マンション大規模修繕は素人によくわからない世界ですが、大きなお金が動きます。そしてマンションはどれ一つとして同じモノはありませんし、劣化具合も様々なので一物一価に近いものがあります。一般的に大規模修繕工事は利益率が高い工事ということもあり、特に大規模(それこそ800戸〜規模になると数億円〜20億円という規模になります)になると、素人が理解できる範囲を超えることが多いことになります。
当然ですが、理事会の人もほとんどは建設系のお仕事をしているわけではないので、棟内に玄人がいないか呼びかけることになります。これを悪用するのがいわゆる「不適切コンサル」という問題です。
- 大規模修繕工事がそろそろ始まる頃に、マンション修繕に係る業者が一部屋を購入する。
- ほどなくして、大規模修繕検討委員会などがマンションの中に立ち上がる
- 経営者や従業員が自分の素性を明らかにせずに“私は玄人だからお役に立てる”と立候補し、修繕検討の委員長や理事長のポストを占めて、工事を発注する権利を確保する
- その後工事を差配して利益を得る
- 大規模修繕が終わったら売り、次の大規模修繕が起こりそうなマンションの一室を購入する(以降繰り返し)
ここで特に私が問題だと感じているのは、このような手口に対して一般の区分所有者がほとんど無力だということです。
理事会や修繕委員会に入り込まれてしまうと、その影響力を排除することは極めて困難になります。
実は私の近所でもこれに似たような事例が起きたと聞いて、対策を考えることになりました。
では、どうすれば?
実は、この手の”プロ”たちの侵入を防ぐ方法があります。それは、大規模修繕委員会の運営細則を、あらかじめしっかりと整備しておくことです。不適切コンサルのやり口はわかっていますから、このような事態を防ぐため、運営細則のひな形を作成してみました。ポイントは以下の3点です。
第一に、委員の資格要件を厳格に定めること。特に重要な実居住要件や、工事関係者の排除規定を明確に定めます。
第二に、利益相反行為の防止。委員就任時の誓約書提出を義務付け、定期的な利害関係のチェックを行います。
第三に、工事業者との接触ルールの明確化。必ず複数名での対応、記録の保持、情報共有の徹底を図ります。
この三点さえ細則でカバーしておけば、かなりの割合で防ぐことができるでしょう!「でも、うちはもう委員会が発足してしまっています…」
その場合でも、理事会に意見書を上げて、総会で運営細則を後追いでも可決してしまえば良いのです。むしろ、不適切な委員がいることが疑われる場合は、このような細則の整備は急務と言えます。理事会や管理組合の運営は、やはり「事前の備え」が重要です。特に大規模修繕のような大きな工事では、工事が始まってからでは手遅れになることが多いのです。
今回ご紹介した運営細則は、決して完璧なものではありません。
しかし、少なくとも悪意を持って近づいてくる業者から、マンションを守る「最低限の砦」にはなるはずです。もし同種の大規模修繕に関わる運営細則がないのであれば、理事会に提案して総会での成立を目指しましょう!
みなさんのマンションは、大規模修繕に向けた「備え」はできていますか?
※東京湾岸ライフ中の人は、マンション管理士ではありませんので、実運用についてはご自身の理事会やマンション管理士の先生とご相談してください。
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◯◯マンション 大規模修繕委員会運営細則
第1章 総則
第1条(目的)
本細則は、◯◯マンション(以下「当マンション」という)の大規模修繕工事の適正かつ公正な実施を確保するため、大規模修繕委員会(以下「委員会」という)の運営および委員の資格要件等について定めることを目的とする。第2条(委員会の設置)
- 理事会は、大規模修繕工事の実施に先立ち、委員会を設置する。
- 委員会は理事会の諮問機関とし、最終的な業者選定・契約締結は理事会および総会の議決による。
- 委員会の設置は、理事会の決議を経て、総会の承認を得るものとする。
第2章 委員会の構成
第3条(委員の構成)
- 委員会は以下の構成とする:
(1) 一般委員(区分所有者から選出)
(2) 専門委員(建築・設備等の専門知識を有する区分所有者から選出)
(3) 外部専門家(理事会が選定する第三者の専門家) - 委員定数は以下の通りとする:
(1) 一般委員:10名以内
(2) 専門委員:3名以内
(3) 外部専門家:2名以内 - 理事会との連絡体制を円滑にするため、理事会は理事または監事の中から1名以上を一般委員として委嘱することができる。ただし、第4条の資格要件を満たす必要がある。
第3章 委員の資格要件・選任
第4条(委員の資格要件)
(1)一般委員
- 当マンションの区分所有者であること
- 当マンションにおいて引き続き1年以上居住していること
- 法人所有の場合、その法人の代表者または従業員は除く
- 暴力団員等の反社会的勢力に該当しないこと
(2)専門委員
- 当マンションの区分所有者であること
- 建築、設備等の関連資格または実務経験を有すること
- 現在、当マンションの大規模修繕工事に関連する利害関係を有しないこと
- 暴力団員等の反社会的勢力に該当しないこと
(3)外部専門家
- 建築士、設備士等の資格を有すること
- 工事業者との利害関係がないこと
- 過去5年間に当マンションの工事・コンサルティング業務に関与していないこと
第5条(委員の選任方法)
- 立候補受付
- 理事会は、一般委員および専門委員の定数枠に応じて、希望する区分所有者からの立候補を3週間募集する。
- 立候補する場合は、理事会の定める様式に従い、自己の経歴や関連資格、居住年数など必要事項を記載のうえ提出すること。
- 選任手続
- 定数内または欠員状態の場合
- 立候補者数が定数以下の場合、立候補者は全員委員に選任される。ただし、第4条の資格要件を満たしているかを理事会が確認し、理事会の決議を経て選任する。
- もし定数に満たない場合は、理事会は追加で候補者を公募するか、または理事会が特定の区分所有者へ就任を打診することができる。
- 立候補者が定数を超過した場合
- 定数を超える立候補があった場合は、原則として総会での投票または理事会による選考により選任する。
- 投票や選考の方法は理事会があらかじめ区分所有者に周知し、公平性・透明性を確保する。
- 理事・監事が一般委員となる場合
- 第3条第3項に基づき、理事または監事が一般委員として就任することがある。この場合も、第4条の資格要件を満たすかを理事会が確認し、理事会の決議を経る。
- 定数内または欠員状態の場合
- 外部専門家の選定
- 外部専門家は、理事会が候補者を選定し、委員会の承認を得る。
第6条(委員の任期)
- 委員の任期は、委員会の設置から大規模修繕工事の完了報告まで、かつ工事に関する会計報告が総会で承認されるまでとする。
- 委員に欠員が生じた場合、理事会は速やかに補欠の委員を選任する。
- 第3条第3項により選任された理事・監事が任期途中で退任した場合は、その委員資格も同時に失われるものとする。
第4章 利益相反の防止
第7条(誓約書の提出)
- 全ての委員は、就任時に以下の事項を記載した誓約書を提出しなければならない:
(1) 現在の職業および所属企業
(2) 過去5年間の大規模修繕工事への関与実績
(3) 工事業者・コンサルタント会社等との取引関係の有無
(4) 実際に居住していることを証明する書類(住民票等)
(5) 暴力団員等の反社会的勢力との関係がないこと - 就任後に新たに利害関係が生じた場合、または誓約書の内容に変更があった場合は、速やかに理事会へ報告する義務を負う。
第8条(委員の権限および投票制限)
- 専門委員は、技術的・専門的な助言を行うが、工事業者の選定等の採決には加わらない。
- 外部専門家は、中立的な立場から技術的助言を行い、投票権は有しない。
- 工事業者の選定は一般委員のみで行う。
- 一般委員であっても、工事業者との利害関係が確認された場合は、該当議案の審議・採決から除外される。
第5章 透明性の確保
第9条(記録の作成・保管)
- 委員会活動の記録
(1) 全ての会議は可能な限り録音し、議事録を作成する。
(2) 工事業者との打合せ等は必ず複数の委員が立ち会い、記録を残す。
(3) 見積書等の検討過程は全て記録し保管する。
(4) 議事録作成や資料管理は、理事会または管理会社・外部専門家と協力のうえ、簡便なデジタルツールの活用を推奨する。 - 情報開示
(1) 委員の経歴・資格情報を区分所有者に開示する。
(2) 定期的に委員会活動報告会を開催し、進捗や検討内容を周知する。
(3) 工事業者選定の経緯を文書化し、区分所有者に公開する。
(4) 希望する区分所有者は、正当な目的がある場合に限り、見積内容や検討資料の閲覧を請求できる。
第9条の2(複数見積の取得と選定手続)
- 工事業者を選定する際は、原則として3社以上の相見積もりを取得する。
- 各業者の見積内容・実績・価格・工事期間・アフターサービス等を比較検討するための評価表を作成し、区分所有者へ開示できる形で管理する。
- 契約候補となる業者が決定した際には、その決定理由・評価結果等を理事会および委員会で承認のうえ、総会に報告する。
- 見積もり依頼や候補業者との日程調整等の事務作業は、必要に応じて管理会社や外部専門家へ委託できる。
第9条の3(工事業者との接触および情報管理)
- 委員会の委員(一般委員・専門委員)は、工事業者との打ち合わせや交渉を行う場合、必ず複数名が同席し、議事内容を記録する。単独での接触は原則禁止する。
- 業者との面談やヒアリングは、委員会または理事会の承認を得て実施し、その結果を速やかに委員会および理事会へ報告する。
- 業者とのメール・電話連絡等についても、極力記録を残し、委員会内で共有する。
- 工事仕様や見積に関する交渉権限は委員会が保有しつつも、最終的な金額・契約条件の確定は理事会の承認および総会決議を経て行う。
第6章 モニタリング体制
第10条(監視体制)
理事会は以下の監視体制を構築し、大規模修繕工事の公正性を確保する:- 委員の利害関係について、少なくとも年に1回は再確認を行う。
- 外部専門家による工事計画の妥当性評価を随時受ける。
- 区分所有者からの意見・質問窓口を設置し、速やかに回答する。
- 利害関係の確認や質疑応答等は、理事会または管理会社が主体的に取りまとめを行い、委員会メンバーの負担を軽減することができる。
第11条(委員の解任)
以下の場合、理事会は委員を解任することができる:- 誓約書への虚偽記載が判明した場合
- 利益相反行為が発覚した場合、またはこれを故意に隠蔽した場合
- 正当な理由なく委員会活動を怠った場合
- 本細則に違反した場合
- 暴力団員等の反社会的勢力との関係が判明した場合
第7章 雑則
第12条(細則の改廃)
本細則の改正または廃止は、理事会の決議を経て、総会の決議によるものとする。附則
- この細則は、○○年○月○日から施行する。
- 本細則に定めのない事項は、区分所有法、当マンション管理規約の定めに従う。
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