このブログは、マンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しようというものです・・・原則として毎月5と10の日に投稿しています
頭金ゼロでも住宅を購入することができることを知った若年世帯が、登記料などの諸費用だけでマンション購入に走った時代がありました。当時の記憶をたどると低額物件に限れば、20%か30%くらいはあったように思います。
現在、頭金ゼロで購入する人はどのくらいあるのか、統計数字を見る機会に恵まれませんが、低額物件でも10%もないのではないでしょうか?
筆者に来るご相談の中に頭金ゼロというケースはたまに見ますが、その半分は低金利の住宅ローンを活用しない手はないとか、住宅ローン控除で所得税を大幅に減らしたいという狙いによるものです。
頭金(貯金)を他で運用したい人なのです。
「頭金はどのくらい必要ですか」というお尋ねは、筆者には来ませんが、インターネット上の情報を見ると、殆どの識者が20%以上と語っているようで、そのガイドラインを信じて頭金をせっせと貯めている購入予備軍(潜在需要)が沢山あるのでしょう。
そんな中、ここ数年の価格急騰を恨む人も少なくないような気がします。頭金を貯めている間にマンション価格は、貯蓄額を大幅に上回る値上がりとなったからです。
3年前の新築マンション価格は、例えば埼玉県なら70㎡を3400万円で購入することができましたが、現状では4000万円になってしまったので、この間に600万円の頭金を作ったとしても、借入額は減らないことになります。
幸い住宅ローンの金利が3年前より一段と下がったので、月々の返済額は減ったでしょうが、「借金の額」を少なくしたいという思惑は完全に外れたことになるのです。
「こんなことなら、3年前に買っておけばよかった」と思った人もあったに違いありません。
そう言えば、誰かがこんなことを言っていました。「頭金を貯める行為は、新幹線を自転車で追いかけるようなものだ」と。なるほど、最近数年の市場においては、言い得て妙な言葉です。
世の中には貯蓄下手な人があるようです。ただ同然の低家賃で社宅に住んでいるのに、なぜか貯金が少ないという人にお目にかかったことがありました。賃金水準が高いと言われる業界の大手企業に勤務する人の中にも、意外なほど貯蓄の少ない人があります。
単なる浪費家なのか、趣味にお金を使い過ぎるのか、その原因を他人が知るのは難しいですが、ともかく「貯蓄下手」な人は少なくないのです。
●住宅ローンは強制貯蓄である
頭金を貯めるスピードが遅い人にも、買いたいと思う時期がやって来ます。ライフステージの転換期に住み替えを検討し、賃貸より購入した方が得らしいと気付き、少し無理してでも家族のために買おうと決断する父・夫があります。そんなとき、無理をするかどうかはさておき、思い切って購入する道を選択するようお勧めしたいと考えます。
住宅ローンの返済は貯蓄そのもの、まさに強制貯金のようなものだからです。
その理由を説明しましょう。
その昔、住宅ローンは元利を合計すると借りた金額の3倍も払うことになると言われていた時期がありました。金利が高かったからです。
バブル末期1990年の住宅ローン金利(銀行)8.5%でした。この頃に1000万円を35年返済で借りると、毎月の返済額は74,686円、35年の返済総額は約3136万円となります。3倍以上です。
これに対し、直近の金利は35年固定で1.2%なので、毎月返済額は29,170円、35年合計で1225万円に過ぎません。
さて、注目点は元金の減り方にあります。借りてから半分を過ぎた辺り、18年後の元金残高の差を比べてみます。
8.5%のローンの場合、18年後の残債は約800万円ですが、1.2%の方は約538万円です。
前者は18年間払い続けたにも関わらず、20%しか減っていないのに対し、後者は46%も減るという大差がつくのです。
要するに、高金利時代は返しても返しても大半が金利に消え、元金中々減らないのですが、現状の低金利の下では、返済金の大半は元金に回るので、ぐんぐん減って行くのです。
ちなみに、返済金の元金と金利の内訳をみておきましょう。8.5%の場合、初回返済月は74,686円のうち元金が僅か3,853円、金利が70,833円にもなっています。18年後でも元金が17,574円、金利は57,112円もあるのです。
これに対し、1.2%のローンでは、初回が元利合計29,170円のうち、元金19,170円、金利は僅か10,000円となります。18年後は元金23,766円、金利5,404円と、金利は一段と少なくなるのです。
全額借金で購入した場合、100のマンションも正味資産としてはゼロですが、借金が半分に減れば正味資産も50まで増加するわけです。これは返済金のうちの元金部分が不動産という資産に置き換わったことを意味します。
借金は嫌でも返さなくてはならないので、貯蓄を強制されたようなものです。そうして、いつの間にか大きな額の貯蓄残高を持つことになるのです。ただし、簡単には解約ができない(換金ができない)貯蓄というわけです。
このような絶大な効果があるので、貯蓄下手かどうかを問わず、マンションを買うのは資産形成の観点から意義あることになるのです。
●増える貯蓄か元本割れしてしまう貯蓄か、それが問題
毎月の返済金の大半が不動産に形を換えた貯蓄として残る。いつの間にか30、50と積み立て貯金のように増えて行くことがお分かりいただけたとして、疑問を感じた読者もあると思います。そう、この貯蓄は元本保証型ではないのです。お分かりのように、マンションという不動産は選択を誤れば大きく増えるものもある代わりに、思ったほど増えないものもあるという現実があります。
18年返済して来た結果、貯蓄はゼロどころか、マイナスになってしまうこともないわけでなく、逆に60にも70にもなることがあるということです。、
資産価値が100だったマンションが18年後に50になってしまうか、100以上になっているかによって、換金したときの銀行清算後に手にする額、すなわち正味資産の額がまるで違ったものになるのです。
マイナスもあり得るのは、ローン残債以上の額で売れないものがあるからです。借金がなくなってしまえば、マイナスはないわけですが、残債がある段階で買い替えの必要が出てきたとき、売るに売れない状況になるかもしれないというわけです。
このようなことにならないようにするには、購入する物件の将来価値を読む目が重要と言えます。
今日は、住宅ローンの返済は強制貯金のようなものなので、頭金を貯めてから買うか、頭金がゼロでも買った方が良いかの答えになるお話ができたと思います。
最終的には物件選びがカギを握ることになるのですが、先ずは積極的に「購入」の方向で行動なさることを、特に貯蓄下手な人にお勧めしたいと思います。
※差し上げています。「初めてのマンション見学ツール集」
内容:見学用セルフチェックリスト/モデルルームでの質問リスト/中古マンション室内観察ポイント/共用部のチェックポイント/パンフレットや広告に出て来る不動産・マンション用語集など・・・・・・・・・・・・・今日はここまでです。
◆三井健太のマンション相談室
三井健太はマンション研究家。マンション業界OBとして業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介しています。また、個別の物件の価値判断やご購入における諸問題について個別のご相談を承っております。営業担当者には聞きづらいこと、聞いても立場の違いから客観的で信用できる回答を期待しにくいことなどに関しても秘密厳守でお答えしています。
別サイトのブログ「マンション購入を考える」も是非お目通し下さい。500本以上の記事があります。
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