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数年前から「増えているなあ」と感じて来た直貼りマンション。二重床より部品点数も工事の工程数も少ないので、コストダウンになるのは確かですが、そこには隠れた欠点もあるので、「感心できない」と思っていました。
直貼りマンションは、マンション価格の高騰期には必ず登場する設計・施工の形態ということではなかったと思うのですが、今回の値上がり局面での傾向はコストダウンの象徴である直床構造を選択しながら、他方ではキッチンや洗面化粧台などの設備のグレードは高級マンション並みというアンバランスな新築物件が増えていることに気付きます。
●バリアフリー時代のマンションの構造
昔のマンションはバリアフリーではありませんでした。例えば、廊下から洗面所に入るとき、洗面所側の床が高くなっていました。高くした床の下を排水管などの横引き管を通す必要があったからです。玄関の靴脱ぎ(たたき)と廊下の間にも段差がありましたし、廊下とリビング間にも僅かながら段差があったと記憶しています。
これらが「バリアフリー運動」の中で拒絶され、次第に消えて行ったのです。最近の新築マンションは例外なくバリアフリーです。簡単に言えば、コンクリート面の上に支えとなる脚を何本も立てて、その上に床材を置く形(浮き床と言ったり、二重床構造と呼んだりします)にして空間を設ければ、そこを給水管、ガス管などを通すことができ、かつバリアフリーも実現できます。
二重床にすると、脚の長さだけ天井が低くなってしまいます。天井の低い家は居住性が悪いので、一定の高さを保つには、二重天井を直張りの天井にしなければなりません。しかし、天井は電気配線の都合と遮音のためにも必須です。そこで、階高(コンクリート面と上下階のコンクリート面)そのものを上げる必要が出て来ます。
リビングルームの天井高を2400ミリ確保するには、階高は2900ミリが必須でした。直床なら2800ミリでも天井高2400ミリを確保できます。最近の天井高は2500ミリが標準になっているので、二重床にした場合の階高は2900ミリくらいにする必要があります。
階高を高く取ると、その分コンクリートの量は増えます。
また、建築物には「高さの制限」があるので、階高を伸ばすと15階を建てられるはずが14階で止めなければならなくなったりします。簡単に言えば、100戸建てたいところ、階高を伸ばすことで90戸しか建てられないことになったりします。
1戸当たりの土地代は90戸より100戸の方が安くなるわけですから、デベロッパーは100戸建つように工夫を凝らします。結果的にどんな形になっても、階高を高くすればコンクリートの量は階高の低いマンションより多くなってコストアップは避けられません。
建築費の上昇がマンション価格の高騰につながった過程で、販売不振を恐れるデベロッパーは、コストダウンに懸命に取り組みました。しかし、全体的にマンションの質は下げにくいところがあります。豪華でなくてもいいが、ユーザーニーズに応えて行かなければならないと考えます。先述の「バリアフリー」もそのひとつです。
コストダウンが建物のグレードダウンとすぐ分かるような形にはできないので、最近テレビ宣伝でよく見かける「かんたん携帯」ではありませんが、シンプル設計を取り入れながら機能は一定レベルをキープするといった方法を選択したりします。
目に見えないところで、材料を汎用品にしたり、ある部分の厚みを最低レベルにしたりしつつ、モデルルームの見映えはさほど変わらないような商品に仕上げるといった方法を採用しています。極端には、オプション品(実は別途料金)でごまかすといった窮余の策を講じるケースも散見されます。
今のマンションはバリアフリーになっています。直床構造でバリアフリーにできるのですが、その方法は次の図を見てもらうとお分かりいただけると思いますが、コンクリ―トスラブ自体に段差を設け、下げた部分の空間に配管を通せば可能になるのです。
(画像はインターネット上からお借りしました)
さて、直床構造は生活していくうえで何ら支障はありません。バリアフリーですし、一部天井が低いといっても水回りだけなので、さほど暮らしにくいといったこともありません。では、何が問題なのでしょうか?それを次で説明しましょう。
●直床構造の問題点
購入後、何年かして、リフォームしようかというとき、コンクリートスラブに段差があるため、水回り位置がある程度固定されてしまうという問題が直床構造の欠点なのです。大胆な間仕切り変更ができないというだけのことです。従って、一般ニーズから見て、直床が問題になることは殆どないと言って過言ではありません。リフォーム・リノベーションの市場が大きくなっていますが、直床がネックで中古マンションの値段が下がったという話は聞いたことがありませんし、今後も資産価値(売却価格)に大きな影響を与えることはないと思います。
資産価値を左右するのは別の要素です。直床は枝葉末節の要素に過ぎないのです。しかし、直床のマンションが最近増えたという事実があり、これがインターネット上の論争に発展しているのですが、高級マンションではあり得ない構造であることも確かです。
直床構造は、「廉価版マンションの象徴」とも見なされています。背景には2011年の東日本大震災以降に大きく変わったゼネコン業界の情勢があります。建築費が高騰したため、コストダウンの策のひとつとして採用が増えたからです。
●二重床マンション誕生の経緯
マンションが日本で本格的に普及する前、黎明期の昭和30年代はコンクリート直にカーペットを張り付けた構造だったようです。天井も二重になっていない例が結構多かったのです。直天(じかてん)と呼ぶ形が普通でした。カーペット貼りは、軽衝撃音は響きにくい利点がありますが、ドスンといった重衝撃音には無防備です。
また、給水管やガス管はコンクリートに埋め込む形だったようです。電気配線も天井のコンクリート内部に埋め込んであったのです。
当時は、老朽化したときの配管の交換などは考慮していなかったのです。
このようなマンション供給を続けているうち、騒音苦情に分譲主や施工会社が直面する機会が増えて行きました。
配管のルートも、耐久性を考慮して埋め込みは良くないと気付くようになっていきました。
そして誕生したのが二重床・二重天井という構造のマンションです。
水道管やガス管はコンクリートに埋め込まず、「床ころがし(横引き)」という方法を採るようになりました。電線も二重天井の天井裏を通す形です。
浮き床工法は、当初「根太=ねだ」と言われる角材をコンクリートの上に等間隔で並べ、その上にフローリングを敷くという工法でした。さらに、現在主流となっているゴム付きの鉄脚の上に下地になる板を乗せ、その上に板を張って、更にカーペットを張るという方式でした。
コンクリート直ではないので、床の上で飛び跳ねても騒音は小さいはずだと考えられました。
しかし、実際は空中に浮いているわけではないので、音は伝播します。完璧に音を消すことは今も困難ですが、遮音性の高い材料の開発や施工技術の研究を重ねながら、何種類もの方法が試されて来たのです。
その後、フローリング材が使われるように変化し、その過程で浮き床工法(二重床)が誕生したのです。
絨毯張りは子供の喘息を引き起こすという声が高くなって、今では超高級マンション(二重床の上に絨毯張り)以外は採用例が消滅しました。
そして今日、再び直床工法が現れたというわけです。ただし、絨毯ではなくクッション材付きフローリングに変わったのです。
直貼りにすると、コンクリートに音が直に伝わってしまうので、居住性が甚だよろしくないこととなります。そこで、フローリング材の下、つまりコンクリート床との間にクッション材を入れます。正確には、クッション材が接着されたフローリング材を張っていくのです。
床を二重にすれば手間がかかりコストもかさみますが、直貼りは工程を二つくらいは省いているわけですから、手間もコストも少なくてすみます。
うまい比喩ではないのですが、30工程もあるオーダーメードの背広と工程数が半分もない安物の既製服との差でしょうか?
●直床(じかゆか)のどこが問題か
直貼り床のどこがいけないのでしょうか? 二重床にしないと階下に生活音を響かせるのでしょうか? いいえ、必ずそうなるとも言えないのです。遮音性は、コンクリートの厚さや梁から梁までの長方形面積、施工方法、施工精度など様々な要素が絡み合って差ができるものです。単純にはコンクリート直より、別の素材と空気層をサンドイッチした方が良いに決まっていますが、実際は違っています。
二重床の方が直床より遮音性は高いことを証明するデータはありません。むしろ、直床の方が遮音性は高いというのが一般的です。実際、二重床で遮音性の低いマンションはいくらでもあるからです。
直床構造の最大の問題は、先述のとおり、将来のリフォームが制約を受けやすいということです。つまり、問題点に気付くのは10年以上も先に行ってからというわけです。しかも、大掛かりな間仕切り変更を計画したときに初めて気づくというレベルなのです。
最近、新築より安い中古を買って改造し、自分好みのマンションにしたい夢を持っている人が増えています。いわゆるリノベーションを前提にする人ですが、売却の際、その種の買い手を候補として迎えたと想像してみましょう。
立地条件を気に入り、広さも条件に適っている、価格も予算以内にあるということで商談が進みました。買い手候補は、間取り図を見ながら改造案を巡らせます。その過程で、リフォーム業者と打ち合わせを行います。
そのとき、管理人室に置いてある設計図書(竣工図)を見て、天井の低さや配管ルートの取りづらさなどに気付き、改造プランの実現が困難であると知るかもしれません。
その結果、購入を断念する、売主から見れば客を逃すということになります。結局、間仕切りまではしなくてよいという買い手にしか売ることはできない可能性も高い。そう覚悟しなければならないかもしれないのです。
当然、価格も安くなってしまうかもしれません。
天井が低いと書きましたが、直貼りマンションの殆どは「階高=コンクリート面同士の高さ」が低いのですが、床を高くしない方法によって天井高が確保されているに過ぎません。従って、直貼りマンションをリノベーションで二重床のマンションにするのは極めて難しいことなのです。
また、直張りのフローリング材は、遮音性を高めるためにラバーが張り付けられたタイプが用いられるため、歩行すると柔らかくて沈み込む感じ(ふわふわ感)があり、何となく頼りない印象を受けます。柔らかな床と言えばよいでしょうか。落ち着かないと語る人もあります。
その点、二重床は遮音性を高めるためのコストは増えますが、沈み込むようなフローリング材を採用せずに済みます。床材の選択の幅も広がるメリットが多いのです。
上記以外に、直床は本当に問題ないのでしょうか? 残念ながら、客観的な情報はありません。直(じか)よりは二重にした方が良さそうだというイメージが先行するだけとも言えます。
マンション建築は、商業ビルなどに比べると、細か過ぎて面倒、人手も多くかかり、従ってあまり儲からないので、ゼネコンはできたら請けたくない仕事だと聞きます。
筆者は、マンションが完成したときに行われる内覧会の立会いサービスで沢山の新築マンションを訪ねる機会を持っていますが、行くたびに、日本人の完全主義とでもいうべき微細な製造へのこだわり、完璧な品質の追及に感心させられます。
噛み砕いて言いましょう。内覧会では、小さな傷や汚れ、手垢なども見逃さないように勧めています。無論、筆者も先頭に立って検査しています。
洋服やバッグは、糸がほつれていたり、接着剤が付着していたりすれば、店頭に陳列されることもないでしょう。
マンションは唯一無二の商品であり、かつ工事中の段階で売買契約を結ぶという変則的な取引形態になっています。このため、完成するとともに、商品を陳列し、かつ買い手の検査を経て代金授受と商品の引き渡しという取引の流れが定石となっています。
脱線が過ぎましたが、内覧会で思うことがもう一つ。それは、壁の内側やフローリングの床の下がどうなっているか、一瞥しただけでは誰も分からないということです。
断熱材は設計図通りに打ち込んであるだろうか? 排水管に遮音シートは巻き付けてあるだろうか? 隣の住戸、上下階の住戸との境壁や床、天井の遮音対策は大丈夫だろうか? そもそも設計図通りにコンクリートの厚みは確保されているのだろうか? 鉄筋の本数は足りているのだろうか?
このような疑問を持ったとしても、内覧会では解消することがありません。大きな音を試験的に出すような実験、大量に排水してみるといった試験をするわけでもないからです。
結局、遮音性は住んでみないと分からないのです。売主と施工業者の技術力や品質管理などを信じるしかありません。
そんな中、コンクリートの床にフローリング材を直貼りした構造のマンションは、そもそも「裏側は大丈夫か」の心配をしなくてすみます。
二重床構造は、先述のように、そもそもマンションの欠点とも言える上下階の騒音問題を解決するための策として誕生した経緯があります。
直床から二重床にしても根本解決には至っていませんが、二重床にする方が細部の工法と施工技術によっては遮音効果が高いようだ、加えて二重床の方が別のメリットも多いと分かり、二重床が分譲マンションに定着したのです。最近数年の動きは、時代に逆行していると言えます。残念な流行です。
・・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。