大規模マンションには2つの顔があります。
「都市化による匿名性」と「同じ居住空間と地域を選んだ同属性/仲間意識」
この2つの要素のうち従来のタワーマンションは、前者の匿名性をウリにしていたと考えます。そう少し前までのキラーワード「ホテルライク」です。ホテルは特に誰と知り合うこともなく、ただただ利便と機能の建物です。住宅は完全に匿名というわけではないのですが、造りとしてそちらに近いよ、というのが消費者に受けていたのです。
たしか高校で習ったのですが、社会学者フェルディナント・テンニースは「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」という2つの概念を提唱しました。前者は血縁地縁で後者は会社組織のような利益共有集団のことです。そして、社会は進展するとともにゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ移行していくと唱えました。
マンションというものは、そもそも都市化の進展と密接な関わりがありますから、ホテルライク=ゲゼルシャフトへの移行は当然のことです。区分所有マンションを購入すると問答無用で入ることになる共有資産を管理する管理組合はもちろんゲゼルシャフトですし、都市生活の匿名性を期待できるホテルライクなタワーマンションはゲゼルシャフト移行への最先端だったといえます。
しかし、最近のマンションがゲマインシャフト化しているとの指摘がマンションポエムコラムの大山さんが指摘されていました。
柏の物件なんだけど「もっと、ずっと、みんなで楽しく。一人では解決できない悩みだって誰かとシェアすればすっとうまくいくかもしれない」っていうマンションポエムとともに描かれているこの「コミュニティ」っぷりすごい(モデルみんな白人)。マンションはゲマインシャフトに向かっているのか。 pic.twitter.com/KZGL0jsvp1
— 大山 顕 (@sohsai) March 26, 2017
まだ誰が入居するか分からないマンションが「コミュニティ」を売りにするのすごいし、マンションにおける「悩み」のほとんどってむしろ「みんな」にあるんじゃないかと思うし、コミュニケーションをそつなくこなせる人間しかお呼びじゃない感じとか、全体的に地獄感すごい(個人の感想です)。
— 大山 顕 (@sohsai) 2017年3月26日
そうなのです!というか最近の都内の大規模マンションにおいてですら「ホテルライク」という言葉が使われることが少なくなってきています。代わりに出てきた言葉は「コミュニティ」です。そう、新築マンションのキャッチコピーはゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ急速に逆行しているのです。
僕はこの現象を震災後の日本人意識の変化に求めることができると考えます。震災後の日本人は防災意識の高まりと同時に、人とのコミュニティを求める人が増えたという調査結果が出ています。
出典:震災5年 国民と被災地の意識 NHK放送文化研究所
この流れを敏感に感じ取ったのが震災後のタワーマンションでした。震災後最初に新規売出しとなった湾岸タワーは「プラウドタワー東雲キャナルコート」でしたが、こちらのマンションはウリとしてコミュニティを全面に出しました。「やきそば」と書かれた屋台の絵が販促パンフに載って、祭りができます!というのをウリにした事例ははじめてかもしれません。出典:プラウドタワー東雲キャナルコート販促パンフより
都市型生活に祭りは不要ですからね…震災後の日本人は明らかに近所の人との繋がり・絆を求めていました。結果的に、プラウドタワー東雲キャナルコートは大逆風の中セールス的に大成功を収めます。コミュニティをもっと大胆に打ち出したのは、ほどなくして分譲開始したタワーマンション、「パークタワー東雲」でした。
“あちこちで挨拶が産まれ、会話が絆へと育っていく
そんな「自然と育まれる交流」をデザイン”
上記は、16号線沿いのマンションではありません。江東区東雲のタワーマンションのキャッチコピーです。このマンションは、ハードウェアを整備するだけでなく、「アートライフアカデミー」というマンション内教室を整備しました。
上記2点画像出典:パークタワー東雲販促パンフより
教室に参加するうちに、ご近所とのつながりが産まれますよ、ということですね。初期費用は売主持ちという企画でした。この流れはSKYZやキャピタルゲートプレイスザ・タワーといったとことに更に拡大します。SKYZはパークタワー東雲より大規模に、自然プログラムを中心として、キャピタルゲートプレイスは銀座から講師を招くなど立地特性にあった教室プログラムが組まれていました。
出典:SKYZ Tower&Garden販促パンフより
ただ、湾岸物件においてコミュニティ重視への動きが目立つとは言え、震災後に全面的に転向があったわけではありません。こうしたコミュニティ重視は三井と野村物件がメインになっています。面白いことに、SKYZと同時期に発売されていた「ブリリア有明シティタワー」はこうしたコミュニティを形成するための仕掛けも、教室プログラムなども用意されませんでした(ただし共用施設の造りとしては若干のコミュニティ強化は従来タワーより図られています)。東京建物と住友不動産は、三井野村と違い震災前とあまり変わらないスタンスでタワーマンションを販売しています。特に住友不動産が湾岸で売り出しているドゥ・トゥールやシティタワーズ東京ベイにはこうしたコミュニティという言葉は殆ど出てきません。両マンション企画とも極端に「ホテルライク」であります。
今後、湾岸タワーマンション市場は「コミュニティ」=ゲマインシャフト重視と「ホテルライク」=ゲゼルシャフト重視のコンセプト2極化が進んでいくでしょう。東京ベイトリプルタワーは、なんと有明の従来型タワーマンションに会った要素を、近隣商業施設があるからという理由でバッサリ削ってしまいました。
出典:東京ベイトリプルタワー公式Webサイトより
一方で「パークタワー晴海」のように、従来より更に一歩踏み込んでファミリー層向け・コミュニティ重視にコンセプトを振り切ったマンションも登場しています。2017年GWから両タワーマンションが発売されますが、両極端なコンセプトを持つタワーがガチンコ対決するという面白い構図でして、マンション好きにはたまらないですね。
ゲマインシャフトから、ゲゼルシャフトへ。そしてゲノッセンシャフトへ、ですかね。
パークタワー晴海はコミュニティ重視に振り切ったけど、
上位カースト専業主婦マンションだから、
コミュニティの究極形態としてコミュニティの死を招くと思います。
この現象は、震災の影響よりも年齢層の影響が大きいと思います。それは、集団イジメが無かった世代(団塊の世代~50歳代)と集団イジメがあった世代(45歳以下)です。
集団イジメが無かった世代にとっては、普通に友達が居るので、近所付き合いは不要です。一方、集団イジメが常態化した世代では、普通の友達が居ません。(居ても仮面友達)彼らにとっては、学校の友達はリスクでしかありません。従って、赤の他人であるネットワーカーの方がより親密です。
そういう世代が大人になって、マンションを買う段階になると、安全な赤の他人である近所付き合いに、学校で失われたコミュニティーを求めるのでしょう。
彼らにとって、ゲマインシャフトを求めるエネルギーは、親族(学校の信奉者)や学校の友達には向かいません。赤の他人こそが、その対象なのです。
団塊の世代~50代まで集団イジメが無かったというのは驚きです。
どこにそういうデータがあるのでしょうか。