが筆者の役割と思うものの、購入意欲がほぼ頂点に達している人に、その買い物は止めた方がいいと言わざるを得ないとき、筆者が抱く抵抗感は小さくありません。
ご相談をお受けしながら、最近思うことは、無知な買い手が減ったことです。情報化社会と言えばよいのでしょうか、様々なメディアを通じてマンションに関する知識と情報が発信され、インターネットのクチコミ掲示板で消費者同士が情報交換を行うのも当たり前の時代になりました。
遠い昔、マンション自体の歴史が浅かったため、造り手もよく分からないまま、マンションを建設し分譲していたと言えるのですが、買い手も、疑問を抱えながら購入していた節がありました。当時は、住宅情報誌すらなく、買い手は売り手のほかに寄る辺ない状態でした。
売り手が、マンションの在り方や「集合住宅」という概念を理解していたとも言えない中で、土地神話と重ねながら販売に当たっていた一面もあったのです。地価の高騰が一戸建てマイホームの夢を砕いたからです。
マンションも土地付きの不動産だから値上がりするに違いない。値上がりしたら、それを売却して大きな資産を手にすることができよう。そうなれば遠のいた一戸建ての夢が現実のものになるかもしれない。このようなことが購入の動機になっていたことから、マンションが住まいとして長く快適なものでなければならないという視点が欠けていたのかもしれません。
しかし、バブル経済が破綻し、土地神話が消滅して以降、マンションに対する見方、考え方は様変わりしました。本来の姿に戻ったということかもしれません。
マンションの価値観は変わり、「マンションが長く住めるものでなければならない」という見方も広がりました。東日本大震災以降は、更に慎重な見方をするようになったように感じます。
分譲マンションが初めて登場したのは、昭和30年(1955年)でしたから、半世紀の歴史を重ねたことになりますが、この場をお借りして、何回かに分けて筆者の知りうる限りの「マンション論」をお伝えして行こうと思います。無論、買い手目線で、お送りするもものです。
今日は、その1回目です。
(1)マンションは立地条件が一番
毎日どこかのマンションの評価作業をして確認できるのは、「マンションは立地条件が一番重要」という点です。新型コロナ騒動が自宅での仕事やサテライトオフィスへの通勤で済むようになった人も少なくないようです、気の早い人は「今後は都心より郊外マンションの時代だ」などと発言していますが、筆者はその意見に与しません。
企業が都心に集中する流れが大きく変わらない限り、自宅は可能な限り都心に近いエリアに持ちたいと考える人が多いので、今後も都心・準都心のマンション人気は衰えないと筆者は考えます。
<バス便マンションの危険>
毎日、どこかのマンションの評価作業をお引き受けしていて、つらいのは、「買わない方がいいのにな」と感じる物件の依頼のあったときです。一例を挙げると「バス便」のマンションです。バス便でなくても、駅から徒歩10分を超えるマンションの評価作業をしていくと、「やっぱりなあ」と嘆息せざるを得ないのです。バス便マンションは人気薄なので、低価格によって買い手を惹きつけるほかないのです。「安い」が魅力のマンションですが、将来価値をどう見るかと言えば「安いマンションは一段と安くなる惧れあり」なのです。
言い換えれば、「安さに釣られないように気を付ける」ことが大事です。
<幹線道路沿いマンションの危険>
国道や都道でも県道でも、とにかく幹線道路に面しているマンションを検討するときは自動車騒音の問題を軽く考えない方がいいのです。住まいは「寝るスペースがあればいい」などと単純なものではありません。快適な暮らしを送るための空間でなければなりませんから、その条件のひとつに「静かである」ことも挙げられます。
筆者も、最初に買ったマンションは国道沿いでした。だだ、国道に背中を向けていたので、窓を閉めていれば自動車騒音が入り込むことはありませんでした。しかし、窓を開けると、どこかのビルに反射しているのか、走行音が届くのです。エレベーターを降りてから自宅まで共用廊下を通るときは激しい騒音が耳に飛び込んできます。
それ以来、開放廊下型のマンションに住むことはありませんでした。無論、国道沿いのマンションにも住むことも今後もないでしょう。
<前面に古い建物があるマンションの危険>
ご相談者から、よく尋ねられることでもあるのですが、窓外の景色が変わってしまうことの危険を想像しておかなければなりません。窓の外を見たら、5階建て以下の古い賃貸マンションらしきものや、小規模のオフィスビルが建っている。日当たりもプライバシーの侵害もなさそう。だが、この古いビルが建て替えられたら、日当たりは悪化する危険が高い。 このような例は、東京なら至る所に見られます。
ケースバイケースなので、ここで解説するのは割愛しますが、小規模ビルでも隣と共同開発すれば、大型ビル。マンションに建て替わる可能性はあると見なければなりません。
<不人気エリアに建つマンションの危険>
マンションの価値は、立地条件に大きく左右されるものです。高く評価されるマンションとは、ミクロの視点も大事ですが、その前にマクロの視点で人気の有無を考える必要があります。「東京なら、どこでも需要があって問題ない」わけではないのです。どんな街でも人気のあるエリアとそうでないエリアがあります。23区の中でも、人気のある区と不人気の区があるのです。
路線、駅などでも差異があります。人気のある駅の家賃は高く、不人気の駅の家賃は安いのが普通です。 人気エリアはマンションの価格は高いものです。新築であろうと中古であろうと基本的には同じです。
私たちは、それぞれに「住みたい街・住みたい沿線」といった願望を持っています。通勤時間だけを考えて街を選ぶことは、少なくとも「購入の場合」ではしないのが普通です。
住んでしまった街に愛着がわくのは普通の感情ですが、マンションを買おうというときは、ゼロベースで慎重に選ぶべきと思います。一旦、住んでしまうと様々な種類のコミュニティと関りを持つようになるのが普通です。買ってしまったマンションを手放して別のコミュニティに移るのは簡単とは言えません。
筆者も、何回も移住を繰り返して来ましたが、失敗もありました。賃貸マンションの時代は、引っ越し貧乏と非難され、分譲マンションを買ったときは想定外の事由で一時身動きができないこともありました。
「何があっても大丈夫」と言えるくらいの買い物をしておくべきです。それが、筆者の持論です。そのためには、人気の街、人気の駅など、何を置いても「立地優先」で買うべきと主張しています。
(2)売主にも注意
マンションは長く住むものとして、あるいはいざというときの換金性の高い資産として買うはずです。そのときに意識するのが、ブランドです。ブランドは品質の証明でもあるのです。外から見ただけでは分からない高級家電を前にしたとき、「ソニーだから、パナソニックだから」と、昔から定着しているイメージによって選ぶ傾向があります。ブランド力は信用力、言い換えれば「安心・安全の代名詞」です。マンションは買ってしまえば、キャンセルや返品もできないのですから、怪しいものは買いにくいおのです。モデルルームはきれいだし、設備もいいし、天井も高くて価値ある商品に見えたけど、住んで行くうちに何か問題が発生したり、頻繁に故障が発生したりしないか・・・などと心配の種は尽きません。
そんな場合に備えて売主はあらかじめ対策を講じているものの、「本当に大丈夫か?」という疑心暗鬼は払拭できません。しかしながら、売主が大企業であったり、マンション業界の老舗などであったりすれば、「保証します」のひとことで買い手の不安は解消されます。
<売れ行きの悪いマンションのリスク>
売主によりますが、売れ行きの悪い物件を造ってしまったときや、自信満々売り出したマンションが思惑通りに売れないという事態はときどき発生しします。ビジネスですから思惑違いは起こり得るものです。市場調査をして適正価格を知っていても、予定外の出費もあったり、用地取得時の市況と発売時の市況が大きく変わってしまい、苦戦を強いられてしまうこともあるのです。
「値引き販売中のマンションをどう見るかが問題です。高過ぎて販売が進まないのか、価格だけの問題ではないのか 、ここの分析が問題です。
価格が高いだけなら、値引き交渉すれば問題は半分以上、解決するはずです。
しかし、立地条件が悪いために売れないのだとしたら、少々の値引きでは、後悔することになるかもしれません。
好立地のマンションは、少々高値でも売れてしまうものです。そのような物件は値引き販売に踏み切ることもほとんどないと思った方が良いのです。
定価から200万円とか300万円とか値引きしてもらっても、「元々高値のマンション」であれば、この程度では「お得でも何でもない」場合もあります。 値引き作戦には要注意というわけです。
お得なのは「モデルルーム」として使用していた住戸です。値引き幅が大きいからです。たくさんの見学者が出たり入ったりしたので、それを根拠・理由に安くするということですが、この場合は「思い切った安値」にするので、お買い得と思われるものが稀にあります。
<設計から施工、管理まで一貫体制マンションのリスク>
設計から販売、管理まで一貫している物件はどうなのか?と聞かれるときがあります。そう言えば、最近の 新築マンションは設計と施工が分離されていないのです。「分離しておいた方が、外部のチェックがあるので建物は安全なのだ」と聞いたことがあります。外部のチェックとは設計事務所の監理(監督)を受けながらマンションは施工されるのが良い、設計と施工が同一では「身びいき」や「目こぼし」が起きないとも限らないからだと理由を説明された記憶があります。
まして、「設計も監理も、加えて施工まで1社丸抱えでは危なくて仕方ない」と教わったものですが、「性善説」が好きな日本人だからか、いつの間にか設計施工が同じというマンションが当たり前になっています。
ときどき発覚する欠陥マンション事件、あれはもしかしたら「設計・施工」が生んだ事件だったのではないのか?そんな疑問が生じます。
(3)建築計画に注意
<単身者専用マンションのリスク>
単身者専用マンションはお勧めしないことにしています。理由はこうです。①マンション全体に風格がない。
ワンルームマンションは、用地難に喘ぐマンション業者が窮余の一策として手を出す商品です。
ファミリーマンションを開発したくても、規模の大きな用地が手に入らない。小規模敷地ならないこともないが、南に既存マンションがあるので、北道路向きに設計するしかない。駅には近いが環境が良くない――このような用地がワンルームマンションの計画に向かうのです。
小規模用地なので、建物の風格も乏しいマンションになりがちです。50戸といえども、「ファミリーマンション」に換算すれば20戸余の小規模マンションです。
②賃貸率が高い。
ワンルームマンションを買って自分で居住する買い手さんもいないことはありませんが、多くは投資目的です。つまり、賃貸用です。賃貸マンションと変わらない。言い換えれば、高級感も無いし、管理状態も良くない。そんなマンションの資産価値に期待できるでしょうか?
③高く売ることが難しい。
売却価格も期待はできません。そもそも投資家が中心ターゲットという物件は「投資利回り優先で選択される」のです。高く値付けしても市場では通用しません。 古くなればなるほど、賃料も安くなるので、利回りから逆算すると「売却額」は下落方向に向かわざるを得ないのです。
<ワンルーム混在マンションのリスク>
元の地主との用地買収条件に「現金の代わりに住戸の何割かを取得する」というケースで、地主「は賃貸するので効率の良いワンルームにしてくれ」と要求し、ワンルームタイプが多数混在したマンションが建設されることがあります。また、好条件のマンションでも下層階が隣接ビル等の影響を受けて一部住戸のロケーションが良くないという場合があります。そんなときは、「寝るだけだから」の事由で買ってくれる単身者向けに企画されます。
ワンルーム混在は仕方ない面もあるので、全てを非難するわけではないのですが、数百戸の大型マンションの一部にあって、管理体制も特別なもの(24時間管理やコンシェルジュサービス付きなど)以外は避けるべきと筆者は考えます。
大規模タワーマンションなどの一部にあるワンルームは、賃料も高く、借り手もそれなりの層なので、マンションの格を下げるようなことにはならないものです。
<直貼りマンションのリスク>
建築費高騰のトレンドが続く過程でたくさん生まれた「直貼りマンション」ですが、その住み心地はどうか、何か問題はないのかといった質問をときどき受けます。筆者は住んだことがないので、伝聞でしかありませんが、遮音性の問題を解決するために編み出された「フローリング」と「コンクリート床」の間に敷かれる緩衝材(正確には緩衝材貼りのフローリング材)を置くことでコンクリートに直に伝わる生活音を軽減するという触れ込みで採用された部材があります。
バリアフリーマンションにするため、室内を平に保持しつつ、排水をどのように処理するかがマンション設計の難しいところですが、解決策はパイプを通したい(横引き)部分のコンクリートを下げ、そこを通すという方法が考え出されました。これが直貼りマンションです。
当然、上の階の床が落ちていますから、その下がっているコンクリート部分に天井材を貼って隠すのですが、床はフラットのバリアフリーでも、天井に凸凹ができてしまいます。
メリットがあればデメリットもあるのは世の習わしです。直貼りマンションは、14階が上限の場所に15階建てマンションを建てることができるというメリットを生み出しました。14階建て100戸のマンションを建てるより、15階建ての120戸の建物を建てた方が1戸当たりの土地代が安くなるので、用地費の高い首都圏では、戸数を増やせる直貼りマンションが流行するのも仕方ないのかもしれません。
・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。2回目は10日後の予定です。
ご質問・ご相談は三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。
※別サイトのブログ「マンション購入を考える」もお役立ち情報が満載です
720本以上の記事があります。◆
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