理事長を「理事による互選」とする規約をもったマンションでは、理事長を直接住民が選ぶという「選挙方式」はできません。これは「民主的ではない」から、理事長も選挙で選ぶという方式にすれば、都知事選じゃないけど、公約を掲げて選挙戦をやってもらったら盛り上がっていいのでは?という考え方もあり得ます。
私はこれには否定的です。
区分所有法違反ではないけど、私に言わせると”筋が悪い”。
1人だけ特別扱いするほど理事長に権限ある?
やってみればわかるけど、正しく規約に従う理事長にはそんなに権限はありません。規約と総会で決まったことを実施するだけで、特に理事会決議なしにできることは殆どない。実際にうちであった例ですが、理事長だけ反対で、理事会では可決されそうになったとある総会議案、これ実際に総会で可決されちゃったらその責任は俺にもあるの?って聞いた理事長に当時監事だった私が Yes!とか答えたら、「義務だけあって何も権限がないのなら俺はこの場で辞めるっ!!」っとか。ま、怒るのはごもっとも。
法人化されてない管理組合理事会で、標準管理規約準拠の規約だと、区分所有法にリンクを貼られているのは管理者とするとなっている理事長だけです。区分所有法の管理者は善管注意義務を負う規定があるなど重い義務と責任を負わされている一方で、肝心の権限のほうは各種許可や命令など、確かに保存行為関連では強大な権限が集中していますが、管理組合としてなにかを変えていきましょうという理事会の決定においては、平理事と同じ1票を持っているだけです。
理事長の「守り」の権限は絶大だけど、「攻め」は1人では何もできません。
理事長を直接総会で選ぶような公選制度をとりいれるなら、ますます理事長の責任だけが重くなってしまって、理事会決議を拒否できる拒否権くらいつけてあげないと責任・義務と、権利・権限のバランスがとれないのではないかなと思うわけです。まぁ拒否権つけるならアメリカ大統領同様に再可決は理事会の2/3以上かなぁ。
理事会内の過半数の信任をとれることは、理事互選方式なら保証できます。選挙では通ってますけど、理事会の支持は得てませんなんて理事長はつくらないほうがよい。
選挙して理事会役員ほど判断材料を共有できる?
「選挙をする」ということは、複数の理事長をやりたいという人の立候補を想定していることになります。まず、これがなかなかありがちではない。「あの人、自分がやりたくて選挙で理事長になったんでしょう? 普通の人より責任は重いよね!」なんて錯覚をされるだけ。うちの互選の会は、理事長が決まるまで絶対に他の役職は決めないから、互選の会の冒頭からの全時間の2/3程度を無言の沈黙に耐えかねた誰かがではやりましょうと現れるのを待って消費したことも何回か。籤引きしたことも一回。
理事長ってなかなか自分が!というなり手が現れません。うちでは過去8年で理事長立候補者は私含め3人。そもそも互選で理事長やりましょうという候補が複数現れたのは1回だけで、このときは私が互選の投票には勝ちました。
この私と理事長の座を争った方は、1期で管理会社と少しいろいろあって、2期目にいきなり理事長を目指して立候補した人で、委託経費などいくらでも削れるから、まずは管理会社を追い出すことを大前提に、コストカットを最優先して検討するというのが「公約」でした。
当時理事長の私はコストカットだけが目的でリプレースをかけるのには強く否定的です。1期目からやっている理事は、別に管理会社に不満はなかったし、例えば管理員さんは何時間雇用していくら払っているから、後何割も削減すると管理員さん時給は都の最低賃金でも雇用できないよねというのも分かるわけですが、それは管理組合の会計などをある程度熟知しているからです。互選では私が圧勝しましたが、単に住民全員の公選でやったらどうだったかなぁ・・・管理コスト削減!ってのはわかりやすい希求性はあったし。
管理人さんの良し悪しならともかく、「管理会社」の良し悪しなんて、理事会役員やらなきゃわかるわけがないですし。理事会まで参画してないと適切な判断を下せないことは無数にあります。
大きく管理組合の意見が割れるような案件は、例えば修繕積立金の均等割り移行に伴う値上げなんてもので、うーんとかずっと管理組合の会計の数字を見てきた理事でなければ身をもって必要性が体感できていないものも多い。理事長公選制度にしたらとにかく管理費・修繕費とも大幅カット!なんてのが公約の候補者が勝っちゃう可能性もないとはいえない。衆愚政治が危惧されるんじゃないかなと。
うちは私自身も含めて、理事会1期目の人が理事長やってうまく運営できた年がありません。まずは理事にはなってもらった上で(うちは立候補優先で再任可)理事会内の議論を踏まえながら、他の理事にも実力を認められて就任していくのが適当じゃないかなとは思うわけです。
大臣経験のない総理大臣ってまずいないですよね・・・うちは理事長は毎年のように変わりますが、4人いる副理事長以上の法人代表理事は全員が少なくとも1期の経験を有することは不文律になってます。
理事会決議で他の人に代えられなくならない?
実は、家売ってでていくことになったとか、理事会内で全く賛同をとれないとかで、理事に信任されなくなって提案が何も通らないなど種々の理由で理事長さんが任期途中で辞任することになることは結構高い頻度で発生します。私の知り合いで両方とも複数人の例を知っています。立候補で理事長やるような積極的な人は、自分の家を売って住みかえるなどの行動にでる確率が高い。理事は「総会承認」でなるので、規約に別段の定めがない場合、本人が辞任を拒否している場合理事会決議で理事をやめさせることは困難です。基本的に、選任されたのと同じ手続きが解任にも必要なので、理事としての解任決議は総会の過半数決議が妥当でしょう。「ある理事を理事でなくする」のには総会は必要だと思うんですよね。
一方「理事の互選」でなった理事長であれば、再び理事が互選しなおせば理事長⇒平理事として別の人を理事長にすることは可能です。案外、理事会内で信任を失って任期の途中で理事長が代わるとかは起こるので、この場合理事長としては病気で任に堪えないでもなんでもいいから理由つけて勇退していただいて、再び他の人を選び直すという「大人の解決策」をとるためには、選任の際に理事の互選であったことが重要になるかなと。
理事互選でなく、理事長公選制度みたく理事長は別に決めていたら、その結果は総会で承認決議しておくしかないでしょう。さて理事長解任も総会決議ですとなったら、もうその人そのマンションには住めない気もするし…
監事が急にいなくなったで、慌てて理事から誰か補充しようと思ったら、規約で不可で総会というパターンは実際に聞いたことがあります。これを防ぐため、総会が大変なメガマンションでは、監事だけは複数人指名する場合が多いわけですが、まさか理事長を2人用意しておくというわけにもいかないですしね。
(後日談)
弁護士の桃尾さんが、「標準管理規約」準拠の規約のままで理事長が理事会決議で解任可能かどうかというブログをアップしています。Twitter そのまんまに引用しておきますね。理事会決議で、理事を理事でなくすることはできないが、理事長を平理事にはできるというのは、私ももともとそう思っていましたが、自明とはいえなかったようで、明示的規約対応が望まれるとのこと。
はてなブログに投稿しました
— 弁護士 マンション管理士 桃尾俊明 (@momoo_t) July 11, 2016
理事会における理事長解任の可否 ‐標準管理規約を前提に‐ – 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ https://t.co/6m9BtyXhf1 #はてなブログ
あわせて読みたい
弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ『標準管理規約に関する誤解と正解』
http://momoo-law.hatenadiary.jp/entry/2016/07/06/190314
# 困るなぁ弁護士さんがこんな分かり易いの書いてもらっては・・・
マンションコミュニティ研究会の廣田信子さんのブログ
『選挙で理事長を選ぶ!』
http://ameblo.jp/nobuko-hirota/entry-12175973375.html
# コミ研の廣田さんは熱い志で管理組合の活性化に取り組んでおられて、そのブログは現役理事長や、管理員さんの書いたもの以外では唯一全部読んでます。
(多くの管理士系ブログはコマーシャルみたいで読んでも面白くない!!)
多分何が”民主的”かのとらえ方は私とは少し違うかなぁ。私は理事会に入ることを権利だとしていて、立候補すれば必ず理事になれさえすれば、後はどんどん理事会が決めて進めて構わないという立場です。 私は、無数に広報とか、説明会とかは総会の前に実施しますが、お意見伺い的なアンケートは大事な案件ほどやりません。関心があるなら検討してる委員会に顔だしてねとは告知しますが。
上の写真は、6/22のコミ研フォーラムでのはるぶー氏の勇姿。人類じゃないと思われているかもしれないですしねぇ。
皆背広きてくるようなとこに、マンションのシンボルマーク入りTシャツ着て行ってしかもこれうちのマンションの公式Tシャツとか言い忘れたから一部の人に「アバンギャルドな人」とか思われたやもしれません。
!! 重要 !!
本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません
はるぶーさんはステーブ・ジョブズさんと共通点が多そうですね!
えー体型正反対じゃん
こっちに移ってとても不便になったこと
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わらわら(*^_^*)
理事会ネタデ2000-3000PVいくなんでことは、アメーバ時代にはありえなかったから
お引越しそのものは成功です。ま、大抵同じリンクをアメブロ側にも貼っていますから
なんでしたらあちらでも。(私がほとんどみてませんが)
悪いけど、私はこの理屈には「反対」で、理事長公選は決して筋悪ではないと考えています。
ただし、現実の組織ガバナンス上は、トップを公選で選出することの手間暇の多さと得られるメリット(ふさわしい者をトップに選ぶ)が釣り合わないという「組織経済論」の立場から、現実的ではないと考える次第。したがって、小規模な組合で、直接民主主義的な意思決定が十分にワークしている組合ならば、理事長公選もアリだと思います。
また理事長の拒否権云々は、理事長公選の可否とは別筋の議論で、理事長の責任との兼ね合いで判断すればよいものです。
2月ほどコメントみていませんでした。(ちょっとあまりに多方面作戦で膨大に理事会マターがたまっちゃってブログやっている暇がない)
おっしゃる通りでマンションの規模などにもよるかもしれませんね。
小さな自治体の村長選挙みたいなものである程度”候補”の人を住民全員が知っていることが前提になるんじゃないかなと思います。さらにはせめて恒常的に2人は候補がでてきてくれないとこの村の村長さんは過去何十年も無投票当選ですとなる可能性のほうがマンションの場合には高い。うちで主体的に立候補して理事長をやりたいといってきた人は過去10年で私一人だけです。
首長を直接公選するのであれば”リコール”に相当する適切な制度も必要で、かといって僭主になる恐れのある者の名を陶片(オストラコン)に記して一定数で追放ってなわけにもいかないで
制度設計が難しすぎて、それを仕事にしていない人には手に余る気がします。
うちの某匿名掲示板(ってここか…)では単なる理事レベルでも立候補して理事になった人の責任は輪番でなった人よりも重いみたいな私にはよく理解できない理屈の書き込みがありました。 理事長が公選で選ばれていて私がやりますといって
来た時に責任の重さに耐えかねてとならないかなぁとは思っています。