マンションマニアさんがブログ書いているのでもういいかなとかとか思わないでもないけど、質問の中にちょっと気になるセリフもあったので私もタワマンの騒音問題で参入。
マンションの3P問題(Piano(騒音)、Pet、Parking)という位で、マンションの近隣問題で”騒音”ってのは筆頭格です。理事会の理事長とかやっていれば100%対処することになるものの代表格が騒音問題。
ーお金をかけている(高い)マンションだからなくなるわけではないのと、
ー音源と苦情元のペアであたりはずれがあります
別に、タワマンだから、遮音が酷く劣るわけじゃないんだけど、「高額のものを買ったんだから、普通のマンションより遮音がいい筈」だとか思いこんでいると、“聞こえる”ってだけでクレームになりやすい。
目次
質問は
差出人: 今度はタワーマンション さんから
初めまして、いつも皆様の記事を楽しく読ませていただいております。
私は現在通常の分譲マンションに住んでおりますが、次はタワーマンションに住み替えたいと思っており、たまたまネットでタワーマンションは遮音性が低くなりがち(トイレの流す音やドライヤーの音など)という弱点を持っています。と書いてあったのですが本当でしょうか?
私は通常の分譲マンションに住んいますが遮音性があり近隣の音はほとんど聞こえません。
タワーマンションの方が金額も高いのにそのような事はあり得るのでしょうか?
タワーマンションに詳しい方にご回答いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
結果からいうと“変わらない”
普通のマンションと、タワマンと両方住んだことのある人に訊くのが一番早いでしょう。結論からいうと、タワマンだからというのが理由で特に遮音が劣るということはないといっていいと思います。両方に住んだことのある人に質問です。
— はるぶーちゃん💕は㍇ヲタクで善意の理事なの (@haruboo0) March 29, 2021
タワーマンションの、上下階、両隣との間の遮音は、そうでないマンションと比較して
強いていうなら、タワマンの方が、上下階の騒音問題は少なく、逆に臨戸間の騒音問題は起こりやすい気がします。私が理事会で扱ったケースでは実に過去3件連続して乾式壁を挟んだ住戸間の問題です。隣が壁にものをぶつけるとすごく大きく響くってクレームがその典型的なもの。
騒音問題は、聴覚超人が引き起こすものがある
騒音問題は、音源と苦情元の特定の組み合わせだけで起こることが多いものです。苦情元の人があなたも聞こえるでしょ?とか近隣の部屋に訊いてまわると、案外ほかみんな気にしていない例が大半。このイラストみたいに騒音源の住戸にみんなが怒っているって例は案外ないもの。(私のマンションでは過去12年扱い0です)ほとんどはこれですね
理系なので、測定大好きな私。10年くらい前には、騒音クレーム発生!とかなると騒音計をもって測定に付き合っていたりしたこともあります。殆どのケースで騒音のデシベル数を図ると「受忍限度を超えた」とはなりません。理事会の人は、経験が浅いほどクレーム元に肩入れしがちですが、経験長くやるほどにクレームをうける音源とされている側の見解も必ず訊くようになる。
マンションには、異常に音への感度のいい『聴覚超人』さんが一定数住んでいて、音が僅かでもするのに耐えられない。日本は地震があるので、マンションは軽く作るしかないわけで、“近隣の音が一切しないマンション”は作りようがないわけで、聞こえるといえば聞こえますが、それが過度に気になるって人は一定数います。
“今度はタワーマンション”さんは気にしないほうでも、直下の人のあたりはずれで問題に巻き込まれる可能性があるのはタワマンでも非タワマンでも同じです。
おカネをかけた高級?マンションでも起こるときは起こる
質問の中には『タワーマンションの方が金額も高いのに』と出てきます。別にタワマンだから特別遮音性が高いわけではないのに、このように思いこむことで、普通のマンションならまぁこんなもんだねで笑って済ませてくれるレベルで騒音問題になることがある。床方式の差で、直床と二重床があり、タワマンは階高が大きく、梁も太い(梁せいが大きい)とかで大抵は二重床です。他の条件が同じなら、床が二重なほうが遮音性は大抵の場合で劣ります。逆に思っている人は多いけど、今では設計者側の常識。
お金を余分にかけると遮音は落ちるわけです。
直床は二重床より遮音性が劣るか? 【はるぶー お便り返し15】
ほかに、特に高グレードの遮音サッシを、交通量の多い道路にも線路とかにも面していないのに、スペックをあげましょうで驕ったりすると、今度はマンションの中で発生している音が伝わってきて気になるとか、“お金を余分にかけた”せいで、騒音問題が集中的に起きやすくなるってことが実際に起こったりもします。
騒音を“人間が感じる”仕組み
騒音計は単に何デシベルとか教えてくれるだけですが、人間は、暗騒音と呼ばれる環境の雑音レベルを一定以上超えた音を感じるようにできています。もともと外からの音がサッシなどを通じて適度に入ってくる環境であれば、少しくらいマンション内から音が伝わってきても気にならないのですが、怖いくらいに静かな部屋を作ってしまうと、マンション内で発生する音は聞こえるといえば聞こえますし、気になるといえば気になる。うちのマンションで、30dB代の騒音でも“気になる”というクレームが発生した例の多くでは、なにもない時にクレーム元の部屋の暗騒音は20dB代の下のほう。なにもないときに静かすぎる部屋を作ってはいけないわけですが、問題が起こった後で遮音レベルを落としましょうともいかないのが難しいところ。
暗騒音が、マンションの進化で下がってきている分、それを超えたとこから発生する騒音問題はなかなか難しいというちょっと専門的な説明はこちらから。
暗騒音に関して
私のマンションでクレームの多い部屋は?
うちのマンションは、壁式の棟・普通な耐震の棟・タワー風に乾式壁を使った制震の高層棟と、なんか建築方法の展示場みたいにいろいろそろっているのですが、クレームが目に見えて多いのは以下の条件を満たす場合。あぁ、またかと体感できる程度に違いますから多分発生率の差は数倍はあります。- 壁式の棟
壁式は、そのメリットを生かすために、梁をあんまりみせない設計にするわけなので、スラブを支える梁間面積が大きくなります。うちは全戸の7%だけが壁式なのですが、クレームの発生率はそれよりはるかに高いです。 - 南向きの高層棟の低層階
高層階ほど遠くの音を集める傾向があり、リビング等の暗騒音は高めです。一方で前が川なので道路などの音源に面しているわけではない低層階でも、近くの高速道路を上から見下ろす高層階同様に遮音性のいいサッシを採用しているので、測定にいくと暗騒音が20dBなんて部屋も。そんな部屋で朝と夕方地下にある揚水ポンプが一気に何台も同時に動くと、建物の中を伝わってくる振動が音になって気になるとかなクレームが。売り主さんと一緒になって配管のパイプを防振吊りしたりして低減するまでかなり苦労しました。 - 上階と間取りが大きく違う場合
最上階が王様住戸になっているなどで、下の階との間で間取りが大きく異なる場合。私が扱った例では、下の部屋の主寝室のど真ん中の真上が、上の部屋ではメインに人が通る廊下になっていて、これはちょっと難しいかな・・・とか。寝室の真上がお風呂とか水回りになるとかの凄い組み合わせも、タワーでSIとかだと起こることはあります。
乾式壁に固有の問題
遮音は基本的には重たいものを間に置くほうが有利ですが、タワーの場合は地震に備えて建物を軽くつくらないといけないことから、お隣との間は“乾式壁”と呼ばれる石膏ボードを貼り合わせた形になっているのが普通です。“正しく”施工されていればお隣の話し声などを止める効果は“スペック上は”26cmのコンクリートに匹敵することになっているのですが、実際には、乾式壁を挟んだ住戸間の騒音問題の発生は私は理事としてかなりの数を経験していて、私は実際に作られた部屋で“額面通り”の性能があるとはあまり信じていません。下の図は実際にタワーで非常によく用いられている吉野石膏の乾式壁を上からみた断面図です。
乾式壁の騒音問題がでやすいのは以下の場合です:
[1] 乾式壁に直接モノをぶつけたリ、音源をぴったりくっつけて設置した
掃除機を使っていて、ヘッドをぶつけるとか、その手の騒音(固体伝搬音)を止める力は乾式壁にはとても弱い。壁の重さの勝負になるからです。ちょうど乾式壁を挟んで2部屋のゲストルームがあるところで、話し声はかなり大きくても聞こえないのに、掃除機とかをぶつけるとかなり大きく聞こえるというのを理事会で“実演”したことがあります。
乾式壁は“壁ドン”にとても弱い。生活する上で知ってさえいれば、ベッドの置く位置を人が壁を蹴らない場所にするなどでかなり防ぐことができます。
以下は部屋を特定できないように修正した実際の事例:
2年前位からお隣から壁を叩く音がします。時々、振動が大きく壁際に置いている振り子の置物が揺れたりします。こちらの物音に対してではないとは思うのですが、やはり壁から突然ですがドンと音がするとドキッとしてしまうので、何とかならないものか
我が家の玄関左手の部屋とXXX号室のお部屋(恐らくお子さん)が隣り合わせになっています。夜中にドンドンと壁を蹴っているのでしょうか、音もさることながら、振動で、壁に設置している本棚の本がパタリと倒れる位の揺れがあります。実際に本が倒れました。騒音で困っておりますので、注意喚起の投函をお願い致します。
[2] 穴をあけるなどで故意に乾式壁の遮音性を落とした
乾式壁は、両方の部屋との間の空間との間に全く隙間が存在しないようにぴったり施工しなければなりません。簡単に穴あけができるからで、なかなか重たいTVが壁掛けできないなで、某大手家電量販店(ヨ〇〇シ)の人が工事にきて乾式壁に穴をあけまくって、TVを乾式壁に壁掛け施工した例では、TVの音がばんばん聞こえるでクレームに。そら聞こえるでしょう。ヨ〇〇シが弁償したはずで無事修理。
[3] 地震などで乾式壁がずれるケース
乾式壁は耐力壁ではないので、ありていにいって構造上はハリボテです。地震の時には躯体の柱や梁にダメージを与えずに壊れてくれないと困るわけで、特に制震の棟などでは、構造部分よりも先に壊れます・・・躯体の方が耐える層間変形角大きいもの。実際に過去の大きな地震で吉野石膏あたりの乾式壁が躯体にダメージを与えた事例はゼロ(乾式壁そのものは壊れる)だとか。
大きめの地震があって、お隣との間にわずかに隙間ができてしまった事例では、名刺がはさまるかどうか程度の隙間が空いているだけで、お隣の部屋で、冷蔵庫から氷を出してコップに入れているのが分る程度にまで遮音が悪化した例も経験しました。聴きにきてくださいといわれて行くと確かに。震度5強くらいからで、特定の階で発生。これは直すしかない。簡単に直ったけど。
梁が少ないとおこりやすい
床の遮音性には、梁が支えるスラブの面積(梁間面積)が小さいことが重要で、普通のファミリーマンションの間取りだと小梁が最低でも1本、場合によっては2本入れて梁に囲まれたスラブ面積を小さ目にするのが“コンベンショナル”な設計です。これに対して、タワマンでは多い「ボイドスラブ」や、最近あまりはやらない(騒音クレームが多いせい?)「アンボンドスラブ」といった小梁をさけて天井のフラット感を強調した工法があります。これはいずれも重量衝撃音の低減の場合には不利になります。
(タワーはその分、ボイドスラブでもすごく分厚いのを使っていますが、それでもワイドスパンなどで広いスラブを梁なしで遮音性を確保するのは少し難しい)
この間取りの例ではスパンが大きいのでリビングのはしにそって、小梁をいれていますね。これなくても構造的にはもつと思いますが。
タワーだからというより、梁を出さなくなるための工夫としてのボイドスラブで、特にワイドスピンな部屋を小梁無しに作ってしまうと遮音の上では厳しいのは確かです。うちはワイドスパンの間取りはリビングに小梁の横断があるので、見てくれはいけてないですが騒音問題は部屋固有では起こらないです pic.twitter.com/qKSeqbfxXC
— はるぶーちゃん💕は㍇ヲタクで善意の理事なの (@haruboo0) March 29, 2021
ボイドの発泡材が遮音に寄与するという話は聞いたことがないですが、発泡材形状の工夫により矩形ボイドに比べ軽量床衝撃音の共振を抑制できます。
— たかはしけんすけ (@taka_kensuke) March 29, 2021
また壁の湿式乾式を問わず梁やスラブ段差部は有効なスラブ拘束点として遮音性向上に寄与しますね。
まとめ
- タワマンの遮音が、大きく通常のマンションより劣ることはない。但し、上下階に比較して、乾式壁を挟んだ臨戸間のクレーム発生率が高い。
- 建物がタワマンかどうかより、“聴覚超人”がいるかどうかで騒音問題は決まるので、“クレームの被弾”を確実に避ける方法はない
- タワマンに多い乾式壁は壁ドンに弱い
- おカネをかけたから遮音性が上がるとは限らない
- 梁を目立たせなくする工夫は、遮音性を悪化させやすい。ワイドスパンの部屋など、大面積を小梁なしで作った部屋は見てくれはいいが遮音面では弱い
本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません。
初めてコメントさせていただきます。
いつも参考にさせていただいていますが、今回は特に勉強になりましたので、初めて感想を書かせていただきます。「理事会の人は、経験が浅いほどクレーム元に肩入れしがちですが、経験長くやるほどにクレームをうける音源とされている側の見解も必ず訊くようになる。」は、ものすごく宣徳力を感じました。
また、個人的にとても勉強になったことのなかで、はるぶーさんが「まとめ」には取り上げていなかったことがあります。低騒音問題の件です。外壁や窓などの遮音性に優れる物件が増えて、室内の通常ノイズ(=暗騒音)が下がったために、かえって隣戸など建物内部から発生する小さな物音を「騒音」と感じる人が出てくるようになった、これへの対処はなかなか難しい、ということですね。ご紹介いただいた論文では、そのような低騒音問題への技術的な対応方法(ノイズ発生源でのスペクトル分析が必要云々)についても書かれていましたが、いずれにしてもこういう問題があることを認識しておくことは、マンション暮らしを上手く続けていく上でとても重要だと思いました。
拙い感想ですが、応援の気持ちを込めて書かせていただきました。今後もよろしくお願いします。
例えば、乾式壁はものをぶつける系の騒音にはとても弱いなど、
住んでいる人が ”知っている” と低減できる問題も多い。
分譲マンションはおいそれと売ってでていくともできないですし、
一度発生してしまうとこじれやすくてそこからの問題解決は至難です。
住民皆が知っていて欲しいなで、理事会としても”問題を起こす前”
の告知に留意したいと思う次第です。
はるぶー様
ご返答いただきましてありがとございます。
とても勉強になりました。
遮音に関しては、大きく通常マンションより劣ることはないのですね。
現状直近では住み替えは考えておりませんが、メリット、デメリット十分に理解したうえで購入の際は検討いたします。
”大きく劣ることはない”ですが、特に
お金をかけた高額のものであることが、
”遮音性がよい”ことを保証するものでは全くありませんので
(タワーに限りません)その点のみご留意くださいませ。
普段外出中にルンバを使って掃除しているんですが乾式壁は掃除機のヘッドが当たると響くとあったので、もしかしたらルンバの当たる音もお隣に響いていた可能性がありそうですね。
ロボット掃除機でも時間やエリア設定など気を付けたいと思いました。
貴重な情報ありがとうございました。
ルンバはぶつかってその先いけないのを知るので、ずばりよく聴こえます。
うちは、乾式壁は片側にしかない(角部屋です)のですがお隣との間は
リビングは、TVの埋め込まれた収納になっていて、
中洋室は本棚なので、ルンバは直接乾式壁にはぶつかりません。
ドスドス歩きする馬鹿、壁ドンする低脳には何を言っても無駄ですね。
全体に注意喚起しても自覚なし。直接言うと逆ギレ。
あとに残るのはどちらかが退去するまで続く嫌がらせ合戦です。
私の経験したパターンとしては、
上の人が退去しても、次の入居者に対してまた下の人はクレームとつけ
下の人が退去すると、次の入居者は上の人にクレームをつけない
ケースしか扱ったことがないんですよね・・・
3-4例音を原因としたもめごとを理由にオーナー入れ替えは聞いていますが
全件がこの通りになっています