このブログは、マンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しようというものです・・・原則として毎月5と10の日に投稿しています
サンドイッチされた住戸(=中住戸)より角(端)住戸の方が人気は高い。これが一般的です。マンション業者の多くは、角には広く魅力ある間取りプランを配置します。
もちろん、価格も高くします。単純に面積に比例して高いだけでなく、単価も高くします。それでも、角住戸は真っ先に売れてしまうことが少なくありません。角住戸でなければ買わないと断言する買い手さんも多いのです。
それほどの人気の角部屋ばかりになっている物件があります。今日は、その問題点について述べることにします。
●1フロアをどう切るかで角住戸の数が決まる
横長の長方形の紙を想像してみてください。これを縦3つに切ったら中部屋1つと角部屋2つになりますが、二つに切れば二つとも角部屋となりますね。では、次に真四角の紙を、田の字ように切るとどうでしょうか?真ん中の交差した部分にエレベーターとホールができるとして、住戸は4つとも角部屋となります。東南の角部屋、西南の角部屋、北西の角部屋、北東の角部屋ができるわけです。
しかし、1フロアの縦の長さが10メートルで横の長さが60メートルの形になっていたらどうでしょうか?板蒲鉾や羊かんをイメージしてみてください。
この形状では、平均75㎡くらいにするとしたら、間口は7.5メートル必要ですから、8つに割るしかありません。角部屋が二つ、中部屋6つという構成になりますね。これが、俗に言う「羊羹切り」の設計です。
●角部屋比率が高いマンションは小型物件である
敷地が広ければ、1フロア当たりの面積も小さくありませんから、全戸角部屋というわけにはいかなくなります。逆に、1フロア当たりの住戸数が少ないマンションは敷地の狭い物件ということになります。敷地が狭ければ、容積率(敷地面積の何倍まで建てて良いという制限)が大きくて高層にできる場所であったとしても、せいぜい14階建てですから、合計の住戸数は高が知れています。
せいぜい30戸とか40戸程度の小型マンションになるのです。
●小型マンションにはデメリットが多い
地方都市はともかく、首都圏では1,000戸を優に超すメガマンションも少なくありません。バブル経済崩壊後、工場や倉庫、社宅、運動場、学校など大型の土地を手放す企業・団体が増えたせいです。開発業者がマンション用地を求めてトコロ天式に郊外に押し出される格好になった1980年代から、都心部の優良な土地が取得できる2000年代となり、いわゆる「都心回帰現象」が起こりました。そうして、首都圏では、東京都区部のシェアが半分を占める時代になりました。
言うまでもなく、需要も郊外から都心へ戻りました。
かつて職場まで通勤時間90分を要するような場所のマンションと大差ない価格で、30分以内の場所に建てられるようになったのですから、都区部のマンション需要が増えるのも道理です。
もっとも、2010年以降は企業・団体の放出する土地が少なくなったと言われ、再び郊外に向かうという傾向も窺えます。
適地が減ってマンション用地の争奪戦が激しくなると、競争に負けた企業は売り上げ確保のために仕方なく条件の劣る土地も取得するようになります。都心の小ぶりの土地も開発されて行くのです。
小ぶりの土地は、スケールメリットがないため、大型物件に比べて魅力に欠ける物件になりがちです。
大型マンションに見られる「キッズルーム」「ゲストルーム」「コミュニティルーム」「防災倉庫」といった共用施設も簡単には設けることができません。売り面積が減ってしまい、割高になるからです。
管理体制も24時間の有人管理やコンシェルジュを置くなどということはできなくなって、極端には管理人不在マンションとなってしまいます。管理人不在マンションは長期的に見ると、資産価値の低下を促進してしまう恐れがあるのです。
小型マンションは、小型というだけで価値が低く見られがちです。そこで、小型マンションは外観デザインに凝り、個性的で存在感のある建物にすることが求められます。その工夫が足りないと、小型マンションは貧相になってしまうからです。
マンションだらけの東京では、周辺の建物の中に埋没してしまうような平凡なマンションであっては高い価値を持ちません。
一時、デザイナーズマンションという触れ込みの、かつ優れたデザインの建物が流行しましたが、最近は影を潜めてしまったようです。
また、小型マンションは建築コストも割高になるので、よほど安く土地を取得しないと物件価値の割に高い価格で販売しなければならなくなります。さらに、工事高が小さいと大手ゼネコンが受注してくれないため、買い手が知らないゼネコンを起用するしかなくなり、買い手に不安をもたらします。
例を挙げればキリがないのですが、小型マンションのデメリットは多数にのぼるのです。
●ホテルライクな内廊下の甘い誘いに注意
何かとハンディキャップを背負ったマンションですが、角住戸比率が高いことに加えて内廊下という付加価値もあります。内廊下式の場合は共用廊下にエアコンが設置され、廊下に面して寝室の窓が設けられることもないので、プライバシー性の高い住戸となるのです。
しかしながら、1フロアに3戸とか4戸しかない小型マンションの内廊下は狭くて豪華さからは遠くなりがちです。
広告では「ホテル並みの内廊下方式を採用」などと表現しています。ホテル並みと聞くと、一瞬「シティホテルの少し暗くて、おごそかな雰囲気を漂わせるフカフカ絨毯張りの廊下」を想像する人が多いと思います。
チェックインした直後、ポーターが洒落た専用台車にスーツケースなどを積んで部屋まで案内してもらったときの光景を思い出したりする人もあるでしょう。
マンションの内廊下が、高級ホテル並みなのはごく一部に過ぎません。「ホテル並み」に誇張はありませんし、買い手が勝手に想像しているに過ぎませんが、豪華な絨毯張りなどではないのです。
高級とは言えないモザイクのタイルカーペット、壁もただの無機質なビニールクロス張りというパターンも多いのです。同じなのは薄暗さだけかもしれません。
●モデルルームの内装と角部屋という魅力だけに目を奪われてはならない
マンション購入を検討する際に、買い手の嵌まる罠がモデルルームの仕掛けです。そこに角部屋の魅力が加わると、中には冷静さを失う人がいても不思議ではありません。しかし、上述のように角部屋の魅力はあっても、小型マンション全体で見ると決して魅力的でないものが多いのです。木を見て森を見ないことにならないようにしたいですね。
もちろん、大型マンションは嫌いだという人もあるでしょうし、割高な小型マンションでも例えば閑静な住宅街の一角にあるなど、立地条件によっては大型マンションにない魅力を備えた物件もあるのは事実です。
ただ、「全戸角部屋」や「角部屋率90%」などと謳い上げている物件の多くは、利便性は高いが喧騒の大通りに建った「ペンシル型」の貧相な物が多いということを肝に銘じておかなければなりません。
●価格が高いことも角部屋比率の高いマンションの特徴
最後に付け加えると、角部屋比率が80%以上などという小型の高層マンションの多くは、先に述べた通り、建築コストが高いので非常にラッキーな安い土地を取得できた場合を除くと、大抵は周辺のマンションより割高な価格で分譲されるケースが多いのです。詳しくは述べませんが、角部屋の価値、内廊下のメリットなどを加味しても割高と判定しなければならないケースが多いのです。
何もかも条件が揃ったマンションなどはありませんが、立地条件と建物価値、ブランド力など、複数要素のメリットとデメリット、あるいはプラスとマイナスを天秤にかけて、価格が適正かどうか、髙いが買う価値があるのかどうか、慎重に判断をしていくことが大事です。
・・・・・・・・・・・・・今日はここまでです。
◆三井健太のマンション相談室
三井健太はマンション研究家。マンション業界OBとして業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しています。また、個別の物件の価値判断やご購入における諸問題について個別のご相談を承っております。営業担当者には聞きづらいこと、聞いても立場の違いから客観的で信用できる回答を期待しにくいことなどに関しても秘密厳守でお答えしています。
別サイトのブログ「マンション購入を考える」も是非お目通し下さい。500本以上の記事があります。
小型マンションにはデメリットが多いとのお話ですが、私は今の小型マンション(3階建て、23戸)に満足しています。
1.住民は顔見知りが多く、総会もまとまりやすい。
2.角住戸で、戸建てに近い感覚でありながら、セキュリティ的に安心できる。
3.低層なので地震時の心配が小さい
唯一の不満は、役員が早く回ってくることぐらいかな。