マンション傾斜・杭工事データ偽装事件が世間の耳目を集めたのも今や昔。
この事件の教訓を踏まえ、マンションの品質が向上したのであればいいのだが、これからはもっとヤバくなるかもしれないという話。
【もくじ】
◇傾斜マンションの建設当時と比べ、建築費は最悪のレベル
◇建築費の厳しい環境下でマンションの品質は確保されるか?
◇一級建築士の受験者数が激減中
◇建築業界を志望する人が激減中
◇将来、マンションの品質・安全確保が危うくなる!
◇マン点流!不都合な真実を解説シリーズ
◇おまけ
傾斜マンションの建設当時と比べ、建築費は最悪のレベル
建設技能労働者過不足率(∝人件費)と建設資材物価指数(∝物件費)と建築費指数(∝建築費)の推移を示したのが次のグラフ。傾斜マンションの建設当時、「建設技能労働者過不足率」は高く、「建設資材物価指数」と「建築費指数」は共に上昇基調にあったことが分かる。
現在は、「建設技能労働者過不足率」こそやや改善しているものの、「建設資材物価指数」と「建築費指数」は共に最悪のレベルが続いている。
※各データには、次の資料を使用した。
- ◇建設技能労働者過不足率(全国):「建設労働需給調査(国土交通省)」のうち、建設技能労働者過不足率の推移(8職種計・全国)
- ◇建設資材物価指数(全国):「資材物価指数(建設物価調査会)」のうち、建築部門(全国平均)
- ◇建築費指数(東京):「建築費指数(建設物価調査会)」のうち、東京・RC造・集合住宅の工事原価
建築費の厳しい環境下でマンションの品質は確保されるか?
現在は、傾斜マンションの建設当時と比べると、マンションの着工戸数は少ないものの、「建築費指数」が異常なほどに上昇している(次図)。請負契約締結後に建築費が大幅に上昇し、コストダウンに工夫の余地がなくなると、施工業者は自らの利益が低下することに甘んずるか、マンションの質を下げて自らの利益を確保するか、あるいはその両者の合わせ技に走るしかなくなる。
また、建設労働者が十分に確保できなくなると、工期の遅れを取り戻すために余計なコストがかかるだけでなく、仕事が雑にならざるを得ない。
だから、傾斜マンション建設当時よりも、建築費の厳しい環境下で建設が進むマンションの品質が確保されているか気になるのである。
ただ、もっとヤバイのは、これから建築を担っていく若い人材が急激に減少していることだ。
一級建築士の受験者数が激減中
1級建築士の受験者数・合格者数・合格率の推移をグラフにしてみた。1級建築士の受験者数は、1999年の57,431人をピークに減少傾向にある。
特に、2003年までは約5万人で推移していた受験者数(1次試験)は、2009年以降急激に減少している。
合格率は、2000年代の変動時期を例外とすれば、概ね12%前後で推移している。
ということは、2009年以降、新たに生まれる一級建築士の数が急激に減少していることを意味している。
なぜ、一級建築士の数が急激に減少しているのか?
少子高齢化の影響で 一級建築士を受験する絶対人口そのものが減少しているからなのか? いや、それだけが原因ではない。
建築業界を志望する人が激減中
建築技術教育普及センターの「一級建築士試験データ」によれば、2015年の合格者の平均年齢は32.5歳となっている。そこで、一級建築士の受験者数を全国の33歳の人口(総務省統計局データ)で割った値をグラフにしてみた(次図)。
「33歳人口当たりの一級建築士受験者数の割合」が減少しているということは、一級建築士を必要とする仕事に関わっている人の割合が減少していることを意味している。
もっと端的にいえば、建築業界を志望する人が減ってきているということだ。
将来、マンションの品質・安全確保が危うくなる!
一級建築士の合格者の平均年齢は32.5歳だから、大学を卒業して約10年後に取得していることになる。3Kを嫌う若者が建築業界よりもIT業界に向かう傾向は1990年頃から始まっていたので、10年後の2000年頃から1級建築士の受験者数が減少し始めた時期と符合する。
2005年11月に発覚した構造計算書偽造事件(姉葉事件)が、建築系の学部を志望する学生の減少が加速。
熟年の建築技術者が引退し、人材不足、職人不足、資材高騰のなかで、復興事業や2020年東京オリンピックに向けた建設工事など、建設業界は疲弊している(傾斜マンション・杭工事データ偽装問題とは何だったのか?)。
昨年のマンション傾斜・杭工事データ偽装事件によって、学生の建築離れに拍車がかかるようだと、将来、マンションの品質・安全確保が困難になる。
マン点流!不都合な真実を解説シリーズ
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