第71回 コンパクトマンションを選ぶときの注意点

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このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています

 

 

最近なぜか20代の方からのご相談が続いています。

購入物件の評価依頼(無料)において、いずれも単身の方と見え、検討住戸の広さは40㎡台が多く、広くて50㎡台、つまりコンパクトマンションです。多くは中古物件となっています。これら候補物件の資産価値についてのご心配を綴ったメールが目立ちます。

 

10年か20年で転売する可能性が高いので、10年または20年後の価格を予想して欲しいと筆者が提供している「将来価格の予測サービス」をセットでお申し込み下さる方も重なって、てんてこ舞いの日々が続きました。

急にコンパクトマンションの評価依頼が増えた要因は不明ですが、男性が多いのも最近の特徴です。5年ほど前は圧倒的に女性が多かったのですが・・・

 

今日は、一般論として「コンパクトマンション選びの注意点」をお話ししたいたいと思います。

 

●コンパクトマンションの定義

業界に定着している「コンパクトマンション」の定義は30㎡~50㎡くらいまでの面積の、間取りで言えば、ワンルームよりは広いが2寝室を取るまでの広さはないものとなっています。二人家族が住めないこともない広さの上限と言えましょう。

 

30㎡未満のワンルームマンションと50㎡以上のファミリーマンションとの間に位置づけられますが、目立つようになったのは 1990年代後半くらいからでしょうか、晩婚化と非婚者の増加、女性の社会進出などを背景として単身者のニーズが急増し、マンションデベロッパーとしても無視できない需要ボリュームに拡大したのです。

 

※ちなみに、単身者の市場における占有率はどのく   らいかご存知でしょうか?リクルート社のマンション契約者調査によれば、2015年調査では10.3%ですが、調査開始以来の最高が2004年14.9%でした。このところ減少傾向にあるようです。

 

間取りは広めのワンルームか1DKから、広めでは2LDKとなっていて、デベロッパー各社は単身者ニーズを研究しながら、それに応えようして来ました。

代表的な間取りでは、次のようなものが見られます。

(1)パークコート麻布十番ザ・タワー42.32㎡


キッチンを独立型にしたのが特徴的です。洗面台下部に洗濯機を組み込んで効率的で美しいパウダールームを実現しました。玄関のシューズインクローゼットをはじめ、収納にも配慮していますし、寝室は扉をフルオープンにできるという、秀逸な1LDKプランと言えましょう。

(2)品川イーストシティータワー41.65㎡


リビング・ダイニングとしては狭いかもしれませんが、家具の選び方と配置によっては優雅に過ごすことのできる空間となりそうです。

(1)と違って、玄関から奥が丸見えにならないレイアウトもいいですね。

収納スペースも充実していますし、トイレも浴室と分離されていて良いプランです。

 

●コンパクトマンション今昔

コンパクトマンションという呼び名は誰がつけたのか知りませんが、10数年くらい前から登場して来た形態です。

単身者ニーズとして、従来はワンルームが固定観念のように長く存在していましたが、単身者は元々ワンルームの賃貸マンションに住んでいるので、どうせ買うなら1LDKに住み替えたいという希望を持っていたのです。

金利が低下したことで、比較的所得の低い若手の独身サラリーマンでもワンルームより広いタイプに手が届くようになっていました。

加えて、晩婚化が進んだために若手の年代が20代だけでなく30代前半まで広がって行ったのです。

さらに、男女雇用機会均等法の成立(1985年)以降、女性が腰掛けと考えていた職業意識から脱皮して結婚後も活躍する人が増えたため、所得も男性並みに高くなったのでしょう。1LDKでは満足せず2LDKを希望する人も次第に増えました。

かくして、単身者がワンルームを自己居住用に買う時代は過ぎ去り、少なくとも30㎡以上のコンパクトマンションが単身者ニーズの中心と変化して来たというわけです。

 

●コンパクトマンション2つのタイプ

ところで、いわゆる単身者向きのコンパクトマンションには2つの種類があることを断っておきます。ひとつは全戸がコンパクトタイプで構成された「オールコンパクト」のマンションです。もうひとつは、ファミリータイプとの「混在型コンパクトマンション」です。

 

前者は敷地300㎡前後の小型マンションで、後者は主に超高層の大型マンションに多く、下層階に配置されています。

 

筆者のおススメは後者です。前者の購入に関するご相談には否定的な所見しか出せないことが多いのです。そのことに、いつも心の痛みを覚えます。

 

●コンパクトマンション企画の業界事情

先に述べたように、デベロッパー各社はコンパクトマンション需要が少数派とは言えないボリュームに拡大し、無視できないことに気付きました。

広い敷地が入手できれば、中心需要であるファミリーマンション向けの商品を企画するのが普通です。

ただ、広くてマンション建設に向く用地を取得することは、実は簡単なことではありません。たまに売地情報があっても、競争は激しく、入札になることも多いので買収額はいやおうなく高くなってしまいます。

 

一方、比較的争奪戦の対象になりにくいのが狭い土地です。都心で駅に近いなどの条件はあるものの、取得しやすいというわけです。

広い面積のマンション用地がないから仕方ないね。狭小用地でも買って、コンパクトマンションを造るか。そんな消極的な動機でコンパクトマンションができてしまうことが少なくありません。動機は不純でも、ニーズがあると気付いたマンション業界は、盛んに供給を増やしました。

 

タワーマンションの下層階にずらりとコンパクト住戸を並べたり、駅前の商業地域などの狭小敷地を取得して全住戸コンパクトタイプにしたりと、競い合うように販売しました。

 

オールコンパクトのマンションは、狭小敷地で企画されましたが、回転が速く、リスクの少ない商品と、業界が考えていた節ががあります。大規模マンションは開発時間が長く、土地を仕入れてから販売にかけるまで2年、3年とかかりますが、小規模マンションは開発時間が短くて済むのです。

許認可が比較的簡単に降りることに加えて、商業地であれば、日照権問題などで近隣住民と争いになることも少ないからです。

また、日当たりや見晴らし、環境などの条件もファミリータイプのマンションよりずっと緩やかなのです。単身者は、昼間はいないので、北向きでも一向に構わないわけです。寝るためだけの家という発想で商品化が進められました。

間取りも、ファミリータイプほどバリエーションを設けたり採光を気にしたりする必要もないので、設計時間も短く済んだのです。

 

●コンパクトマンションは割高になる

コンパクトマンションは、土地代が競争で吊り上がらないにも関わらず、価格は高くなるケースが多いのです。その理由は、次の二つです。

1)コンパクトマンションは建築コストが高くつく

説明を平易にするため、70㎡のファミリータイプと35㎡のコンパクトマンションとで比較してみましょう。

70㎡タイプ1戸より、35㎡2戸に切り分けたら、玄関ドアもバスもトイレも、また排水管も、また給湯器やメーター類も35㎡タイプの方が2倍必要です。グレードが違うので、単純にコストが2倍になるわけではないですが、高くつくのは確かです。

 

2)敷地が狭いと工事がしにくいので施工費は高くつく

また、狭小敷地での施工は何かと不自由で、例えば重機やコンクリートミキサー車も敷地内に入れず、敷地の外から使うことになり、資材置き場も工事事務所も敷地外で借りることになります。

 

このように、コンパクトマンションは建築コストが高くなってしまいがちなので販売単価は、どうしても高くなります。結局、同一エリアの平均的なファミリーマンションの単価が@300万円であるとき、コンパクトマンションは@350万円とか@400万円などとなってしまいます。

 

●高くても売れるのは何故

このように明らかに高くなっても、コンパクトマンションを求める買い手は居るものでしょうか?そんな疑問を持たれるかもしれません。

答えは簡単です。@300万円×21坪(70㎡)=6300万円の物件、@350万円×12坪(40㎡)=4200万円の物件との比較はしないのです。つまり、ファミリーマンションとコンパクトマンションは別の市場と考えられるのです。

 

髙いか安いかの判断は、コンパクトマンション同士の比較になるのであり、12坪のタイプを検討する人は、21坪との価格比較はしないということです。

 

ただ、ファミリータイプ混合型のタワーマンションでは、ファミリータイプと変わらない単価でコンパクト住戸が分譲される場合がたまにあります。その場合はお買い得と言えますが、多くは上階のファミリータイプの価格を抑えて下層階のコンパクトタイプの単価を高くするものです。

従って、コンパクトタイプはやはり高いのです。もっとも、タワーマンションの中のコンパクトタイプは、ファミリータイプ購入者と何等の差別を受けずに共用施設と居住者サービスを利用できるのですから、少々髙くても1棟全部コンパクトのマンションよりはるかに値打ちがあると言えるのです。

 

●供給が減ったり増えたり

単身者ニーズがワンルームからコンパクトタイプに移行して行きましたが、やがて供給が減ります。原因は、価格の上昇にあります。最近の価格上昇は、コンパクトマンションも無縁ではありません

買い手は総額で予算を立てるわけですから、40㎡の1LDKが4000万円で買えたのに、徐々に値上がりして5000万円となったため、需要は後退してしまいました。4000万円に抑制すべく面積を30㎡に圧縮する例も表れましたが、受け入れてもらえず、販売にひどく苦労することになったのです。

売れなければデベロッパーの供給意欲も薄らぎます。最近はオールコンパクトのマンションはたまにしか見られなくなったのです。

ときどき見るコンパクトマンションも、ワンルーム混在型で、明らかに投資家を狙っている企画であることが分かります。高くなったからワンルームに戻るという購入者ニーズの逆流はないようで、ワンルーム住戸は賃貸目的の投資家に買われて行きます。

そのことを分かっている売り手は、物件のホームページで投資家向けページを設けたりしています。

 

●オールコンパクトのマンションは小型ゆえに付加価値がない

大型マンションは、その規模が差別化に役立っています。大きいだけで存在感があるからです。

反対に、オールコンパクトマンションは駅前通りなどの便利な場所に建つことが多いのですが、小型であるゆえに目立たない、いわば周囲の建物に圧倒され埋没してしまうのです。

存在感の有無は資産価値にも影響します。

 

また、エントランスやロビーといった共用部分の規模も、全体スケールに比例して小さくなるオールコンパクトマンションは、その面でも「立派・豪華」から遠いものとなります。それが資産価値にマイナスであることは言うまでもないでしょう。

 

●オールコンパクトマンションは居住者層が偏りがちだ

オールコンパクトマンションを志向する検討者は、例外なく所有者が自分と同じ境遇にあることを無意識に望んでいると感じます。同じ仲間がひとつ屋根の下に住んでいる安心感とでも言えば良いでしょうか。

逆に言うと、ファミリ―層がたくさん居住する中に独身の自分が住んでいるのは肩身が狭いという心理なのです。

何となく解かるような気もします。しかし、単身者ばかり肩を寄せ合って住むということではないはずです。同じような境遇の人が多いとしても、ふだん交流があるわけでもないはずです。

交流を後押しするスペースとして「ラウンジ」を設けている物件が見られますが、無用の長物化しているような気がします。

 

それはさておき、様々なタイプの世代・世帯が同じ屋根の下に居住していた方が、災害があったときなどに大助かりだったという話はよく聞くところでもあります。大型マンションだからという意味でもあるのですが。また、様々なタイプの階層が集まるコミュニティ社会こそ普通の姿でもあると思うのです。

 

大型マンションなら、コンパクト住戸も絶対数としては数が多いはずですから、同じ単身者のお仲間を探すこともでき、一石二鳥なのではないでしょうか?

 

●オールコンパクトマンションは管理費が高くなる

オールコンパクトで100戸もある大型というのは滅多に見られません。大きくてもせいぜい50戸程度で、大抵は30戸くらいの小型物件です。50戸と言っても、コンパクトばかりですから、ファミリーマンションの30戸程度と同じくらいの規模です。

 

規模が小さいと管理費が割高になるものです。管理費が高いと売れないと見る売主は、管理人を置かない管理体制にして販売を行います。

管理人がいないマンションは将来どうなって行くのでしょうか?そこに思いを馳せる買い手も少なくはないのですが、数十年後を想像できる人はいないのでしょう。不安に感じながらも、最後は「まっ、いいか」と念頭から外してしまいがちです。

 

●オールコンパクトマンションは賃貸比率が高くなる

コンパクトマンションを賃貸目的で購入する人も少なくありません。どのようなマンションでも、何年か経てば賃貸住戸ができてしまうものですが、オールコンパクトマンションの場合は、最初から賃貸住戸が混在するのです。特にワンルーム混在タイプは、その傾向が強まります。

 

数年すると、賃貸比率が高まります。自己居住だった人が結婚その他の事由で転居し、売却せずに賃貸するからです。

 

分譲マンションでありながら賃貸マンションのようなものになったら、自己居住中のオーナーはどんな感覚になるのでしょうか?

賃貸比率が高いマンションは管理意識が低くなりがちです。賃貸マンション化に伴い、管理状態が悪化する可能性が高まります。オーナーにとって関心が高いのは、賃料が遅滞なく入るかどうかです。管理組合が総会を開いても白紙委任状を出すだけで、管理に関する意識は次第に薄らいで行くのです。

 

転売が繰り返されてオーナーが変わり、現住所も分からなくなっている例があると聞きます。そのようなマンションでは、管理費や修繕費を滞納する人も多いようです。大規模修繕に必要な金額に足らないときの臨時徴収などは不可能で、修繕は先送りされてしまいます。

 

タイムリーに修繕が行われないマンションは、あちこちで不具合が生じ、快適性も見栄えも悪化して行きます。管理人が常駐(日勤)していないために、もともと日常管理に厳しさが足りないため、モラルも低下し、荒れ放題になって行きます。

 

住み心地が悪いマンションに嫌気して転居するオーナーが増えて、さらに賃貸比率がますます高くなって行きます。このような状態が改善されなければ、スラム化の道をまっしぐらに進むことでしょう。

 

管理人がいない、オーナーが居住していない、このようなマンションは資産価値が維持できないのです。その懸念が「オールコンパクト」には当初から顕在化してしまいがちです。

 

コンパクトマンションを買うなら、コンパクトマンション同士の比較をしつつ、できるだけ付加価値のある物件・規模の大きい物件を選択した方が良いと言えます。

 

・・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございます

 

 

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