タワマンの修繕に関わるコストが、極端に高くなるのでは?は、最近よくメディアでとりあげられているところで、心配される人も多いのか、繰り返しやってくる質問です。。
目次
質問は
差出人: 「菅百合子」さんから
はるぶー様、マンションマニア様、ふじふじ太様、皆様
いつも楽しみに拝見しております。
タワマンは大規模修繕の際、その建物としての高さから、足場を組むだけではなく、上からゴンドラを吊るして対応する必要性がある等の理由により、修繕積立金が高くなるものと認識しております。
もちろん戸数等によっても違うので一概には言えないかと思いますが、板状も含め一般的には何階建、高さ何m程度を境に、ゴンドラでの対応が必要になる等、修繕積立金が高くなる可能性が高いのでしょうか。
目安をお教え頂ければ幸いですので、宜しくお願い致します!
”修繕が高額だからタワマンは廃墟化”は粗雑な議論
タワマンのほうが、修繕にお金が余計にかかるのは確かですが、なぜか普通の板型のマンション(以下板マンと呼びます)の何倍にも高騰するというような記事を最近よくみかけます。「暴落系」のコメントをメディアに出すのがお仕事の評論家の先生の記事だと、タワマンは、修繕に何倍もお金がかかるから、それが支払えなくなって廃墟になっていくに違いないとか。少なくとも、板型のマンションに対して何倍も高くかかりますということを本気で言うタワマンの修繕関連のプロの方に私は会ったことがありません。
ちゃんと、プロの手助けで作成されたタワマンの超長期の修繕計画や、それに対応した資金計画をご覧になったことがあるのかな?と私は思うわけです。暴落系の先生方は、タワマンやばいぞ!買うな!!がご主張ですから、自分自身がタワマンのオーナーをやった経験はないんですよね。
タワマンの大規模修繕の戸当たりコストは非常に個別性が強いものですので、一概にいくらくらいとはいいにくいと思います。
ただ、概ね超長期の工事の計画金額は(設備系の更新まで考えれば)板型のマンションに比較して平均としては3-4割は高いといったところではないでしょうか?
これは、のらえもんさんのブログ https://wangantower.com/?p=19189 でも紹介のダイヤモンドのタワマン特集の記事で、タワーの長計見直しを無数に見ている、さくら事務所の土屋さんが「60年分の積算でみると3-4割高い」としています。超長期で比較しないと意味がない理由は後で。
「菅百合子さん」の書かれている通りある高さを超えるマンションは、下から足場を組むことはできませんから、外壁の補修のために、ゴンドラをぶら下げるか、リフトクライマーを利用するなど、足場のコストは高くなります。
高さ60m以下の”超高層認定”の対象ではない20階程度までの高さのマンションは、なんとか下から普通に足場を組めますから、足場が特殊なのはその上あたりからになります。
足場仮設が高額だからタワーは避けるべきなの?
修繕が高いのが嫌であれば”ほげほげタワー”という名前の超高層認定の建物を避ければいいということになりますが、修繕のコストだけで、ある線引きをして自動的に購入を避けるほどに話は簡単なのかな?とも思うのです。足場の費用が最近高騰しているというのは、割と最近に法令などの規定も代わったりしたからで、板型のマンションでも事情はおなじですし。いくらタワーで足場が大変といっても足場の費用は工事費用の一部に過ぎません。
超長期の計画見直し(最低でも大規模2回以上を確保)+均等割り徴収に移行したと思われる都内湾岸のタワーマンションの積立金は、いずれも1㎡月300円以上程度に”早期に移行できれば”(均等化移行が遅れればこれでは済まないけど)収斂しているように最近の事例は見えます。
タワーの積立金は、後で新築時よりは月1-1.5万円程度は上がるだろう(70㎡換算)とは言えるでしょう。25年換算(賃貸の本対家賃が年4%×25年で比較するのが妥当)で3-400万円ほどのアップに過ぎません。車1台分くらい? 駐車場に停まっている車の半分が外国車なタワマンで、この程度の余分の負担が本体を廃墟化させるほどの重荷になる気が私にはしないです。
板マンでも”ちゃんと修繕積立のできている”マンションでは(案外すくない)この程度の徴収金額の数字になることは別に珍しくないです。60年を見込んで計画している私のマンション・・・まぁちょっと背は高いけど板マン的・・・でも1平米約250円でちょっと不足気味なくらいですので、とりたててタワーだけ修繕できない!とか大騒ぎするものでもないのではと。
むしろ、国交省など国が心配しているのは、何十年も積立不足のまま設定を放置してきてしまった、ごく普通の特に旧耐震のマンションです。修繕積立が不足しての、廃墟化のリスクは、積立問題を解消していないマンションには確かにある。
ただし、それをまだ1回目もまだなものが多いタワマン固有の問題として取り上げるのは如何なものかと。
板マンでも1戸100万ではなかなか・・・
のらえもんさんの記事で引用している国交省の、『大規模修繕工事に関する実態調査』はPDFがこちらからダウンロードできます:https://www.mlit.go.jp/common/001234283.pdf
毎回の大規模修繕工事が1戸いくらでできたかの分布は割と最近のデータでこんな感じ
これは”実際に実施された工事の平均額”なので、2回目3回目のほうが安めとかちょっと不思議なことになっています。当然新築時と同じようにキープしていこうとすると初回は放置できたところまで手を入れるしかなく、後ほど高くなっていくほうが自然です。
あっちこっち直したい中から、”手持ちのお金の許す範囲で耐えて”残りは放置している分とかは入っていないわけで、同じにキープする費用がいつでも1戸1回100万で済むというのはおそらく過小評価。
またタワマンで2回目やったってことはとても少ない(うちのお隣がタワーで例外的に2回もう終わってるけど)ですし、1回目すら最近ようやくお値段を聞くようになったくらいなので、そのデータは殆ど入っていない筈です。
通常のマンションで初回の大規模修繕の平均相場がちょうと1戸100万円というのは直接工事費のみで、設計監理などをするならそのコストや、共通仮設・現場管理費・一般管理費・消費税を含まない数字ですので、実際にはそれだけでかなりのアップになります。またマンション毎の特殊事情ってのはいろいろあるわけです。例えばうちのマンションは1戸当たりの建築面積が130㎡を超えていて、共用部分の面積が大きいという特徴があって、平均的な1戸いくらで積算すると足りないということがわかった費用があちこちにありました。
(重要)今時は普通のマンションでも初回1戸150万円はごく普通に聞きますので、100万じゃないぞ!ぼったくりだ!!とかで理事会を虐めないようにしてください。
タワマンの板マンに対する特殊性
タワーの修繕は、修繕計画表で比較すると、板マンと比較するといろいろと違いがあります。外壁の(足場を使った)修繕周期が長めで、屋上防水や鉄部塗装には(内廊下なら)お金がかからない一方で、設備系の更新・メンテが殆ど特注になるため、そのコストの占める割合が非常に高いということ。もっと短くまとめるとタワマンは大規模修繕の1回目までは安いけど、後になるとお金がかかる形で工事総額が板マンを抜いていきます。
- 外壁の修繕周期の違い:
タワーの外壁にはタイルは利用しないのが最近の傾向ですし、タイルになっているものも、タイルが打ち込まれたコンクリをもってきて組み立てるプレキャスト工法が主流です。タイルの剥落のリスクは低いために、シールのメンテ程度までかなり修繕周期を長くとれる例が多く、12年程度で初回修繕をする板マンに対して15-18年程度まで初回修繕を遅らせるのが普通です - 防水工事のコスト:
案外低層の小戸数のマンションのコストがかさむのは、屋上防水などのコストを小さな戸数で割るからです。3階建てと30階建てでは1戸のもつ屋上の面積は10倍異なる。 - 鉄部塗装:
板マンで外廊下だと、6年に一回程度鉄部塗装をしないとあちこち錆びだらけとかで、1戸4-5万のお金をかけて塗装をしますが、内廊下のタワーには鉄部は屋上くらいしかないので、内廊下タワーではこのコストはけた違いに安い。 - 特注の設備:
高速なエレベーターの更新、給排水のポンプのほか、タワーはその殆どの階に消防車が届かないなど防火・防犯関連の設備が無数に必要です。これが大抵最新かつ特注品で、最初入れた会社しか扱っていないなんて例は無数にあります。タワーは設備系のメンテが特注もので、お金が後でどかっとかかってくるというのが極めて大きな特徴です。修繕計画に忘れているのを見つけるといかんいかんで追加しますが、結構心折れる金額のものが多いです。
1回目の修繕だけの特殊事情としては販売時に修繕の一時金をかなり多額に集めているということもあるので、案外平米月100円くらいの積立金のままでも”1回目の工事だけ”はできてしまいます。
大規模修繕計画の年次ごとの工事の積算額のグラフをもっていないタワーとか存在しないですが、1回目の工事のときにその時の手持ちの積立金の1/3~1/2を2回目に向けて残しておける設定でないと、工事の後で2回目に備えた積立が「超爆上げ」になります。1回目でお財布が空っぽ、全弾打ち切りになっている資金計画だとかなりまずい。
・・・皆さんのタワーは1回目の工事の”後”でちゃんとお金残る計画ですか??
修繕工事費用のタワマン間の個別性
最近沢山事例のでてきた1回目の修繕の工事の1戸あたりコストには、マンションによって大きな幅があります。タワーマンションの修繕は
- 戸数の大小:タワマンは意外にスケールメリットが効きにくいので、必ず必要になるもののコストを分け合えるように戸数は~1000戸近いとか大きいほうが有利です
- 外観の形状:凸凹していると足場がうまく組めないほか、バルコニーがぐるっと建物全周をとりかこんでいるような形状のほうが、工事の困難さが少ない感じがします。外壁にタイルを使っているマンションがちょっと古いタワーでは多いですが当然コストアップ。
- 外廊下か内廊下か:雨で濡れる鉄部は、内廊下では屋上くらいだけですから少ないので外廊下のほうが不利なものもあります。代わりに空調は更新しなくていいですが。
- どんな設備があるか:エレベーター・給排水などのほか、防災・防犯などタワー特有の設備と、特に駐車場の確保方式。タワーパーキングが建物に埋め込まれたタワーは特に高額。
同じ初回修繕でも1戸100万未満(板マンより安い!)でできたタワーから250万円程度かかったタワーまでいろいろあります。完全な直方体形状のタワーと、こぶこぶでっぱりがあるようなタワーで、同じとは言えませんから目途を数字で画一的に示してくださいは困難です。
下の写真の2つのタワーは、大きく初回の大規模工事のコストは違いますが、外壁をやるなら同じ戸当たりコストでないのは、素人目にも明らかです。
(重要)ほかのタワーと比較して、あっちよりうちが高いぞ!とかやるのも虐められる理事会がちょっと気の毒。
国交省の積立金のガイドラインはもう特にタワーにはそぐわない
国交省がもう10年近く前にだした”積立金”のガイドラインをみて、うちのマンションの積立金は集めすぎ!とかよく言われます。これはちょっと注文?というか間違えて引用されているのを無数にみかけるのでそのうちブログでとりあげたいと思っています。ひとことでいえば超高層(20階超え)は以下の”ガイドライン通りでは足りない”です。
併せて読みたい”タワマン”編ブログ
湾岸のタワマンの管理費・積立金などの傾向(他の地区でも参考になるかと)や、タワマンの管理費が特に小戸数(200戸程度ではまだスケールメリットがきかない)では高騰するなど、タワマンテーマの私のブログです。湾岸タワーの管理費と積立金の築年別傾向
https://www.sumu-log.com/archives/17357/
すべてのタワーマンションは廃墟になるだって!?
https://www.sumu-log.com/archives/17201/
新築の湾岸タワーマンションの管理費高騰の理由は?
https://www.sumu-log.com/archives/24441/
タワマンって本当に維持費が高くつくの? 【お便り返し】
https://www.sumu-log.com/archives/29734/
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本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません。
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