ある情報誌で、まだ価格の上がっていないエリアの物件に関心が集まり始めているという分析記事を読みました。
筆者もそうかもしれないと思うのですが、それがどれほどなのか、確証をつかむデータはどこにもありません。
●「郊外マンションは安い」は本当か?
「まだ価格の上がっていないエリア」ということにも疑念を持っています。新築マンションの価格は、ご存知のように「土地代+建築費+販売経費+利益」という構造になっています。建築費は大雑把に言えば首都圏のどこでも変わらないので、まだ価格の上がっていないエリア」とは、「土地代がまだ上がっていないエリア」に等しいわけです。
土地代がまだ上がっていないエリアとは郊外のことです。ところが、地価は都心部が高く郊外は安いので、郊外マンションの価格構造で大きなシェアを握るのが建築費ということになります。都心部のマンションが土地代と建築費の原価に占める建築費が50%(土地代50%)であるのに対し、郊外は建築費が70%(土地代30%)なのです。
従って、建築費が東日本大震災以後、大きく高騰したことによって、地価が上がらなかったとしても、郊外マンションの価格は既に上がっているはずです。建築費の高騰がマンション価格に与える影響度は都心部より郊外の方が大きいので、価格上昇率は郊外マンションの方が大きいと考えても理論的にはおかしくありません。
しかし、実際はどうでしょうか?都心部より郊外マンションの価格上昇率は低いのです。理由はこうです。
先行して地価が上がった都心に比べれば、郊外のマンション用地は安く、販売価格の上昇を抑える働きをしたのでしょう。また、建築費も実際は郊外の方が安いという事実があるのです。
郊外は敷地面積が都心より広いケースが多いので施工がしやすいうえに、建築規模も大きいことから割安になるケースが多いからです。
結果的に、郊外マンションの価格上昇率は都心部よりも低いのです。裏付けを探しましょう。
大きな区分ではあるのですが、23区と東京市部、神奈川県、埼玉県、千葉県で価格上昇率をチェックしてみます。(データ出典:不動産経済研究所)
値上り前の2012年と2015年の価格(坪単価)を比較してみましょう。
23区 @263万円→@326万円 値上がり率:24%
東京市部 @191万円→@205万円 値上がり率:7%
神奈川県 @190万円→@228万円 値上がり率:20%
埼玉県 @166万円→@190万円 値上がり率:14%
千葉県 @152万円→@170万円 値上がり率:12%
<首都圏全体@213万円→@257万円 値上がり率:20%>
このデータでもお分かりいただけるように、東京市部は1ケタ台ですが、全域で値上がりしています。このデータを見ると、まだ上がっていないエリアってどこだろうと首をひねらざるを得ません。
実は、筆者が提供する「マンション評価サービス」において年中各地の様々な物件調査をしていると、ときどき値上がりしていない印象の街(駅)もないことはないのです。
しかし、調査を進めると、そのような駅は元々供給例が少ないのでデータ比較がしにくいだけのことと分かって来ます。
つまり、都心部に比べると上昇率は低いが、郊外も既に値上がりしていると認識すべきなのです。もちろん、絶対価格では間違いなく安いのですが。
●郊外でマンション供給が活発になるということは何を意味するのか
値上がり率の低い郊外ですが、今後、用地取得のバトルが激化して土地原価が上がれば、郊外でも価格は一段と上昇するということになります。その方向に向かいつつあるのでしょうか?確証はまだありません。ところで、買い手は現在のマンション市場をどのように捉えているのでしょうか?
冒頭の記述に戻って、割安なエリアに関心を持つ人が増えているという分析が事実なら、郊外も値上がりするに違いないと読み、うかうかしていると、その割安な郊外でも手が届かなくなると考える人が増えているということになるのかもしれません。
割安なエリアに関心を持つ人がどんな勢いで増えているか、筆者の注目点はここにあります。
以前から、地縁性がない人が郊外マンションを検討するに当たって、「土地鑑(鑑は誤字ではありません)がないので立地条件について心配しています」という声はありました。
それが最近増えて来たという印象は全くないだけに、現時点では郊外マンションの注目度が飛躍的に高まり、売れ行きが良くなるという予想は立てにくいのです。
●郊外化の流れは危険信号
今後、郊外で新規のマンション開発が活発化し、売れ行き好調というシグナルが明確になれば、低迷しているマンション市況は勢いを取り戻すかもしれません。しかし、それは同時に危険な予兆でもあるのです。2005年から2008年にかけて価格が急騰し、「ミニバブル」と言われたことがありましたが、その再現は望ましいことではありません。
その頃の身震いする記憶をデータで再現しましょう。2007年上期の価格を前年同期比で比較したもので、「地域別/沿線・駅別価格上昇率トップ20」としてまとめています。
(2007年8月2日、不動産経済研究所が臨時的にレポートした)
この中の「駅別単価上昇率トップ20」にランクインした郊外の駅の第3位は京浜東北線大宮駅で、値上がり率は前年同期比49.6%アップでした。
以下、第5位:西武新宿線久米川駅(47.9%アップ)、第6位:相鉄線鶴ヶ峰駅(45.2%アップ)、第9位:京急線屏風ヶ浦駅(42.4%アップ)、第12位:東海道線平塚駅(39.9%アップ)、第13位:西武新宿線武蔵関(39.3%アップ)、第16位:京王線多摩センター駅(35.7%アップ)などとなっています。
ちなみに、第1位は日比谷線広尾駅で前年同期比123.8%アップ(つまり2.2倍強)でした。スーパー億ションが販売されたために違いない(事実2物件が販売された)と推測はたやすいのですが、それにしてもすごい。
郊外で前年比30%台、40%台の急激な上昇率となった駅が7つもあったということは、改めて驚くべき事実です。
2006年の首都圏全体の価格(坪単価)は@183万円でしたが、翌2007年は同@203万円でした。2008年はさらに上昇して@214万円となり、2009年は僅かに下がって@212万円となったものの、2010年は再び上がって@219万円(これが前回のピーク)となったのです。
2006年から2010年までの5年間で20%の上昇でした。
今回の値上がりも偶然にも同数値となっています。2011年@214万円、2015年@257万円と、5年で20%アップなのですから。
カーブが緩やかになるとしても。今後も値上がり続く可能性は排除できないだけに(事実、2016年上半期は前年同期比9.3%アップ)、買い手にとって悩ましい時期はまだ続きそうです。
●価格上昇は売れ行きの悪化と値引き販売の横行を招く
ところで、前回の急騰局面で、どのようなことになったかを覚えている(知っている)人はどのくらいあるでしょうか?前回は、中小デベロッパーを中心に売れ残った住戸を10%、20%と値引きして処分するという策を採り、それが表面化したために、定価で購入した先行契約者の反感を買うこととなりました。
それらの事実が主に近畿圏のマスコミで取りあげられることとなって、業界を慌てさせました。
今回は、売り出し前の住戸の価格が不透明(売主は隠すことが多い)ので、先行契約者からクレームが来る確率は低いかもしれません。また、中小デベロッパーは、売れ行きの悪化と金融引き締めの影響で倒産し、大手業者の寡占化が進んだこともあって、大騒ぎは起こらないだろうと考えています。
表向き、大手マンションデベロッパーは、契約進捗率(販売スピード)の定価を認めつつも「値引きはしない。じっくり取り組んでいく」と公表しています。
しかし、売れなければ背に腹は代えられないと、いずれは水面下での値引き販売に踏み切るに違いありません。マンション価格は4000万円としても、10%引きなら400万円なので、2年、3年待っても家賃が勿体ないということにはならないはずです。
そんなことが許されない事情がある人はともかく、待ってもよい人は覚悟を決め、値引き販売のチャンスを待つという選択もあるかもしれません。
もっとも、売れ残りの中に気に入る物件、あるいは狙っている物件の中から気に入る住戸が出て来るかは保証の限りではありません。
「買いたいとき、そこが買いどき」でもあるので、株式投資のようにタイミングを見計らってマイホームを買うなどというのは、中々常人にはできないことかとも思います。
そうしてみると、実に悩ましい時期にあるものです。そんな人へ少しでもお役に立てればと、筆者の身も引き締まります。
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