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「ローンが年収の7倍以内なので問題ない。そう考えていいのでしょうか」というお尋ねをいただいたことがあります。年収500万円の人が3500万円以下のローンを借りても大丈夫かというような意味ですが、どうしてこのような質問が出て来るのか。そのとき一瞬そう感じました。
誰かが「年収の7倍以内が安全圏」とでも言ったのかなあ、それとも、どこかの営業マンが「年収の7倍だから大丈夫」などと背中を押したか、そんな疑問が頭をもたげました。
そう言えば、何とか言う評論家が「今の金利は低いので年収の10倍まで問題なく借りられます」などと言っていました。
それを信じてしまう人が今もいることに筆者は俄かには信じがたい想いがしましたが、初めてのマンション購入という若い人の中にはきっと沢山いるのかもしれない、そう感じて本稿を書くことにしました。
●意味のない年収倍率
図表は、首都圏で売り出されたマンション価格と平均年収(内閣府「県民経済計算」による会社員の平均税込み年収)の関係を示したものです。
図表 マンションの価格を年収と比較(2015年時点)
このデータでは、東京都の新築マンション価格は「年収の11倍」を超えていますが、これは計算のベースが「平均年収」の627万円だからです。
実際に都内で6,000万円程度の新築マンションを購入しているのは、年収800万円を超える人が多いので、年収の7.5倍程度に収まっていると考えられます。
買い手個人の立場で言うと、この年収倍率はあまり意味がありません。
親から多額の贈与を受けて買う人は、それこそ年収の20倍という買い物ができるかもしれません。また、頭金をしっかり貯めている人と頭金がない人では、同じ年収でも購買可能額は異なります。5倍かもしれませんし、10倍かもしれません。
また、子供がゼロの家庭と二人要る4人の家庭でも購買可能額は異なるはずです。
年収1000万円の人と500万円の人で比較した場合でも、住居費以外の生活費に充てる費用が年間400万円とするなら500万円の人は住居費に100万円しか回せないが、1000万円の人は600万円も回すことが理屈上は可能です。
子供が私学に通っている家庭と公立の学校に通っている家庭でも違います。
年収の5倍以内で買える住宅づくりを目指したのはバブル末期の宮沢政権でした。地価が高騰し、一般サラリーマンがマイホーム取得の夢を打ち砕かれかかったとき、その夢をかなえる政策をもって国民にアピールしたかったのでしょう。政権は分かりやすいキャッチフレーズとして、「年収の5倍」を使いました。
政府の正式な経済計画として「生活大国5か年計画」に、その目玉政策のひとつとして「大都市圏の勤労者世帯が年収の5倍程度で良質な住宅を買えるようにする」ことを盛り込んだのです。
これが「年収5倍論」としてマスコミで盛んに使われました。
当時の平均年収は500万円。5000万円に上がってしまった分譲住宅は年収の10倍に相当しました。当時は住宅ローの金利が高かったので、サラリーマンは購入を諦めるしかないレベルでした。これを手が届くレベルまで下げることを目指すとしたのです。
その時に誕生した「年収の何倍(年収倍率)」という考え方が今でも生きているらしく、ときどきマンション価格が何倍になりましたと発表する調査会社(上記データの提供者:東京カンテイ)もあります。
年収倍率という考え方や言葉が長い間、独り歩きして来たようです。
●年収倍率ではなく、返済比率で見るのが正しい
年収の何倍かはひとつの目安として使いますが、個人の買い手という立場なら、それよりは年間の返済額が年収の何%に納まるかという「返済比率」の指標を持つ方がよいのです。マンションのモデルルームに行ったことのある人なら、誰もが知っていることだと思います。「資金計算をしましょう」と勧められ、できた資金計画表を手に取ったことを思い出していただくといいのですが、年間返済額000円≦年収の25%のように、返済比率を表示する欄があったはずです。
例えば5500万円を35年返済、金利1.1%の固定型ローン(35年返済)で借りた場合、毎月の返済額は157,833円、12倍すると189万円になります。
年収が1000万円の人なら、返済率は18.9%になります。標準は20~25%なので余裕のある部類に入ると思います。
(年収倍率の考え方で言えば、この人は頭金ゼロなら5.5倍の買い物をすることになります。頭金を500万円入れて6000万円の物件を買うとするなら6倍です)
同様に、4000万円を変動金利0.5%(35年返済)で借りるとしたら、毎月返済は103,834円なので年間は1,246,008円。これを年収500万円の人が利用すると返済比率は24.9%と高くなります。
(年収倍率は頭金500万円で4500万円の物件なら9倍、頭金ゼロでは8培となります)
返済比率が24.9%なら銀行の基準は通ってしまいます。もっと貸してと言えば、年収にもよりますが、多分貸してくれるのです。
しかし、固定金利ならまだしも、変動金利のローンを組んで目いっぱいの借り入れをした場合、給与が急カーブで上がって行く時代ではないわけですし、将来、ローン破綻のリスクを負うことになりますから、無理な借り入れは厳に慎むことが大事です。
冒頭に戻って「ローンが年収の7倍以内なので問題ない。そう考えていいのでしょうか」のお尋ねには、家庭によって生活水準は違うわけですし、問題ないかと問われても短絡的に「大丈夫」とは言えません。家計の状態がどうなっているかを開示していただきながら中長期のフィナンシャルプランを立てることをお勧めします。筆者はそう答えます。
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