理事長を引退したいけど、逆走防止のための引継ぎの方法があるか?というご質問でご指名。私現役だし、生きている人に死後の世界の話を訊かれても?って気もしますが、思うところをお返事しておきます。超ショートな結論からいえば”方法はない”。
だいたいこれは「トリプルコーク1440」みたいに「人類史上最高難度」の技で、私ができていればここまで13年も理事やってた筈もないし…
目次
質問は
差出人: 信州力
誰に答えて欲しいですか?
はるぶー, 東京湾岸ライフ
メッセージ本文:
大規模マンション理事長として現在、引き継ぎについてどうしようか悩み中です。
自分は以前輪番で理事を務め、管理会社から頼まれて2年目の理事を引き続き務めました。その後、各種委員会活動を経て、再度理事として立候補し、理事経験は5年ほどになります。
幸いにして防災、2年任期などの課題もクリアし、今期長期修繕計画見直しがうまく進めば、そこで理事は引退しようと考えています。
ただ多くの課題を自分が率先して解決してきたため、他の理事のやる気をうまく引き出せておりません。今は他の理事にも担当を割り振りやってもらってはいますが、担当理事のマニュアル整備までには至らず、ましてやクレドのようなビジョン共有もできていません。
今後も安定した理事会運営を続けていってほしいのですが、2年任期を1年にするとか、修繕積立金を適正化してもまた元に戻すなど、逆走も懸念しています。
正直自分が残り続けるのも良くないと思って一旦は身を引こうと決意していますが、どういった形で理事会活動を引き継ぐのが良いのでしょうか?ビジョン策定やマニュアル整備、あるいは引退理事の顧問化など諸々の施策はありそうですが、どこまでやるか悩みどころです。
管理といえばはるぶーさんなので、そのご意見を伺いたいのですが、実際に理事会役員を退いた経験を持つ東京湾岸ライフさんのご意見も伺えるとありがたいです。
結論から言うと
この質問Twitterに転載したらかなり反響がありました。結構”刺さる”いい質問だということかと思います。 今6期目くらいですから、2年任期とか、積立金徴収の均等化などに取り組まれているというのも、ちょっと“独裁型”理事長の傾向があるんじゃないかな?ってのも私に近い。私の結論からいえば、“引継ぎは後継者を育てるか、見つけてくる以外の方法では不可能”だから、解決するには、ここまでの進み方からいって、1年やそこらでは困難ではないかなというもの。質問をみて1期じゃ無理だよね・・・が、理事長の会RJC48でも神7クラスな理事長さんの多くの感想(実はみんな長期政権)
となると、選択肢は3つのみ:
- あっさり辞め、例え“逆走”してても総会に顔を出さない
- 辞めないで(極論すれば1人でも)できる限りずっとやる
- 数年がかりで皆で進めるシステムを構築する
なぜ他の役員のやる気を引き出せてないのかに対する分析、コメントが少ないですね。やり残したのはそこだと思います。
— 星川太輔 (@starriver3) March 17, 2022
ドキュメントやクレド策定の前に、そこと向き合うことがスタートだと思います。そして他の役員のやる気を引き出せたら必要な各種ドキュメントは勝手に周りが作り始めると思います。
「クレド」を作って皆で守るなら、作るのは皆であーでもないこーでもないと楽しく議論してでなければならず、「信州力」さんが書き与えても自分の中からでてきたものではないから実効力はないわけ。
うーん続投で…w
— ぼうもあ (@1192758a) March 17, 2022
冗談はさておき、この「逆走」という単語が引っかかっていて、組合員が規約に則って変更するならそれが総意ですから、なんだかこの辺にこの問題の背景が見えるような気がしますね。
「逆走防止」とおっしゃてますが、”逆”という向きは誰が定義するのか?です
リーダーとして皆を引っ張っているつもりでいたら?
多分「信州力」さんは、下の図のリーダーさんみたいに人を引っ張っているつもりでいたら、実は綱を引いていたのは自分一人だったことに気が付いたけど、ちょっと諦めきみなのでは?と背中を見せて、同じようにやりなさいというのは、リーダーシップの1つの方法ではありますが、それで皆が同じにしてくれるのは、理事をすることの動機付けができている場合だけですね。そうでないと、理事会は他の人にとっては出席して挙手するだけの場になります。
理事長には4つしかタイプがない。ここまで進み具合が順調だから、多分私と同じ「独裁型」なんじゃないかと。性格的なものですから、そうそう議長に徹することはできないわけですが、なんでも自分でって人は、過労死するまでやるか、あるいは完全に理事会から手を引くかしか選択肢がない気がします。
理事会は”人”で繋ぐしか引継ぎの方法はない
上で星川さん(”クレド”作成時の副理事長さん)が書いてますが、なにか引継ぎ文章をトップダウンに作成して文化を引き継ぎしようとしてもうまくいきません。代わっては欲しくないルールを規約に書き込んで固定しようとしたり、引継ぎマニュアルを例え1年がかりで作成しても、次の期の理事全員に ”動機付け”ができていなければ、誰も規約を読んで守ろうとはしないだけです。そのまんま読まずに捨てられちゃう文書に時間をかけても効果は低い。
規約に固定したいことを書いて、例えば3/4を”超える”割合で総会で賛成がなければ変えられないようにする手はあります。積立金を”均等割”でなくするには全戸の9割賛成など。ただ、それは”理事会”なり、”総会”なりで圧倒的な割合で、その変更を支持するだけ根回しできてないと無理ですよね? 替えるには9割賛成な制度を制定するには9割を超える賛成で実施するのでなければ笑われます。
さらにいえば、後の期の理事会が、魔改造された規約を完全無視しているとして、違反だ!で怒って裁判を起こしても、理事会は凄いお金を管理費会計から使って応戦してきますし、勝ったとしても、手に入るのは、被告になりますでは怖いから理事が誰も出てこないので成立すらしない理事会のみ。これじゃ要らない。
規約を魔改造するのは”自分が使いやすく”するため。自分がいなくなった後のことを文章で縛ろうというのにはそもそも無理があります。
私のマンションのは100ページに及び14ある役職別のページがその過半を占めていますが、書き継いでいるのは”その期にその役職だった”人です。理事長がこうあるべしとトップダウンに書き与えるものではありえないわけです。
理事会は絶対に”人”でしか繋いでいくことはできません。そしてその人の繋がりを耕していくには、どうしても長い時間がかかります。
とりあえず2人目できれば3人
「独裁」タイプの理事長は、勉強熱心で思わず管理士試験に合格しちゃうくらい管理のことに詳しかったりしますが、大人数の理事全員を同じレベルに”覚醒”させることは不可能です。最初は1人、できれば2人くらいの信頼できる「同志」ができるだけで、理事会の雰囲気はもう大きく変わります。私のマンションの理事会には、10年勤続表彰(お金もでる)の制度があって、来年までで4人が表彰をうけたことになりますが、その10年選手の全員が理事長+4人の副理事長の要職5名を占めていて、年によって他のセクションを受けもったり、出戻ったりとかしています。30人のうち5人が一定レベル(並のマンションなら理事長でもできるくらい)であればそれできちんと回っているわけです。
その2人目、3人目は必ずしも住民である必要すらありません。どうも理事会内の人間関係の構築が得意でないとなれば、「人たらし系」の管理士さんを顧問で連れてきて理事会にも参加してもらうと言った手もあります。
輪番の理事会なら、年に一回はいって来る中から偶然「同志」になる人を何年も待つ(私は3-4年待ち)しかなく、それが無理なら外から導入したほうが速効性がある。独裁理事長なら、もう過労死しそうだから雇う!とか叫べば挙手はとれますし。(ってそれ私)
うちは今、管理士の他、弁護士・税理士・司法書士・一級建築施工管理技士と継続的な顧問の契約があります。全部合わせると、1戸が毎月500円玉1枚弱の負担。戸数が多いから超安い。プロの仕事をお金で外注するという仕組みに理事会が抵抗がなくなったきっかけが、最初にやった管理士さんの導入(3期から)でこれは成功だったと思っています。
下の、理事会の”全体マニュアル”はうちに顧問で入っている管理士事務所の作ですが、もともと詳細引継ぎみたいなことを書いていたページはどんどん役職別マニュアルに格下げになって、”初心者向けの精神論”のみが残ってきています。新しくはいった人に必要なことだからですね。 私には絶対同じには作れない。だからお金払って雇うわけですが。元の管理士事務所からは今期で”卒業”して、来期からは(もし総会で可決できればですが)別の個人の管理士さんを”外部監事”として起用予定です。
皆で進める仕組みつくり
自分の他に、重要時を託せる人が2人くらいできれば、ある程度安心して「引退」も可能なのではないでしょうか? この時大事なことは、”とても大事なことを口出しはせずに任せきる”ことです。例え必ずしも思い通りでなくても、任せたのだから、黙っていられるのでなければ、最初から自分一人で全部やったほうがマシ。責任と仕事の重さに見合った権限もなければ人は動いてはくれないと思うんです。上のはうちの組織図です。私は、副理事長Bってことで、「おカネ」と「建物」の担当ですが、”防災”とか”コミュニティ”みたいに”人間が相手”の仕事はやってません。30人から理事がいるわけで、なにも苦手なことまでしなくてもいいよね。代表理事は、理事長と私の2人。逆に人間が相手のセクションは主に理事長が面倒みてます。逆に規約を書き換えありするのは専ら私。
もともと2年に渡って、理事長のなり手が全くないのに、副理事長にはなる人がいたことから、”理事長ってなくせないの?”が動機で、複数人の代表理事による、集団指導制を目ざした法人化(もともと管理組合は法人化すれば、理事長って個人の管理者の機能を、全理事で分担していることになります)を8年前に実施したもの。
規約も千箇所単位と大きく書き換えましたが、今の規約には殆ど理事長ってでてこなくて、議長役のみ、一方で普通は理事長の権限であることを、委員会を総括している副理事長に委ねています。
多くの「独裁」タイプの理事長が、皆働いてくれない!とか愚痴ながら、“任せきる”ことはできていません。うちに管理士さんを連れてきたときのアドバイスは、2つだけ;
- 理事会で理事長がしゃべっている時間をまず半分に
- ネットで議論一切禁止、理事会の場で相手の目をみて説得してね
マラソンは100M走に比較して半分の速さですが、400倍遠くまで行けます。短距離走の理事がやめてもなにか残る方向を考えるより、生活の一部としてずっと理事を継続できる程度の負荷にあえて落として、総会の間際でもいやもう暇で暇で・・・とか余裕を見せまくる方向を志向したほうがいいんじゃないかなと。
まぁ私も総会前にブログ書いているわけですが、余裕っちゃ余裕。
これができないと、全部理事長が、理事会での提案資料まで作成して進めるしかなくなって、これは遠からず過労死路線です。うちでは、理事長は理事会に向けて、4つの委員会や、管理会社、私などいろいろな人から集まったきた提案資料を並べて3時間以内に収める議長をするだけで、自分では1ページも提案資料を用意しません。これは私が自分が理事長だったらこうあって欲しいと思う方向に進めてきたからです。それでも理事長充分に激務ですけどね。進めて欲しいことは、まず担当の副理事長に依頼するわけです。
一の子分(うちでは私)に用意しなさいではなく、理事長が自分で理事会の提案資料を作成しないといけないようでは、その人は継続して10年はもたないと思うわけです。
「逆走」って向きは誰が定義するの?
質問で気になったのは、「逆走」って言葉でした。世の中のマンションの過半は、理事の任期が1年でそっちが多数派、立候補すれば理事になれる仕組みがあるマンションは全体の1/3だけにすぎません。その設定には、”理事の負荷を軽くする”といった明確な利点もあるわけですし、”積立金”を”値下げ”すれば住民の負担は下がります。管理ヲタクが”こうあるべき”だと思う方向と逆の意見だと、”逆走”とか言われちゃうと、理事会や総会が炎上しちゃう気もするわけです。
管理組合にとって何が正しいことをみなされるかは多数決で決めるしかないわけで、それが理事会なり、総会なりで多数をしめて決まったことは、可決された時点で”正しいとみなす”のが管理組合のお約束な気もするわけです。
うちの理事会は通常”自治会”が実施する内容も併合している分、理事の負担の総量が大きいのが特徴です。多分30人が年に総計2500時間程度は働いています。これを維持できるかどうかは、理事会の過半数が意味があると思うかどうかで決めるもの。ずっと組織が巨大化してきましたからどこかで揺り戻しはくるだろうなと。
後継理事会の方針がどうも気に入らないなら、管理状態が多少悪化しても5年やそこらではマンションの値段が下がるわけでもないわけでうから、さっさと理事会はぬけ、さらにはそのマンションそのものからも足抜けしたほうが、人生前向きなんじゃないかなと私は思うわけです。”私がいないとこのマンションは・・”とか呟くのはいけてない。
大抵の長期政権の理事長さんは、後継の理事会の活動に満足できません。力量面のほか、理事長のカラーが必ず理事会運営には反映されるからで、元とおなじ方向ってのはあり得ないからです。ですから、後継の理事会の開催する総会には顔をださない・・・元理事長が総会屋に化けるのもいけてない・・・のを私は強く薦めています。
言い方悪いけど、自分では後継の育成には失敗したってことです。ずっと理事会をやっているのでなければ、おとなしく去って後は知りませんのほうが、総会屋になったり、治天の君として院政を敷いたりするよりは身の処しかたとして美しい。
できなくても仕方ないよね
さて・・・これやってみればわかりますが、”人材を発掘する”とか”仕組みを構築する”とかは”種まきからのスタート”で1年じゃ絶対無理です。数年は時間をかける覚悟がないのなら無理。でも、理事会とか仕事でもなんでもない場で、そんな能力が発揮できる人がいたとしたら、社会的要請も大きい筈で、果たしてそんな優秀な人が手弁当で理事会をやってくれるかな?とも思うわけです。
都心にある名前をいえばだれでも知っているマンションで、弁護士が無数にお暮しのマンションの規約が、数十年前の太古の化石みたいなまんまってなことは珍しいことではありません。時給何万円の人に、ただで何百時間もかけて規約を書き換えろと命ずることは誰にもできないから。
理事会における方針などの継続性の属人的ではない確保は、できなくても仕方ない、できないのが当たり前と割り切ったほうが吉なんじゃないかな。住民としてはたまたま神が理事長として降臨したら過労死はしないように大事にしたほうがいいかも。
これどうみても”理事”を辞めたことがある人向けだったわなぁ。多分クレドのメインの作者の”湾岸ライフ”さん今超忙しんだけど、そのうち軽くでDMで依頼しておきました。私は理事でないオーナーであった経験が理事になる前にも理事を解脱した後でもないのよね。
!! 重要 !!
本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません。
ご回答ありがとうございます。星川さんの指摘はまさに的確でした。仲間づくりという点を意識した活動はしてきていませんでした。
マンションが抱えるハード面の課題解決にばかり気を取られていて、携わるヒトの意識涵養を課題として捉えていなかったのです。そのため理事たちに向き合う時間も十分ではなかったので、まずはそうした人の意識を変える方向でやれることを考えてみます。
逆走というのは、自分が実施してきた施策とは反対方向という意味に過ぎず、ポジションを決めている私としてはニュートラルな立場はありえません。マンション管理の課題を真剣に考えた方向性でしたが、組合員負担を減らしてほしい人たちからすれば言語道断の改悪に見えるのでしょう。反対する人たちは一様に2年は長すぎるとか意見を述べてました。
私は広報が苦手でマンション内世論喚起を後回しにしていました。「逆走」しないように支持基盤を増やすため、今後は広報にも力を入れたいと思います。
今回の相談でもし自分のやってきた改革を引き継ぎたいなら①理事仲間の意識改革、②逆走しないように自分がやってきた施策の支持基盤を作る、といった取り組みが必要だとわかりました。
ただこれやろうとしたら続投して数年は続ける必要がありそうだから引退できないですね。
引退するなら思いを引き継がない、思いを引き継ぎたいなら、それなりにきちんと仲間づくりと支持基盤づくり、ですね。
この度はお返事をいただきましてありがとうございました。
一度でも複数年とかで理事長やった経験のある人には
共通のお悩みで、ブログにしがいがありました