★マンション購入をご検討中の方へ★ このブログでは、マンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンションについての疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介するものです・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
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「専有部分が豪華なマンションを見ましたが、全体的には豪華マンションとは言えない気がして購入を控えています。このマンションの品質がどの程度のものかを教えてください」・・・こんなお便りをいただきました。
そのマンションは、室内のスペックはかなりのレベルにありました。しかし、内廊下の仕上げは安っぽく、共用部全体も貧弱で、建物全体のグレード感は標準を大きく下回るものでした。
このようなケースは今に始まったわけではなく、過去5年くらいの動きを見ていると、新築マンションの設計プランはどんどん退歩して来たと感じているのですが、その背景には価格の高騰があります。
価格が急上昇すると、購買力が追い付かずマンションは売れなくなるので、売主・デベロッパーは、コストダウンや面積の圧縮という策を講じて来ます。このような予言を2013年頃に発言した記憶があります。そのも、コストカットマンションの増加を残念な思いを持ってみてきました。売り手は「背に腹は代えられない」と退歩に目をつぶって商品を世に送り出しています。
今日は、改めてコストダウン策を整理してみました。その箇所が妥協しても良い部分なのか許容範囲を超えていることなのか、ご購入の参考に使っていただければと思います。
●コストダウン策その1・・・設備・仕様の等級ダウン
◇スロップシンクの取り止め
スロップシンクとは、バルコニーに設置する、運動靴などを洗う、雑巾を濯ぐなどに重宝な設備です。この採用を止めれば、水道工事もしなくて済みます。◇ディスポーザーの取り止め
ディスポーザーは各住戸のシンクに設けた生ごみ粉砕機で砕いた生ごみを専用配管で地下に設けた専用の浄化槽に流し、バクテリアに食べさせるという方式の優れものです。これを止めれば、粉砕装置だけでなく、専用の排水管も地下の浄化槽もいらなくなるので、数千万円から数億円のコストカットができます。◇手洗いカウンターの取り止め
トイレには、必ず手洗い装置があります。従来は便器のバック部分にある水槽の上に手洗い用の水栓を設けていましたが、いつ頃からか、便器はタンクレスもしくはタンクが便器の高さと変わらない低いタイプのスマートなものに変わり、その採用と同時に手洗い器を壁際に設ける形になりました。これを止めれば、2本必要な水道が1本で済みますし、手洗いカウンターも要らないのでコストカット効果は低くありません。
◇床暖房の取り止め
その昔、床暖房はランニングコストが高いからと評判が悪く、採用マンションは少なかったのですが、今は大半のマンションに採用されています。床暖房は温水を通す細いパイプがフローリングの下に張り巡らされているのですが、これを止めれば設備代金だけでなく工事費もカットできるわけです。◇複層ガラスの取り止め
複層ガラスは、結露防止になる、冷暖房効果を高めるといったメリットから近年採用マンションが随分増えました。2枚のガラスの内部にLow-eと呼ばれる金属膜を張り付けたタイプと、乾燥空気だけのタイプとありますが、どちらにしても1枚ガラスよりは高いので、これを止めてしまえばコストカット効果はあるわけです。●コストダウン策その2・・・エレベーターの台数を減らす
エレベーターはマンショの戸数によって、また階数によって必要台数が経験則的に決まっています。14階建ての高層マンションで120戸くらいの規模であれば2基が標準とされます。3階建てで100戸のマンションなら1基で間に合います。何故なら利用者数は2階の半分と3階の人たちだけなので、実質50戸のマンションと言ってよいからです。超高層マンションで300戸とかになれば、3基でも足りないので、非常用エレベーター(法律で義務化)も利用するでしょうが、それでも朝は満員通過で5分も待たされるということがあるかもしれません。
5基欲しいところを4基にしたり、4基を3基に削減したりすれば、コストカット効果は間違いなくあるわけです。
●コストダウン策その3・・・鉄骨階段にする
マンションの外階段に注目する購入者は少ないと思うのですが、コンクリート製より、工場生産の鉄骨をトラックで現場に運び込み、コンクリートの外壁や開放廊下に取り付ける工事の方が安上がりです。しかし、鉄骨階段は塗装を繰り返す頻度がコンクリ―製より多いこと、非常階段を上り下りすると音が響くといった弊害があるのですが、コストダウンのために採用しているマンションは少なくありません。
●コストダウン策その4・・・駐車場を平面式にする
駐車場は立体駐車場より使いやすいわけですし、メンテナンスの必要も少ないので、その方が良いのですが、平面で置けるスペースが狭いからこそ機械式にしているのです。つまり、それだけ台数がすくないので、買い手は近所で駐車場を探す必要が出て来ます。大規模マンションでは、平面式だけで駐車場を戸数分用意したというのがありますが、その代わり、緑地スペースが少ないのです。子供が駆け回るようなスペースも狭く、付加価値の低いマンションになっています。
平面式マンションは必ずしも優れているわけではなく、コストカット優先の結果であるマンションかもしれません。
●コストダウン策その5・・・直貼り構造にする
第96回「残念な流行=直貼りマンションに思う」で解説したので詳しくは延べませんがコストカットの代表的な部分です。●コストダウン策その6・・・間取りプランのシンプル化
◇田の字型間取り
筆者が運営する「三井健太の名作間取り選」には、極めて個性的で魅力的な間取りを多数載せていますが、このサイトを立ち上げた本当の理由は、デベロッパー各社にものつくり(間取りづくり)の情熱を思い起こしてほしいためでした。
何故なら、最近の間取りはみなワンパターンで「つまらない」からです。しかし、田の字型の間取りはシンプルでコストダウンにはもってこいなのです。
◇洗濯機置き場の囲いの取り止め
欧米ではキッチンの横に洗濯機が置いてある形が普通なのだそうです。キッチンの天板(ワークトップ)と同じ高さの端の方にドラム式の洗濯機を組み込んだ室内写真は昔から何度も見たことがありました。日本では食べ物を扱うキッチンと汚れものを扱う洗濯機置き場が同じ所にあるというのは受け入れてもらえず普及しませんでした。そこで誕生したのが、キッチンから廊下を経由せずに洗面室に行けるようにして、そこに置いた洗濯機を回す動線にした形、すなわち「キッチン・洗面所直結間取り」です。
ところで、そもそも洗面所になぜ洗濯機があるのでしょうか?洗濯機置き場の周辺は汚れものだけでなく洗濯洗剤やら何やら雑然としています。言い換えれば、生活感がにじみ出る場所です。美しい光景ではないはずです。
それでも風呂に入るとき、脱いだ下着を洗濯機の中に放り込む利便性があって良いではないか、そんな考え方から洗面所の中に置かれているわけです。
ところが、お洒落空間の洗面所と雑然としがちな洗濯機置き場は分けた方がいいだろうと、洗面所の中で「洗濯機置き場」区分する発想が生まれました。
高級マンションでは、洗濯置き場は扉をつけて見えないようにしていますし、そこまでしない場合でも、袖壁を設け洗濯関連のグッズを収納する物入や棚を洗面台から区分するのが定番でした。
そんな配慮は全くなく、洗面脱衣室のどこかに洗濯パンを設置しただけの間取りも少なくない現況にあります。
◇エアコン室外機置場の露出置き
読者の皆さんは、新築マンションのモデルルームを見学するとき、エアコンの室外機がどこに置かれるかという関心をお持ちになったことがあるでしょうか?最近の新築マンションは、写真のような形になってしまうものが多いことをお気づきでしょうか?このようなエアコンの室外機が露出のマンションにがっかりします。以前は、室外機を隠すように半分を囲うという配慮が普通にあったものです。室外機が醜いものとは言えないですが、裸でぽんと置かれている形にデザイン的な配慮は全く感じられません。
最もポピュラーな方法は花台を窓の部分に設けるか、窓を出窓ふうに張り出させ、その下を室外機置場としたものです。これを止めてしまったのもコストダウン策のひとつなのです。
◇アルコーブの取り止め
アルコーブ(alcove)とは、欧州で部屋や廊下など壁面の一部を少し後退させて造る窪みや空間の意味で使っている言葉ですが、これを日本人の誰かがマンションの共用廊下から少し引っ込んだ玄関前の部分を指す言葉として使い始め定着したのです。アルコーブと似たような住宅用語に「玄関ポーチ」があります。これは、建物の玄関前で、壁から突き出た庇(ひさし)のある入口スペースを指します。雨が降った日に傘を持って玄関を出入りするとき、雨に濡れずに済むという機能があります。
一戸建ての外観デザインを左右するポイントのひとつでもあるのですが、マンションの住戸にも門扉と玄関ポーチのついたタイプが見られます。戸建て感覚のプランで、ベビーカーなどを置くことも可能であるといった実用性のある、外部の専用空間です。
アルコーブとポーチの違いは、アルコーブが玄関扉の幅か、少し広い程度の狭い窪みのスペースであるのに対し、ポーチは住戸スパン全部くらいの広い玄関前スペースで、角住戸には門扉を設けてプライバシーの確保に努めたものもあります。
さて、木造アパートや古い賃貸マンションを想像してみて下さい。端から廊下を斜めに見ると、同じ大きさ・色・デザインの玄関扉がずらりと並んでいますね。これを筆者は「のっぺり顔」と言っているのですが、分譲マンションでは凹凸を設けることで、「彫の深い顔」を狙ったものです。
アルコーブを深く取れば、各戸の扉は見えにくくなっています。 その方が賃貸マンションとの差別化になり、憧れのマイホームらしくなるからです。ここがわが家だ。これが顔だというものが商品価値を高めることに役立ったのです。
アルコーブは、玄関扉を開けた瞬間、外出を喜ぶ元気な子供が走って来て扉に衝突するといった事故を避けられるという機能も持つに至ったのです。
そのアルコーブが最近のマンションの一部でなくなってしまったのです。アルコーブ取り止めの理由は、コストダウンのためです。マンション全体にも言えるのですが、凹凸を設けるより、一本の直線にした方が施工上の手間もかかりませんし、コンクリートの量も減るからです。
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大きなコストカット策を使い切ったあとは、細かな部分を削って「ちりも積もれば」式に積み上げながらコストを圧縮するのがマンションメーカー日常茶飯事の作業でもあるのです。
「ディスポーザーを止めよう」は、コストダウン効果が高いですし、天井高を下げれば、その分でコンクリート使用量が減り、それに付随して直貼りの床になるので、これも効果は極めて大きいのです。また、エレベーターを1基減らすと、エレベーターの機械は1000万円に過ぎなくても、エレベーターシャフトの施工費とコンクリートが要らなくなるので、トータルでは2000万円をカットでき、これまた効果が大です。
こうしたコストダウン策は設計段階から取り組むものですが、設計が終了し、ゼネコンとのネゴシエーション段階に入り、予算とのギャップを埋めきれないときは妥協策として設備・仕様の見直しを行います。例えば、キッチンのワークトップを天然石から人工大理石に変更、玄関の踏み込み部分を天然石からタイルに変更、複層ガラスを一枚ガラスにといった、スペックのダウンをして行くのです。
●あとでリフォームすればグレードアップ可能なものもあるが
コストカットマンション、コストダウンマンションを承知で購入する人も少なくないでしょう。何故なら、何もかも揃ったマンション、条件を100%満たすマンションはないのですし、「××部分は気にいらないが、眺望が良いから買う」「●●は好かんが、駅から近くて便利だから買う」といったふうに割り切って買うしかないのですが、妥協してはならない点もあるのです。無視していいのは、室内スペックです。何故なら長く住むならどこかで自分の好きなスペックにリフォームできるからです。といっても、「ディスポーザー」や「スロップシンク」などは後付けできないので注意しなければなりません。
無論、リフォームにはお金がかります。気に入らないから後で変えようとしたら、きっと数百万円もかかってしまうかもしれません。
窓ガラスや玄関扉を交換することはできませんし、廊下のエアコン室外機に囲いをつけるなどということもできません。
筆者は、マンション選びのポイントは何かと問われると、あくまで個人の事情を抜きにした場合ですが、「マンションは街を買う。次にマンション全体を買う。最後は住戸を買う。このような優先順位で考えるべきです」と答えます。
言い換えると、どのくらい人気のある街なのか、そのマンションは地域一番でないとしても、上位にランクされるレベルかどうか、その住戸がマンション内でどのくらい価値あるものか・・・こうした視点を外さないことが重要です。
コストカットマンションでも立地条件がすこぶる良ければ、また規模が大きく地域一番の存在感があれば、価値あるマンションであるかもしれません。
・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。
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