第6回「危険なワンルーム投資」

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このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

 

新聞を見ていると、相変わらず「マンション投資セミナー」が活発に行われているようです。ワンルームマンション投資に関心を持つ人が減らないのでしょう。

 

住宅ローンの金利がどんどんゼロに近づく中、自己居住用に比べると投資用のローンは金利が高いものの、それでもひところより低下し、新築を買った場合でも返済額より家賃収入の方が多いバランスとなっています。

 

しかも、空室なしの保証契約(業者の借り上げ転貸=サブリース)をすると負担は殆どないので、安心して購入に踏み切ることができるのでしょう。

 

筆者もワンルームマンションを2戸所有していたときがありました。学生さんの需要が多いエリアだったので、借り手探しは全く心配いらない物件でした。入れ替えの手間も、リフォームの手配も近くの仲介業者に委託し、10年くらいほったらかし状態でした。

 

専用の銀行口座を設け、そこから住宅ローンを返済し、家賃の入金口座と同じにして、筆者がやることと言えば、ときどき通帳の出入りを見るだけでした。

 

ワンルームマンションを買ったのは、「老後のために」などと明確な目的があったわけではなく、「業界内の付き合い」と「研究のため」の曖昧な目的でした。

 

10年ほど経ったある日、資産の整理統合が必要になり、1軒を売却することにしました。

 

30年の長期ローンを利用していたので、10年時点では元本が20%くらいしか減っていなかったと記憶しています。

 

頭金なしの100%ローンを組んで購入したので、購入額の80%以上で売れないと清算のためには手出しが必要でした。

 

売却額は、なんと購入額の半分でした。売却を考え始めたときの調査ではもっと安くなりそうだったのでマシな方でしたが、覚悟の処分でした。

 

新たなオーナーになった人は、当然ながら投資目的で買ったのでしょう。利回りと賃貸の回転の良さが決め手になったと仲介業者の営業マンから聞きました。

 

10年の間に賃料は奇跡的にも一度も下がりませんでした。ワンルームとしては比較的大きな100戸を超える物件で、管理人が週6日終日勤務だったことなども要因だと推測していますが、一番の要因は、少し広めの28㎡の部屋であったことに加え、何年後だったか、管理を委託していた業者の勧めで、壁紙の交換以外では、キッチンを新品に交換したり、トイレを最新式のウォシュレットに交換したりしたことにあったようです。

 

しかし、筆者にとって、ワンルーム投資は結果的に何も利益を生みませんでした。

 

 

●ワンルーム投資の目的

 

100%ローンを使って買ったワンルーム、賃料とローンの返済額が同額でなく、賃料の方が多いケースもありますが、その差は微々たるものです。

 

50%ローンにすれば、手取りが当然多くなり、その金額は頭金に対しての計算では年利3%くらいになる場合もあります。預金金利と比べると高利です。これなら意味があるかもしれません。ただし、中古マンションに限られます。

 

実は100%ローンでも、収益の方が大きく、年間に何十万円かを手にできるケースもあるのです。

 

どちらにしても、安い中古のワンルームを購入した場合です。

 

買い手の多くは、中古でもできるだけ新しいものを望みます。あまり古いと、先行き建物の維持管理が面倒なことになるかもしれない。また、狙いとする賃料収入は得られないことになるかもしれないと考えるからです。

 

目先の収益もあった方が良いに決まっていますが、それだと古い物件になってしまいます。新しいものを望めば、賃料の大半がローン返済金に回ってしまいます。中々思うようには行きません。

 

全額現金で買うなら話は変わりますが、ローンを利用する以上、「二兎を追うことはできない」と気付きます。

 

よくよく考えると、将来の不安、なかんずく年金が十分にもらえなくなる懸念が強い。だから何かで自衛しなければ。このような思いから定年後、日をあまり置かずにローンが完済し、その翌月からそっくり家賃が手元に残るマンション投資がいいのではないか。

 

このように考えてワンルーム投資を始めるのはずです。

 

勿論、1室では高がしれているので、将来はこれを2室、3室と増やして行きたい。先ずは初めの1室だ。こんな考えでスタートを切るサラリーマン投資家が多いのです。

 

日本人は昔から、何かあったとき頼りになるのは現金だと考える人が多く、コツコツと貯金をする習性があると言われます。

 

預貯金だけではありませんが、個人資産の合計が1600兆円もあることをご存知の方も多いと思います。これが日本の財力の一端を示しています。その一方、20年くらい続いている低金利時代、今年は一段と低下し、マイナス金利だという。これを聞き、金利のつかない貯金をしているだけでは老後が心配だ。

 

このような将来不安が、安全投資、安定投資先として不動産へ向かわせているのでしょう。

 

 

●30年先の資産価値が問題だ

 

冒頭で筆者の失敗談を紹介したのは、どこかで売りたいとなったときに売却損を覚悟しなければならない。それがワンルーム投資というもの。その覚悟がないのなら、止めた方がいいという筆者の主張の根拠を補完したかったからです。

 

中古が安く買えるということは、立場が替わって売り手になったとき、安く売るほかないことを意味します。

 

投資家が中古を選択するとしたら、それは新築より利回りが良いからです。逆に見れば、中古を投資家相手に高く売るのは難しいということなのです。

 

中古マンションの劣化スピードを遅くし、見栄えも新築に引けを取らないような維持管理ができたら、比較的高く売ることができるでしょう。しかし、現実は難しいのです。

 

築後20年を超えたら、平均は新築の半値以下です。

 

新築相場が大きく上がっていれば購入時からの値下がり率は少し縮まって購入価格から6掛けくらいで買い手がつく物件もあるかもしれませんが、建物の状態が悪いと価格は一段と下がります。

 

室内が新築同様であっても外観と共用部が古ぼけた印象であったり、壁にクラックが見られ、タイルがはげ落ちたりして、管理人もいない状態の物件では賃料を高く保つのは難しいことになります。

 

賃料が下がると利回りが低下するので、価格を下げることは不可避となります。

 

 

●巡回管理と大規模修繕の徹底が課題

 

転売益が狙いではないから価格が下がっても一向に構わないと考える人もあるかもしれません。しかし、賃料は年々下がって行くと考えることが必要です。

 

賃貸収入をもたらす、いわば打ち出の小槌になってくれるはずのワンルームマンションの末路は哀れなものです。なぜなら、スラム化してしまう確率が高いからです。

 

ワンルームマンションの多くは、小規模で管理人不在型です。日常の清掃は定期的に実施されるものの、何しろ番人たる管理人が不在なので、居住者のルール違反は黙認され、オートロックになっていても外部からの侵入が防げない不完全なセキュリティの物件も多いのです。

 

一番の問題点は、定期的な大規模修繕が適宜・適切に行われないことです。屋根の防水工事やタイルの剥離部分の修正、非タイル部の塗装などは行っているものの、壊れた郵便受けのロックや扉は何年も放置され、エレベーター内のキズや汚れ、落書きも手つかず、廊下に貼った塩ビシートもところどころめくれている状態が長年続いてしまう物件も少なくないのです。

 

原因は、修繕積立金が十分でないからです。20年~24年目とされる第2回の大規模修繕期あたりまでは何とか最重要工事(屋根とバルコニーの補修・外壁のひび割れの補修など)はできても、30年を超えて来ると必要になるエレベーターの交換と給排水管の交換または洗浄といった多額の費用を要する工事は後回しになってしまいます。

 

積立金を増額したり、一時金を集めたりすればいいのですが、コトは簡単ではありません。所有者は、別のところに住んでいるので建物劣化による修繕の必要を書面で知らされても実感がわきません。

 

管理組合総会を開催しても、出席者が定数に達しないために流会になったり、無事に開催ができても賛同を得られなかったりするのです。

 

開催できても、応急処置か根本的修繕かという問題になったとき、根本的修繕に踏み切るために一時金を徴収しなければならない場合、住人の意識が低い場合は必ず紛糾します。「一時金を徴収するかどうかは、大半のケースで意見が真っ二つに割れる」と管理会社の知人は言います。

 

「負担は最低限の一時金で応急処理だけ実施したい」意見と、「資産価値を維持するには一時金が増えても根本的に修繕すべきである」との意見です。

 

応急処置は初期費用も工期も少なくて済みますが、しばらく経つと、また関連する工事が必要になるので、長期的に見た負担はこちらの方が多くなってしまったりするのですが、目先の支出が壁になるというわけです。

 

 

●定年後の収入源となるはずだった資産がお荷物になる懸念も

 

このように長い間に資産価値が維持できず、しまいには誰も住みたがらないマンションとなり下がるかもしれない。つまり、スラム化の道を一直線に進むかもしれないのです。

 

都区内を物件調査で歩いているとき、懐かしい名前のワンルームマンションと遭遇することがあります。それは、かつてワンルーム専門業者として一世を風靡したS社とM社の物件ですが、30年しか経っていないはずなのに、スラム一歩手前かと思わせるような風貌なのです。

 

館銘板を見なければ、「これが一時代を築いた、あの企業の物件のなれの果てか」と落ちぶれた姿に、暗鬱な気持ちに襲われます。

 

勿論、まだ人が住めるマンションであることも想像に難くないのですが、先に述べたような汚れたままの、また応急処置しただけの傷だらけの外形のマンションは美観を失い、

元々規模が小さいので、周囲のビルや新しいマンションの街並みに埋もれた存在感に乏しい建物なので、「ここに住みたい」と思う単身者は少ないだろうなと思ってしまいます。

 

 

30年か35年の長期ローンを完済し、いよいよこれから老後の生活資金を稼いでくれると期待した働き手が、さほどの収入をもたらしてくれない老体になっていたという可能性は高いのです。

 

マンションがスラム化したら、そのとき住人または所有者はどうするのでしょう。おそらく、見切りをつける人も少なくはないはずです。そして、徐々にその数を増す。空き家も増える。管理費の滞納者も多く、集金するのは困難を極める。

 

こんな事態が想像できます。

 

ゴミの山だったり、自転車置き場に壊れた自転車が放置されていたり、壁や床のコンクリートから錆びた鉄筋が顔を覗かせていたりと、とても人が住めるような状態ではないものに変質した場合、つまりスラム化の進行がひどい場合、売却それ自体が困難になるでしょう。

 

ワンルームマンションが、200万円、いや100万円で売りに出しても、誰も買ってくれないという事態は、決してオーバーな話ではありません。遠い未来の話でもないのです。

 

管理費が安かったり修繕積立金が不足したりというような管理では、早晩そういう憂き目を見るでしょう。空き家が多ければ多いほど、老朽化は早く進行し、スラム化は最後の局面に至ります。

 

 

 

・・・・この続きは、またの機会に書きたいと思っています。

 

 

ワンルームマンション投資についてご興味のある方は、拙著「ワンルーム投資は危険が一杯」をお勧めします。

 

・・・・・・・・今日はここまでです。関連記事は、別のブログ「マンション購入を考える」の500本余の中から多数見つけることができるはずです。是非ご訪問ください。

 

 

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