このブログは、マンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しようというものです・・・原則として毎月5と10の日に投稿しています
ときどき聞く「新築プレミアム」という言葉が独り歩きし、間違った認識につながっていることに気付いたので、敢えてタイトルの記事を書くことにしました。
新築マンションは購入した途端に20%値下がりするということを語る人がいます。その根拠は、分譲業者の利益分が中古市場では剥がれ落ちるからだというのです。
そうでない適正な解説をしている人も勿論ありますが、前者の方は全く不動産・マンション価格の成り立ちを知らない人が知ったかぶりをして、または、そのインターネット上の記述をコピーして書いているとしか思えない解説です。
新築プレミアムの言葉使い(定義)の論争は避けますが、誤解を与えることは避けてほしいと願うのみです。
今日は新築マンションが買ってから1年もしないうちに10%、2年経ったら20%も高値がついたという事実があることをお伝えしようと思います。
さて、ここで具体の物件名を挙げることは、個人情報に関わるので伏せなければなりませんが、筆者には新築・中古を問わず「物件評価」のご依頼が連日届くので、中古のご依頼の中に「竣工から1年程度」の物件で「プレミアム」のついたものがある事実を知るのです。
また、建物の完工が近い物件、つまり購入者への引き渡しが済んだか済まないかくらいのタイミングで売り物件として中古市場に出ている事例から、分譲価格を大きく超える値が付けられていることを知ることもできます。
いずれも成約価格ではないものの、売り出し価格の5%ダウン辺りで成約するとするとしても、購入価格に+5%とか+10%とかの高値になっていることが推定できるのです。
これは、契約時点から竣工時点までに1年以上のタイムラグがあり、その間で相場が急変(急騰)した都心の一部地域での現象に過ぎませんが、ここ1年くらいの間には多数の実例が生まれました。
引渡しを受けて直ぐに転売する人は、キャピタルゲイン狙いの投資家なのでしょうか。特定の物件では、一斉に複数(10件以上)の売り出しが行われていたりします。
いずれにせよ、建物竣工時に10%なり20%なりに高くなった物件は、1年前に10%か20%安く取得できたことになります。しかも、10%程度、多くても20%以内の手付金だけで実質的に取得できるのです。残金は一瞬だけ用意する必要はあるものの、手付金だけで、転売して利益を得ることができるわけです。
5000万円のマンションを500万円の手付金だけで権利を確保し、1年後に6000万円で売却に成功したとしたら、こんな高利回りの投資はないはずです。譲渡所得税や不動産取得税、登記料、修繕積立金等の経費を計算しても悪くない投資です。まあ、そこまで値上がりしたケースは限られますが、少なくはないのです。
中古取引では1年以上先の残金支払いというケースはないので、これこそが新築プレミアムと言えるものです。
一方、1年かそこら住んで売却する人は、契約時点からの時間経過は2年以上かもしれません。その間に相場が急騰したので利益確保のために売るのでしょうか?多分そうではなく、想定外の事情が起こったか、転勤などの理由で売ることにしたのでしょう。
意図したかどうかは別として、契約金額から20%も上乗せして売ることができたのは、相場が上昇したからです。不動産の値上がり益が得られるかどうかは、多分にタイミングの問題であり、新築で取得したか中古で取得したかを問わず、相場が上がれば所有マンションも値上がりします。
相場が上がるのは新築に限りません。中古価格は新築価格に連動します。新築志向が強い日本人は、先ず新築を狙いますが、その価格が上がると中古の割安感が強まり、中古需要が増えます。その結果、中古も値上がりして行くのです。
では、新築マンションの価格はなぜ上がるのでしょうか? 分譲主が意図的に上げるのでしょうか? そもそも、分譲価格はどのように決めているのでしょうか?
基本的には、市場調査によって売れそうな価格を先ず把握し、逆算方式で土地の取得価格を決め、買収にかかります。買収ができれば、採算をはじいた計画図をベースにしながら設計図を作製します。建築許可がおりたら、複数のゼネコンを指名して見積りを取り、その中から施工会社を決めます。
ところが、土地代は取得競争の結果、計画値より高値になることが多いのです。建築費にしても計画段階の予算で請け負ってくれるゼネコンが必ず見つかる保証はありません。
土地を購入してから建築許可がおりるまで、大規模マンションは2年以上、比較的規模の小さいマンションでも1年はかかります。この間に情勢が変わり、見積り額が予算の30%も40%も高く出て来ることがあります。
土地代も建築費も高くなれば、当初の予定分譲価格で販売することが困難になります。
仕方なく計画を上回る価格で売り出します。利益率に十分な余裕があるわけではないからです。
なぜ土地代が上がったのでしょうか?なぜ建築費が上がったのでしょうか?様々な原因と背景がありますが、一言で言えば、適地がなくなっているため争奪戦が激化し、入札価格が高くなってしまうのです。建築費の上昇は、2011年3月の東日本大震災の復興関連工事と、2012年以降のアベノミクスによる公共工事の増加によります。
高値で売り出してみたところ、意外にも早期完売ができてしまいました。市場調査の結果を裏切る成果を得たのです。この嬉しい誤算にも理由と背景があるのですが、長くなるので割愛します。
とにかく、好結果に意を強くした事業者(デベロッパー)は、次から次へと高値で売り出し、そして好結果を得て行きました。他社がそうなら、うちも成功するに違いないと、業界あげて強気に販売を進めます。ほどなく、調査機関がマンション価格の上昇トレンドを発表します。それは、新聞や週刊誌が取り上げ、「マンション販売好調。マンション価格高騰」などという見出しとなり、結果的に買い手を煽る役割を担います。つまり、買い手の購買行動をマスコミが後押しするのです。
高値でも売れると確信した業界は、多少の心配はしながらも高い土地を買い、建築費も一向に下がらないので仕方なく高値で発注し、高値で売り出しているのです。
しかし、住宅ローン金利の低下と、ローン控除や住宅資金に限った贈与税の特例などによって購買力が押し上げられたとはいえ、販売価格が上がり過ぎればやがて限界が来ます。2015年に改訂された相続税の強化策が、タワーマンションの上階が有利との触れ込みから、富裕層によって高値でも買われて行ったことに、中国人による爆買いなども重なって、ますます強気になった一部の業者が分譲途中から値上げを始めるに及んで、まさに「バブル現象」の様相をもたらしたのです。
統計を見ると、2010年~2012年の安定期の価格と2015年~2016年の価格を首都圏全体で比べると坪単価で20%も上昇しました。無論、途中の2013年、2014年と漸次上昇して来た結果です。
従って、2010~2012年に購入した人は、2015年~2016年に20%高の新築価格を見て、早くに決断して良かったとなり、投資家は読みが当たったと喜んだというわけです。
「新築マンションを買うとプレミアムが付く」。これを新築プレミアムと言っているのではないことは筆者も知っていますが、この時期で使う言葉としてなら、「新築プレミアム」はふさわしい言葉です。
しかし、やがて逆の時期もやって来ます。買ったマンションが契約後1年以上を経て引き渡しのときが来たら、周囲の新規発売マンションの価格は10%も20%も下がっていたということが起こるかもしれません。
マンション・不動産価格は、個別要因が強く出るものです。つまり、一律に価格が上がるわけでも下がるわけでもないのです。平均20%上がったというとき、その中には0%以下もあり、30%以上もあるのです。勿論、購入時から2年しか経たないのに30%も下がってしまうような物件もあいます。
この先、いついかなる時も値崩れしないような価値ある物件を、理想的には行かないかもしれませんが、極力そうならない物件を選択したいものですね。
・・・・・・・・・・・・・今日はここまでです。
◆三井健太のマンション相談室
三井健太はマンション研究家。マンション業界OBとして業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しています。また、個別の物件の価値判断やご購入における諸問題について個別のご相談を承っております。営業担当者には聞きづらいこと、聞いても立場の違いから客観的で信用できる回答を期待しにくいことなどに関しても秘密厳守でお答えしています。
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