第3回 ゾンビ企業の物件に不安

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「売主が○○社というあまり聞かない会社なので不安があります」こんなご相談がよく寄せられます。

最近あったN社の件では、次のようにお答えしました。
(簡略化しています)

商品企画がしっかりしており、大手に負けない優良なマンションを創ることで定評のある企業です。しかし、財務体質が大手のように強固でなかったことから倒産したのです。
今は再建途上にありますが、短時間に強い企業になるかは甚だ疑問です。しかしながら、再び経営危機に陥ったとしても心配は無用です。多少の混乱はあるでしょうが、購入者に重大な不利益が及ぶことはないと思って大丈夫です。

ただ、ブランド価値は下がり、売却の際に不安を抱く人が増えるので、リセールのとき、取引価格に影響を与えることは避けられません。
それでも、物件価値(立地+建物内容)が魅力に溢れていれば、上記不安は霞むものでもあるのです。あなたの検討中物件は・・・(以下、略)

◆ゾンビ企業の倒産事情を振り返ると

「ゾンビ企業とは、経営が破綻しているにもかかわらず、銀行や政府機関の支援によって存続している企業のことである」と辞書には書いてありますが、大手マンションマーカーの中にもこの種の企業があります。

仮にX社としましょう。バブル経済の下では「売れて売れてしかたない」と予想外の販売スピードに当の役員が相好を崩し、驚きのコメントをしていたTV画面を思い出しますが、バブルが弾けてからは大量の在庫を抱えることとなり、ついに破たんしてしまいました。

ところが、「大手は社会的な影響が大き過ぎる」と判断され、政府が設立した「企業再生機構」に救われることとなり、その後、民間の金融グループの資本注入によって再建を成し遂げたのです。X社は今では安定的な経営を取り戻していますし、ブランド力も往時と変わらないくらいの高さを誇っているようです。

バブル後、マンション業界で再生機構の世話になった破綻企業が他にもあったのですが、X社のようにはうまく行かなかったようで、今では新しいマンション販売を1年に1件か2件、外周部で見かける程度と、X社とは明暗を分けてしまったのです。

2008年に起きた「リーマンショックをきっかけとする世界金融危機」によって、日本の銀行も不安に陥りましたが、バブル期の学習(多額の不良債権を抱えて倒産する金融機関が続出)を活かし、多額の貸付先である不動産会社から債権回収に動きました。

迅速な対応でした。この策によって力のない(財務対質の脆弱な)中小デベロッパーとゼネコンが、まるでドミノ倒しのように次々と倒産したのです。

倒産会社は、消滅かスポンサーがついて再建するか、どちらかの道を歩むのですが、問題はX社のような再建を短期間に成し遂げた例は少ないという事実です。

はっきり言ってしまうと、「もう一度倒産するかもしれない」ということです。倒産はしないにしても、買い手を安心させるだけの信用力を取り戻すのは至難の業と言えるのです。

筆者の知り合いにも、運悪く倒産企業の社員だった人が何人もいます。個人としてはみんな優秀な人たちですが、今はすっかり元気をなくし、消息不明の人も少なくないのです。倒産企業に残った人たちも、希望に胸を膨らませている人は少ないらしく、肩身の狭い思いをしていると聞きます。

スポンサー企業に力があれば、X社のようなハッピーなこともあるのですが、これは稀有なケースです。倒産企業からは有能な人材がいなくなってしまい、スポンサー企業の囲いの中でしか事業を継続できないので、かつてのような活力を取り戻すのは遥か先と見るほかありません。

◆ゾンビ企業の新規物件は結構マシなものがある

ゾンビ企業もスポンサーを得てから数年を経て、ようやく在庫処理が終り、新規開発が可能となりました。最近、見つけるのは再建の気概を感じないでもない「悪くない」物件です。

「イケイケどんどん」だった倒産前の状態と違って、候補地をよく吟味し、企画をしっかり練って、時間も取って良い物件をしっかりと作って行こうとしているかのようです。

個別に評価を出してみると「大手に負けない」そう感じさせる例も少なくないのです。ただ、問題は、良い立地の物件が少ないことでしょうか? 規模も小さいというのが難点かもしれません。

◆人間は忘れるものであるが・・・

昨年(2,015年)10月に発覚した欠陥マンション事件。三井不動産レジデンシャルが分譲した「杭未達・傾きマンション」は記憶に新しい大事件でした。前年も同じ横浜で住友不動産の傾きマンション事件がありました。

どちらも横浜で起きた事件であること、どちらも大手マンションメーカーであったこと、ゼネコンも三井住友建設と熊谷組という準大手であったことなどが共通点です。

この二つの(特に昨年の三井)事件は業界にもマンションユーザーにも、そして契約者とこれから契約しようとしている多くの人たちに衝撃を与えました。

あの余波はすっかり消えてしまったのでしょうか?横浜では続いているのでしょうか? 少なくとも筆者に届くご相談や評価依頼のメールの行間からは全く窺えないのです。

人の噂もなんとやらで、人間は忘れっぽい動物です。昨日届いた評価依頼(無料)も三井事件のあった近くの駅の物件ですが、不安とおっしゃる多数の項目の中に杭工事については触れていないのです。

とはいえ、今まさに買おうとしている人は失敗したくないので物件のこと、売主のこと、ゼネコンのことなどを徹底的に調べてから決断しようとします。今日の話題は、売主の知名度がないので調べてみたら一度破綻した企業と知ったという依頼者のメールがきっかけでした。

このように、忘れっぽい人間でも直接の利害にかかわることになると別のようです。インターネットが普及するに連れて、情報を集めるのは簡単になりましたから、それが不安を強めたり、混乱に落しれたりするのでしょう。

◆マンション選びで大事なことは何?

話を戻しますが、ゾンビ企業の物件を検討すると、大半の買い手は不安に思うものですが、冒頭に書いたようなことがひとつの答えです。

ゾンビ企業の物件でもなかなかの優れものがありますし、ゾンビ企業の物件だからといって全てを候補から捨てることはないのです。

大手でも、まさかと驚かされる欠点だらけのマンションがありますし、どこのマンションでもパーフェクトな物件はありません。仮に文句のつけようのない物件があったとしても、その価格の高さが欠点であったりするのです。

つまり、ゾンビ企業であるとか、知名度が低いといった物件であったとしても、立地条件が良いとか、プランが優れているといった他社に劣らない物件であれば、トータルの評点は大手に比肩するものとなり得るのです。

◆それでも万一が起きたら?

冒頭のお答えの中でも述べましたが、大きな問題はないと思っても大丈夫です。

マンションで居住中に起こるのは、先に述べた杭工事事件を筆頭に、雨漏りなど建物に重大な欠陥ですが、その可能性は極めて低く、例え大手であっても起こり得るわけですから、これは運がなかったと諦めるほかありません。

ちなみに、三井と住友の2物件は、二つで500戸くらいでしたか?8年か9年前の分譲なので、過去9年間に神奈川県で販売された新築マンションの累計数を調べると、約7万戸に達します。
500戸はこの0.7%に相当します。このような1%以下の確率でも怖いという人は大手から買うほかありません。

なぜなら、三井も住友も数百億円をかけて建て替えや仮住まい費用などを負担するというのですから、中小のデベロッパーには真似のできない芸当です。
(もっとも三井の場合は、三井住友建設や杭工事を担当した下請け企業が負担することになるのですが)

大きな問題はなくても、ちょっとした不具合が起きたときのアフターサービスについても、売主に万一が起これば十分な対応はしてくれない可能性が残ります。これも、実際の対応は施工会社が行うので、致命的な問題に発展することはありません。

その施工会社も倒産したらどうなるのでしょうか? そこまで考えると、少なくとも、売主か施工会社か、どちらかが倒産確率の低い企業の物件と選択条件の上位に定めるほかありません。

ゾンビ企業はもう一度倒産するかもしれないと書きましたが、その場合も同様です。その確率は、破綻していない企業が今後破綻するかもしれない確率と比べてどのくらいの差があるのでしょうか?

筆者には分かりませんが、仮にゾンビ企業の方が高いとしても、そこに自分が当たるかどうかは「神のみぞ知る」のではないでしょうか?

このように楽観的に考えられない人は、ゾンビ企業と知った時点で検討対象から外すべきですが、運が悪かったと諦められる人は優先順位の上位に入れておいたとしても、最終的には物件価値のみで選択を決断したらいいのではないでしょうか?

・・・・・・・・今日はここまでです。

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