第259回 「在宅勤務とマンション選び」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

新聞報道によれば、「在宅勤務の広がりで面積の広い家に移住する人が増えている」そうです。

現在住む賃貸マンションでは狭くて効率の良い仕事ができないからと、テレワークが可能な広い部屋を探している人が増えているのだそうです。

 

広い賃貸マンションを探すと、家賃は高くなり、仕事のためとはいえ、引っ越しに抵抗があった。そこで、思い切って分譲マンションを買うことにしたという若手のサラリーマンが増えているというのです。

 

新築マンションの販売は、価格の高騰もあってスピードが低下、即入居可能な完成マンションも在庫が増えていましたが、在宅勤務者の増加で売れ行きは急に伸びて在庫が減っているのだとか。

 

しかし、広い部屋の新築マンションは高値なので手が出ないせいか、比較的安いバス便のマンションに買い手が向かったそうで、低迷していたバス便マンションが急に売れ出したのだそうです。

 

建売住宅も売れているそうです。報道によれば、所得が500万円以下の若年層が低廉な建て売り住宅を買う動きが顕著なだとか。

 

これらの新聞報道を見て、今日は「郊外マンション」や「格安建売」の将来に思いをいたしながら、書いてみました。

 

コロナ禍のニーズ変化をどう見るべきか?

コロナ問題が自宅での業務に勤しむ人を増やしているのは間違いないようです。オフィスに行くのも週2回程度で良いのだとか。

 

通勤しないで仕事をするという人は、自宅か近隣のカフェなど使って仕事をするようです。企業によっては、サテライトオフィスを利用し、都心のオフィスに行かなくてよいという形もあるようです。

 

これらの変化が、マンション市場にどのような影響を与えるのでしょうか?その前に、都心のオフィスに出勤して仕事をするという勤務形態が定着して行くのでしょうか? そんなことを思い描きながら、本稿を書いています。

 

都心では、オフィスの賃貸契約を解除している企業が増えているというニュースも伝わって来ます。そ一部の企業がオフィスフロアの縮小や移転をしているのは確かのようです。こで執務していた人はいったい何処へ行ってしまったのでしょうか?

 

自宅で執務する人が増えて、会社員の住宅ニーズも変化しつつあるようです。狭い家では仕事に集中できないため、広い家に移転するというニーズを生んでいるのも確かです。その中にマイホーム購入という選択をする人を増やしているようです。ただ、大きな潮流かというと、そうでもなく、ごく一部の動きと見るほかないと感じます。

 

筆者へのマンション購入相談も、6月ごろから急増し、例年にない数値を記録しています。例年は依頼件数が減る12月でさえ、前年比で倍近い依頼件数となっています。しかし、ご相談エリアの変化は特に見られません。

 

新築は高い。買うなら中古がいい

最近のご依頼の特徴は中古マンションのご相談が圧倒的に増えていることです。その背景にコロナ問題があるという確証はなく、すぐに住めるものを買いたいというニーズが増えているとも言えません。

コロナ問題が拡大する以前から中古マンションへのニーズが増えていましたから、コロナの影響があると信じる根拠はないのです。

 

ともあれ、3年くらい前から、筆者は「新築より中古」を推奨してきました。理由は単純明快、新築マンションの価格が高過ぎると思ったからです。

 

新築マンションが高いのは、マンション業者が利益を増やすためなどという買い手の見方も一部にあると聞きますが、実はそんなことはなく、原価が高くなってしまっただけのことです。原価、すなわち、用地の買収費と建築費が高騰したためです。

 

建築費が上昇した原因は、2011年の東日本大震災とその復旧・復興のためでした。その工事が完了しないうちに、日本列島は台風と地震に次々に襲われました。このため、建設会社は人手不足に陥り、建築費の高騰を招いたのです。

 

工事はマンションメーカー(デベロッパー)から施工するゼネコンへ発注されますが、マンションメーカーには当然ながら予算があり、その範囲で受注してくれるゼネコンを探します。

 

普通は「指名入札」方式で、デベロッパーは複数のゼネコンを指名して見積もりを依頼します。過去数年間の傾向は、予算内に納まるゼネコンがいなくて当たり前、予算を2割、3割上回る見積もりが普通。そのような状況にあります。

 

各地で続いた自然災害の復旧工事によって専門職・建設労働者の人手不足が深刻な状態にあるためで、建築費の半分は労務費と言われるので、建築資材が少し下がったくらいで値下がりに転じることはないからです。

 

今後の見通しについても、建築費に関しては悲観的な見方が圧倒的です。つまり、まだ災害復興需要は残っていますし、国土強靭化政策によるインフラへの公共投資も急増しているからです。

 

マンションの2大原価のもうひとつは「用地費」ですが、こちらも高値が続いています。マンションに向く土地が少ないため、用地争奪戦が相変わらずだからでう。このため、1年前に付近で取引された地価の2割高だったなどという例は普通のようです。

 

新聞に発表される地価統計は全般的な傾向を示すもので、東京都心の商業地は前年比でプラス2%であったが、郊外の住宅地はマイナス3%だったなどという僅かな変化にしか見えません。

これらの数値と比較すると、マンション用地の取得額は地価調査の数値とは大きな隔たりがあるのです。前例から20%も30%も高くなった土地取引の実態を一般の人は殆んど知りません。

 

マンション用地は、ある程度まとまった大きさが必要であり、かつ交通便が良いこと、環境が良いことなど、マンション建設にふさわしい条件を具備している必要があります。ところが、そのような土地の売り物はそうそう沢山あるわけではありません。

 

工場や倉庫、社宅、ガソリンスタンド、運動場などが企業のリストラの一環や移転、廃業といった事情で売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

市況が良いときは、マンションメーカー各社は土地取得に積極的になります。高い札を入れてでも優良な土地は何とかして確保しようと前向きになります。その結果、新聞発表の地価上昇率3%などとは大きく隔たりのある高値取引が成立してしまうのです。

 

土地代も建築費も高ければ、新築マンションは否応なく高値になってしまいます。この状態は7年も続いています。高値は売れ行きの悪化を招き、マンション業者を苦しめて来ましたが、マンション業界は中小零細事業者が撤退・倒産などで減少し、足元では大手企業ばかりで占められる時代になってしまいました。

 

売れ行きが悪化しても、大手企業は他の収益手段を持っているので経営上の致命的な問題には至らないのでしょう。昔は、売れ残りは経営不安を呼び、金融機関からの信用も毀損してしまうことから、販売促進のために完売を急ぎ、値引き販売も辞さないものでしたが、昨今は様相が変わっています。つまり、値引きしてでも完売を急ぐという策は採らないのです。金融機関の姿勢も変わって来たためということのようです。

 

どうしても高くなる新築マンション。それでも供給数が少ないので、高値を甘んじて受け入れる、つまり買ってくれる買い手はあるのです。販売スピードは遅いものの売れて行くというわけです。

 

新築マンションの価格は下がりそうにないというのが筆者の分析ですが、中古はどうなのでしょうか?

新築が高ければ、中古も高い。すなわち、中古マンションの価格は新築に連動する傾向があります。ただし、そこには地域差があります。

新築と中古の販売価格の成り立ちは全く異なるもので、先に述べたように新築は原価積み上げ式に決定されて行きますが、中古は仕入れ値がいくらかなど全く無関係です。中古市場では、買い手がいなければ売りたい人は下げざるを得ないからです。いくらで買ったかなどは無関係なのです

 

人気エリアの中古は、新築に並ぶほどの高値でも買い手が付きますが、不人気エリアでは買い手が少ないので、中古価格は下方修正されていくものです。つまり、新築マンションとの価格差を見ると、その幅は大きく、さらに付け加えれば築年で古くなればなるほど新築マンションとの乖離幅は広がる傾向となります。

 

マイホームを後先考えずに買うなんて

冒頭の「コロナ問題」に戻りますが、在宅勤務の増加に伴って、都心通勤の頻度が減った買い手が郊外マンションやバス便の安値の住宅を買うという動きが顕著に見られるようになっているらしいことは、筆者の耳にも入って来ますが、その対象物件をつぶさに見て行くと、「あとさき考えずに買う人がいる」と思わずにいられません。

 

筆者の経験でも、また、知人の行動を見ても、マンション住まいは長くても15年、平均的には10年で買い替えて行くものと言えます。買ったマンションを、いずれは売ることになるのだから、そのときに損をしない物件を選んでおくことが必要なのです。

 

それを念頭に置かず、目先の必要性だけで選ぶ人を見ていると、ついつい黙ってはいられなくなります。言うまでもなく、マンションは良くも悪くも共同住宅なのです。いずれは、手狭になって広いマンションへの住み替えを望むときが来るでしょうし、広さは十分でも、仕事の関係や子供の学校の関係から移転を必要とする時が来るのです。

 

そのとき、二束三文でしか売れない物件を買ってしまうと、その家に縛られてしまいます。無論、そのときは賃貸すればローン返済を賄えるという選択肢も残っていますが、安値でしか売れない家というものは賃料も低く、下手すれば誰も借り手くれず、ローンの返済だけが残るということにもなりかねません。

 

それを避けたいなら、いざ売却というときに首尾よく買い手が決まるような物件を選んでおくべきと筆者は主張し続けています。

 

「在宅勤務」などという目先の都合で買うと後悔する

少子高齢化が進み、人口減少時代に入ったことで、住宅・マンション市場にマイナスの影響を与えるという意見をよく聞きます。需要が減れば価格は下がる。当然の経済原理ですが、在宅勤務の増加で郊外マンションの需要が増え、都心・準都心マンションの需要は後退する。よって、都心・準都心のマンションは値下がりするという意見に筆者は賛同しかねます。

 

目先の小さな動きなのか、東京圏の全般的な動きなのかを筆者なりに考察すると、在宅勤務の拡大によって住宅事情、中でも都心・準都心マンションの需要が減って郊外へシフトするという意見は乱暴だと思うのです。

 

近年、共働き世帯が増えているものの、在宅勤務を夫婦ともに受け入れられる世帯は少ないこと、都心・準都心暮らしを味わっている人が郊外移住を受け入れるだろうかという疑念が取れないからです。

 

圧倒的に多い都心・準都心需要が郊外に移行するとしたら、都心・準都心マンションが一段と高値になって手が届かない状況に至ることです。そうなるかは、疑問です。今後も、利便性の高い物件が支持され続けることでしょう。筆者は、そう確信しています。

 

少子高齢化と住宅需要の変化

話はそれますが、「少子高齢化」の問題とマンション需要の関係も注目しておくことが必要です。

「少子高齢化」を分解すれば、寿命の延びが高齢者を増やす一方、結婚しない男女が増え、子供を産まない女性も増えて若年世代が減ったことを意味します。

 

既に日本は人口減少時代に入ったことが知られています。しかし、人口が減っても、昔のように世帯分離(核家族化)が進めば、伴って住宅需要も増えて行くはずですが、今は世帯分離ができないほど一世帯当りの家族数は減ってしまいました。

 

つまり、一人世帯は分離しようがないわけです。親と同居したまま、いつまでも結婚しない子供も増えている。そのことも住宅需要の減少要因になっています。

 

結婚しない男女が増え、結婚しても子供をつくらない、作っても一人だけといった家庭が増えることは住宅・マンション市場にも影響を与えています。単身需要の増加ですし、2人・3人家族が許容できるコンパクト住宅需要の増加です。

 

高齢化は、高齢者向きの住宅需要を変化させています。元気老人が増え、郊外の不便な家を嫌う傾向も強まっています。高齢者は住宅ローンが使えないものの、現金資産を多額に保有しているので、二束三文になってしまった郊外住宅の活用を考えずとも都心・準都心、もしくは自宅近くのターミナル駅の「駅近マンション」に住み変えるニーズも増えているようです。

 

このトレンドは当分の間、続くことでしょう。従って、利便性の高いマンションのニーズは若手の需要と重なって根強く続くことでしょう。言い換えると、バス便などという住宅・マンション需要はコロナ禍の現在の一時的な需要に過ぎないと言って過言ではありません。

 

家余り現象の影響

現在、住宅戸数は世帯数を大きく上回っています。空き家が全国に1千万戸もあるというのです。それにも関わらず、新築住宅が造られ続けられているのは不思議な気がします。

 

もちろん、ピーク時から見たら新築住宅の数は大幅に減っています。家が余っているのは統計上のことで、廃屋も空き家の計算に入っていますし、半分しか居住者がいない古いアパートもあります。別荘など1世帯が2軒の家を持っている例もあるので、世帯数を上回っていてもおかしくはないのです。

 

居住可能な家でも、老朽化が進み、また耐震性能が著しく低いため、建て替えの必要があるというケースが多数あります。このため、新築住宅は、毎年一定の新築が必要と考えられます。

 

ともあれ、人口が減れば必要な住宅の数も減って行きます。古い家は、建て替えでなく、そのまま廃屋として放置される運命にあると聞きます。現に、郊外の住宅団地では空き家のまま放置されて、様々な問題を引き起こしているようです。

 

こうなると、住宅の価値も低下して行くのは必定です。売り手二人(2軒)に買い手が一人という状態になれば、売買価格は半値になってもおかしくないのです。

 

単身者需要の増大と都心マンション

日本の人口減は、首都東京には及んでいないのでしょうか?東京だけは例外のような気がしますが、本当はどうなのでしょうか?

 

東京も高齢化が進んでいるのは間違いありません。しかし、地方都市ほど目立っていないのも事実です。それは、地方から東京へ集まる若者が多いからです。

 

かつて、東京一極集中の弊害が問題視されたときもありましたが、今は随分緩和されたようです。しかし、今も集中は変わっていないのです。子供が誕生しない分を、他所からの若者の人口流入で補っているとも言えましょうか?

 

東京に住む独身者は、親の家に住み続けることも可能ですが、他所から来た若い人は東京でマイホームを取得する道を選びます。東京の新築マンションの購入者の4分の1は単身者ですが、それが証拠のひとつと言えるでしょう。

 

都心回帰と郊外住宅の悲劇

遠い将来は分かりませんが、東京の場合、ここ当分は根強い需要が続くと考えてよいはずです。しかも、東京では新たな需要が顕在化して来ました。それは、高齢者が郊外住宅を売り払って都心に回帰していることです。

 

子供の独立で、持てあました一戸建てを売却し、都心のマンションに移り住む人が増えています。この傾向は、今後ますます強まることでしょう。それは、郊外住宅地の需給バランスを崩します。郊外のマンションも同じです。

 

売り物が増えて買い手が少ない状況が、中古価格を低下させることでしょう。中古価格が買い値を上回ることも少なくない都心マンションに対して、郊外マンションの価格の下落は激しいものになる可能性が高いのです。いえ、既にその傾向は強まっているのです。購入価格の半値どころか、3分の1の価格でも買い手がつかない郊外マンション、そんな現象は明らかです。

 

価値が変わらないマンションの条件は?

ここまでに述べて来た通り、時代の波は確実に東京圏にも押し寄せて来ています。そんな時代を想定してのマンション選びを考えることは無駄ではありません。筆者は、できるだけ将来価値が維持される条件を加味して物件選択をするようお勧めしたいと思います。

 

その条件とは、いくつもありますが、ここでは立地条件についてのみ述べておくことにします。

 

条件①は、都心にあること、または都心にアクセスが良いことです。

条件②は、駅近であることです。

 

この二つの条件が備わっている物件を選べば、時代が変わっても需要があり、その価値は維持されるはずです。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。次は10日後の予定です。

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